眼の前のニンジンかと思った宝くじは、文殊菩薩の手だった
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:いづやん(ライティング・ゼミ日曜コース)
「お客様がご購入された第1045回BIGが見事ご当選です。おめでとございます」
こんなメールがある日届いた。
スパムか? いや違う、このメールには心当たりがある。
「いつか、宝くじが当たって人生変わりますように」と思って、僕は毎週サッカーくじである「BIG」を、自動で買い続けている。
その当選を知らせる、メールだ。
うとうとしながらスマートフォンでメールを開いた僕の目が、倍に見開かれる。即座に体を起こしPCを立ち上げて、「totoオフィシャルサイト」にアクセスし、何等が当たったのかを確認する。
ユーザーページのへのアクセスは、パスワードを忘れていて手間取った。一刻も早く結果を知りたいのに!
なんとかパスワードを思い出し、当選結果が見られるページに辿り着く。深呼吸して当選結果の表示を「リッチモード」にする。
勝ち・負け・引き分け、のサッカーの試合を、上から順にもったいぶって表示するモードだ。
「よし、よし、よし! ……ああー……!」
4試合目にして外した。あとは最後に進むつれてさらに4試合ほど外した。
「6等当せんです!」
当選金300円。一口300円のBIG。プラマイゼロじゃないか。
うん、知ってた。そんなに簡単に当たるはずがないじゃないか。
サッカーくじ「BIG」は1口300円。Jリーグなどのサッカーの各試合の勝敗を、機械がランダムで振り分けたものが買える。自分で試合結果を予想して埋めていくtotoと違って、完全に運任せの「宝くじ」だ。
ただ、メリットはある。完全に運任せの宝くじなので、1等が当たった時のリターンは大きい。5億円ほどがもらえることもある。
予想をする必要がないので、totoオフィシャルサイトで会員登録をし、手続きをすればJリーグの毎節ごとに設定した口数を自動で購入してくれるのだ。ズボラな自分にはうってつけだった。
もしかしたら、明日、突然人生が変わるかもしれない。そんな夢と希望を抱きながら毎日を過ごすのもいいじゃないか
……なんて前向きなことなんて実際にはなくて、「なんとかして毎日の憂鬱な現実から逃れたい」という気持ちを表すような行動の一つだ。
「はぁ〜、やっぱり当たっても5等か6等だよなあ……」
さっきまで震えていた手も今はおさまり、モニターを見ながらため息が出た。
「しかたない、やっぱりコツコツ生きていくしかないんだよなあ」
そんな当たり前の言葉が口から漏れる。
もしかしたら、もしBIGの1等が当たったら。
仕事を辞めて好きな旅に思う存分行ける時が来るかもしれない。ライフワークである日本の有人離島410余りの制覇も3年で終わってしまうだろう。
今よりもっと広いところにだって住めるだろう。豪華なリビングに書斎、庭でバーベキューできるな!
カメラも買い換えられる。フルサイズのボディを買い、F2.8通しのレンズをずらっと揃えてドヤ顔も可能だ。
Jリーグの試合がある水曜日、土曜日の翌日はそんな夢想が頭をよぎる。いつか、億万長者になる番が自分にも来る。
だが、現実はそんなに甘くなかった。この日のように「当たっても数百円」なのだ。
「さて、いつもの仕事をして、自分のスキルを伸ばすようまたコツコツやりますか……」
また地道に頑張る日々が始まる。当たり前の日常だ。当たった! と思わずテンションが上った後の気持ちの下がりっぷりは、僕に今の自分の現実に向き合わせる力だけはあった。
やりかけで放置していた仕事や自分のプロジェクト、行こう行こうと思って先延ばしにしていたセミナー。BIGが当たったらやらなくてもいいと思っていたものばかりだ。そんなことあるわけないのに。
「いい加減、BIGの定期購入やめようかな……」
そんな気持ちにもなる。300円 ✕ 2回 ✕ 4週間 =2400円。これが毎月のBIGにかかっている費用だ。ランチなら結構豪勢なものが食べられる金額。それも月一回。
数年買い続けているので、総額は数万になっていると思う。もちろん当たってもいないので、合計はマイナス。
「はぁ……BIG当たらないかな」
前回の当選の盛り上がりも数ヶ月前のことになると、朝、そんな独り言がため息とともに出てくるようになる。わりと毎朝。仕事の頑張りも、個人のプロジェクトもどんどん低空飛行になってくる。
そうすると、なぜかBIGが当たる。
「はて、この感じどこかで……」
そうか、これ、坐禅の時に肩を叩かれる「あの棒」と同じだ!
気が緩むと「すぱーーーん!」とやられるあの棒!
「当たったー!!」と目を覚めるような思いをさせておいて、その実、見開いた目に「現実」をごりごり突っ込んでくる。
もしかして、BIGを買い続ける効用って、「当たらないこと」なのではないか。
気の緩み、目標への怠惰な気持ちに「すぱーーーん!!」と喝を入れて、現実に引き戻してくれる棒。そう考えると、BIGを買い続けることもそんなに無意味だとは思えなくなってきた。
「やっぱり、一発逆転なんてありえないから、またコツコツ積み重ねる人生に戻ろう……」なんて思い直させてくれる棒が、僕にとっての宝くじであり、BIGだったのだ。
「人生そんなに簡単に諦めるな」という喝が自動的に入る仕組み、欲しくないですか? それならBIGを定期購入するといい。
ところで、例の棒、その名を「警策(けいさく)」と言って、文殊菩薩の手の代わりで、警策で打たれることはつまり「文殊菩薩の励まし」だという。
BIGが実は文殊菩薩の手、と考えると、6等300円の当たりも、大変ありがたいと思えてくるから不思議だ。
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