パグの異常な愛情と電信柱に感謝した朝
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記事:あかばね 笑助(ライティング・ゼミ日曜コース)
「うわー! ヤバイ! どうしよう……」
外は台風の通過中だった。
強風が吹く。
パニック映画のような風の音。
耳栓しても聞こえそうだ。
「……お願い! 頼むからガンバッテ! 頼む……」
私は家の中から電信柱に向けて祈りを捧げていた。
飼っているパグを抱きしめながら。
オスのパグを飼っている。
名前は「オニギリ」である。
ペットショップで会った時、一目惚れした。
小さな薄いピンク色のお腹を出して、
おむすびのようにコロリンと転がって寝ていた。
だから「オニギリ」という名前を付けた。
「パグ」という名前は、ラテン語で「握りこぶし」からきている説もあるので、
適当に付けた名前の割には、なかなか的確な名前だったと、自画自賛している。
私は今年53歳。彼は9歳。犬の9歳は、多分、私と同い年くらいなので、
おじさんがおじさんを飼っていることになるが、
この犬のおじさんは愛され上手で、私を夢中にさせてくれる。
「パグ飼い」はパグしか飼えなくなると聞いたことがあるが、真にソレ。
愛情のポテンシャルが異常に高いのだ。
「好き好き好き! いつも一緒にいて!」
と、彼からいつも言われている、そんな意味合いの仕草をする。
私が「ただいま~」とドアを開けた時、彼は部屋の奥のゲージの中で、
背中を丸めて「大」をしていた。
「ハッ!」
彼は私の存在に振り向きざま気が付くと、一刻も早く近づきたくて、
「大」をしながら私の元に歩いてきた。
私は私の人生において、こんなにも「会いたい」という表現をされたことはない。
しつこい程の過剰な愛情表現の日々である。
だけど、彼と一緒に寝ていて、彼の人間のようなイビキを聞かないと、
寝つきが悪くなってしまった自分がいる。
私の方が飼いならされたのかもしれない。
パグの弱点は主に二つある。
「肌」と「暑さ」である。
気を付けていても、肌のトラブルは年中抱えている。
そのために高い高~いシャンプーを買わなければならない。
もう一つが暑さに弱い。
夏は24時間、冷房をつけっぱなしで、パグにも個体差があるのかもしれないが、
我が家の温度は絶えず「23度」である。
じゃないと彼が暑がるからだ。
人間の私には少々寒いが、彼のためなら仕方ないと思っている。
しかし、仕方ないでは済まされない問題がある。
「停電」である。
これだけは個人の力では、どうしようもない!
その危機が9月の台風だった。
かなり強力な台風が来るとの情報だったので、会社から早めに帰宅し、
ゴジラが来るつもりで、心の準備をしていた。
取りあえず「お願い! 埼玉通過しないで! お願い!」と台風に祈ってみたものの、
埼玉、予想進路のかなりストライクゾーンであること変わらず。
諦めて私は雨戸を閉めた。
台風は夜中に通過するとニュースで予報していた。
うーん……不安だ……眠れない……。
起きていることにした。
徐々に外も風の音が騒がしくなってきた。
もし停電になったら……とシミュレーションしてみた。
アイスノンのオデコ用を彼の首に巻き……。
冷静に対応できるか不安になってきた。
そして、いよいよ台風が埼玉に上陸した!
外は風が家ごと飛ばしてしまうような轟音。
「どうしよう……ホントに今回やばそう……」
不安に心を支配されそうになった。
することもないので祈ってみた。
「電信柱くん! お願い! ガンバッテ! 頼む!」
10分くらい祈っただろうか、心が少しだけ静かになり、いつの間にか眠ってしまった。
気が付いたら朝だった。
停電も無かった。
ホッとした。
その2日後。
夜中、2時半にトイレに行った。
用を済ました途端、電気がプツンと消えた。
「あっ! 停電だ」
エアコンも止まったが、気温が一番低い時に止まってくれた。
電力会社に電話したら、6時には復旧しますと言われてホッとした。
実際には5時頃に復旧してくれた。
部屋の灯りが点いた時、気が付いた。
祈りを電信柱が叶えてくれたのかも!
台風の真っ最中に停電したら、私はパニックになっていたかもしれない。
台風の2日後、日中だったら冷房無しではいられない気温だったが、最低気温の時間帯に停電してくれた。
電信柱が言っている気がした。
「ボ、ボクはガンバリました……今ならボクが壊れてもダイジョウブかな……」
何だか、私は感謝の気持ちでイッパイになった。
外に出て、思わず電信柱をハグ。
「ありがとう……ありがとう……よくガンバッテくれたね。ありがとう……」
明け方、私は電信柱を愛する、明らかに不審者になった。
ただの偶然かもしれない。
構わない。
だとしたら私は、そのただの偶然に感謝する。
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