メディアグランプリ

75歳の母とPerfume


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記事:西後 知春(ライティング・ゼミ日曜コース)

 
 
「行ってみたい!」
母が初めて言った。
札幌でのperfumeのライブを二枚取った時のことだ。
姉とでも行こうかと。
え! 母さんが! 行きますか!
びっくり。
あんなにちょっと白い目を向けるほどだったのに。
 
私はperfumeファンだ。
ファン歴もかれこれ11年になる。
もちろん、香水ではなく、かしゆか、のっち、あ〜ちゃんの3人で形成されているテクノポップを歌っているあの3人の方だ。
ファンクラブも開始の日に申し込んだ。それくらいのファン。
最初の頃は、あまり情報がなく、色々とネットを駆け巡って情報を見つけていた。
寮に設置されている勝手に配信されている動画では、初々しい姿の動画もあった。その程度しかなかなか情報が受け取れなかった時、何か彼女たちを見られることはないかと探していた頃。
大人たちが色々と動き始めている、という内容のブログを見て、何かが始まるようだけれども、何が始まるんだろう? っと呑気に思っていた。
 
最大のヒット曲「ポリリズム」の直前の動きだったようだ。
とても大きな動きだったように思える文が増えていくなと思っていた。
多分、今まで以上に大人たちが動いていくの見て、高校生だった彼女らに自分たちの覚悟を決めさせる出来事だったようにブログの文章からは受け取れた。
 
はたから見ると、どうしてこんなにハマっているんだろう?
なんだか気持ち悪い。そう思われているかもしれない。そのくらい私はPerfumeにハマっていった。
自分でもよくわからない。でも、見ていると不思議と元気になる。
ただ、そう思って見ていた。
 
彼女たちに会える!
ポリリズムの時の握手会があった。
その頃、北海道の北見市に住んでいた私は、札幌までの300キロ近い道のりを車で向かっていった。
 
すっごくちっちゃい。顔が。で、なんでこんなに細いんだろう?
ちゃんと食べてる? そう心配になる程、細かった。
芸能人とはこんなに細いんだなー、っと思った。
 
ミニライブがある!
なんとか当ててまたしても札幌のペニーレーンというライブ会場へ。
距離にして3メートルも離れていない場所で彼女たちのパフォーマンスを見る。
すっごい。
なんでこんなにダンス、上手いんだろう?
もちろん、パフォーマンスの凄さはピカイチだと思う。
でも、彼女たちの魅力はトーク力にあると思う。
 
ライブは楽しみに行く。笑いに行く。
毎回、大笑いして帰ってくる。
ものすごいストレスの発散度。
こりゃ、やめられないよ。
そして、全国色々なところへライブに参加しに行くようになっていった。
 
そんな姿を見ていた母。
母は、そろばん塾の先生をするほど計算が大好きな人だ。
お金の計算はもちろん得意だ。
確定申告の時は、係りの人がわからないところは代わりに教えてあげるほど詳しい、らしい。
だから、全国色々なところに彼女たちのライブに参加しに行く私を見て。
またお金のムダ遣いをしている!
くらいに思っていたようだ。
そんなことしてないで、きちんと貯めなさい。
私が使うから経済が回っているんだよ! とムキになる私。
その言い合いの繰り返し。
多分、一生母にはperfumeの良さがわからないだろう。
あんな風になりたくない。
それくらいに思っていた。
経済的には一人でやっていけるくらい母は稼いでいたと思う。
そのくらい、時代的に習い事としてそろばん塾は成り立っていたはずだ。
でも、父にべったりと精神的に寄り添っていて。
ちょっと気持ち悪い。くらいに思っていた。
 
そんな母も最近変わってきた。
父が亡くなってからだ。
拠り所が、無くなったのだ。心の。
「父さんがいなくなって、どうやって生きていけばいいんだろう?」
私にメールが送られてきたことがある。
40年以上独りで生活してきた私に送る言葉?
そんなとてもさみしい思いに押しつぶされそうになっている母に私は冷たい言葉であしらった。
そうこうしているうちにだんだんと母は強くなっていった。
色々と自分で動いていけるようになった。
私もそうしてもらえるように動いていった。
 
真駒内アイスアリーナに二人で行った。
最近、真駒内の会場だとめちゃくちゃ前の席が取れる。
しかもアリーナ席。
特に盛り上がる席。
そこに母と私。
ちなみに母は75歳にして初参戦だ。
疲れたら、座ってね。
そう私は言っていたのに気が付いたらずっと立ち尽くしていた母。
踊るライブ会場の人たち。
私も踊る。
ノッテいる母。
トークに笑う私と母。
楽しい。ああ、だからやめられない。
また来なくちゃ。
 
帰り道。
面白かった。また来る。
そう言う母。
 
こんなに人が変わるとは思っていなかった。
人が強くなっていくと言うのを目の当たりにした。
母から教えてもらった。
とても考えられないほど母は強くなっていった。
父がいなくても、なんとか独りで暮らせるようになっていって欲しいと思っていた。
それ以上だ。
ちょっと嬉しくもあり。いや、驚きの方が大きい。
母よ。変わりすぎだよ。
一時期は結構心配してたのに!
ま、元気になってくれるのは何はともあれである。

 
 
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2018-11-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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