メディアグランプリ

スマートフォンの七変化


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記事:すずき あゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「あれ、スマートフォンがない」
わたしはさっと血の気が引くのを感じた。
そして慌ててポケットの中を探る。手に触れたのは、ボールペンやメモ帳、コンタクトレンズのケースだけ。
 
ない。ないのである。
 
さっきまでそこに入れておいたはずの四角い電子機器が。
記憶をたどる。つい先ほど上司からの連絡に返信をした。ということは、どうやら家に忘れてきたわけではないらしい。職場に到着してからわたしが歩いた道や、ぱっと置きそうな場所を
一周見て回る。やっぱりない。
 
ああ、そっか。
 
そこでわたしはあることに気付いて、ほっとした。
まだ見ていない場所がある。
着てきたコートのポケットの中だ。
思い出せてよかった、そう安堵の表情を浮かべながら、ハンガーにかけてあるコートに手をのばす。
ポケットの中身が空っぽであることを確認すると、再度わたしは血の気が引くのを感じた。
 
 
このような経験は、誰もが一度はしたことがあるのではないだろうか。
結局このあと、わたしのスマートフォンは無造作に置いたプリントの下から見つかった。
ただ隠れていただけで、わたしがぐるぐる探している間もずっとそこにあったのだ。
「まあきっとすぐに見つかるだろう」と思いながらも、わたしはずっとそわそわしていた。
別に今すぐ必要なわけではなかったのに、である。
 
スマートフォンは、言ってしまえばただの電話だ。
しかし、今は電話以外の機能が山ほどついている。
スマートフォンは電話でもあり、カメラでもあり、地図でもあり、映画館でもあり、ショッピングモールでもある。使う人によって、それ以外にももっと意味をもつ存在になりうる。
電話以外の用途がこれだけあるなんて、当時電話を発明したベルが知ったら、卒倒しそうである。
 
 
以前上海に旅行に行った際に、思わぬ災難にあった。当時日本に台風が接近していて、乗るはずだった帰りの飛行機が欠航になってしまったのだ。
本当は真夜中の飛行機で、明け方には羽田空港に到着する予定だった。
その飛行機が飛ばないことを知らされたのは、フライトの10時間前。
わたしたちは、まだまだ上海の街中を観光中だった。
一緒に行った友人によれば、
「格安航空だから、他者線への振り替えができないんだよね。同じ航空会社で便を変更するとなると、明日の同じ時間、真夜中に出発する便しかないし。どうしよう」
とのことだった。
 
今から24時間以上も上海の空港に缶詰にされるのはまっぴらごめんだ。
わたしたちは慌ててスマートフォンを開く。そして、明日の昼間には出発できそうな飛行機を探した。
しかし、途中で新たな問題に気付いた。
 
「どうしよう、充電、そろそろなくなるかも……」
 
友人はそう言って、手元にあるポケットWi-Fiを指さした。
この国では、VPN付きのポケットWi-Fiが無ければ、わたしたちのスマートフォンはただの鉄の塊になってしまう。インターネットにつなげなくなってしまうのだ。
急いで日本にいる友人の父に飛行機検索の協力依頼をし、わたしたちは必要以上にスマートフォンに触らないように気を付けた。
 
結局、友人の父が見つけてくれた飛行機で、翌日無事に日本に帰ってくることができた。
今となっては笑い話だが、当時は異国の地で誰とも連絡がつかず、飛行機の予約もできず、露頭に迷ってしまうのではないかとヒヤヒヤしながらWi-Fiの残りの充電を見守ったものだった。
 
このとき、スマートフォンはわたしたちにとって命綱だった。
インターネットにつなげなくなった瞬間にただの四角い箱になってしまう、この小さな電子機器に、わたしたちの明暗は委ねられていたのである。
 
 
スマートフォンは、電話でもあり、カメラでもあり、地図でもあり、映画館でもあり、ショッピングモールでもあり、命綱になることもある。
それ以外にも、様々な役割を演じてくれる。
 
まるでわたし専用の秘書のように、朝はアラームで起こしてくれるし、カレンダー機能は今日の予定を教えてくれる。お昼になれば「ランチ おすすめ ◯◯駅周辺」と検索をするだけで、ご丁寧に営業時間や人気のメニューまで一瞬で調べてくれる。本当によくできた秘書である。
かと思えば、気の置けない友人と過ごすかのように、朝まで一緒に夜更かしをすることもあるし、日記のアプリはわたしの溢れる思いを何も言わずによしよしと受け止めてくれる。
 
そんな七変化を遂げるスマートフォンだが、わたしにとっては、よくできた妹のような存在だ。
 
アラームをきちんと止めきっていないと、
「お姉ちゃん、まだ起きないの?遅刻しちゃうよ」
としつこく何度も鳴らしてくれる。
 
方向音痴のわたしのために、
「ここを右に曲がってね。そのあとはまっすぐだよ」
と、道を教えてくれる。
 
かと思えば、
「もう疲れたから寝るね。あとは1人で頑張って」
と、わたしが困っていようがお構いなしに充電不足になる。
 
なんでこんなときに、と思うこともあるけれど、それまで頼りっぱなしだったのだから仕方がない、と充電器を差す。
わたしはいつも、この優秀すぎる妹に頭があがらないし、いなくなられては本当に困る。
だからこそ、迷子になられるとそわそわ心配になるのだ。
 
最後にひとつ、聞いてみたいことがある。
あなたにとってのスマートフォンは、どんな存在?
 
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2018-11-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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