「魔法の言葉」と名医
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小林 蝉丸(ライティング・ゼミ日曜コース)
15年ほど前に、原因不明の酷い皮膚病に悩まされていた事があった。
それはある日、突然やって来た! 最初は両こめかみの辺りに赤いポツポツが出て来たなと云うレベルであったが、やがて吹き出物の形をとり噴火し、大変みっともない状態になった。
加えて、その皮膚病は歴史の教科書のアレクサンダー大王の東方遠征の様に、こめかみから唇へ遠征してそこを征服した後に、何と上半身までをも無数の赤い斑点で埋め尽くしたのだ。
上半身の小火山はあちらこちらで噴火して下着は汚すが、人目に付かないだけマシだった。
問題は顔面の火山群でこれらは隠しようがなく、アレクサンダー大王の偉業を臆面もなく他人様に見せつける事となった。
勿論、私もただ手をこまねいていた訳ではなく、大阪で評判の皮膚科の門を叩いて「反撃」の狼煙を上げるのだが、いつもそれらは返り討ちに遇うのだった。
つまり一旦は強力な援軍(投薬)により、敵を「追放」したかの様にみえるのだが、その後必ず「前よりも酷くやられる」のだ。「徒労」を感じつつ更なる援軍を求め医者を転々としている中、見かねた親から「宝塚に名医がいる」と教えられ、藁にも縋る思いで頼る事にした。
但しその先生は「大変な名医」であるらしく、「京阪神」中から患者が集まって来るので待ち時間が半端なく4時間~6時間待ちはザラとの事。不幸中の幸いは親が宝塚市内在住だったので、(ズルなのだが)朝7時には診察券を出して番号券を貰い、私は12時過ぎに行って親から番号券をゲット。名前を呼ばれる1時~2時位に診て貰う事が出来ると云う算段だった。
初回の時のその先生の印象は忘れられない。
私はそこにかかるまでの、半年から1年程の間に3軒以上の皮膚科を回っていた。
「今回もまた駄目なのかもしれない……」と思いながら、看護師さんに呼ばれて入った診察室で見た先生は「鶴」の様に痩せていて、皮膚科なのに手の指先が皮膚病にかかった爪で、凡そ「名医」のイメージではなかった。
先生は私の発病から今までの通院履歴、処方された薬の名前を黙って聞いて、アレクサンダー大王にやられた身体をすみずみまで観察した後、こう言った。
「これは必ず治ります!」
「えっ、本当ですか?」
「はい、ただ現在服用されている薬は止めて頂き、この無色ワセリンだけだけで行きます」
「そんな事をすれば、より一層見っとも無い状態になってしまうのではないですか?」
「その通りです。しかし、それは最初の1ヵ月だけで、その後は必ず良くなります。そこで小林さんが今まで服用されていた薬よりも更に強力なお薬を使って、言わば消火します」
「……」
「私は今まで同じような症状を何人も治して来ました。私を信じて従って下さい」
「分かりました」
有能なビジネスマンの様に雄弁でもなく、今日初めて会った医者にそう言われただけなのに、
何故か信じてみようと思った。それは、その先生の醸し出す雰囲気もそうなのだが、兎に角、
病院の雰囲気が良かったのもあった。施設は旧いが清掃は行き届いていて、看護師の人達も
テキパキと働いていて活気がある。何よりも先生の労働時間が長い!
母が診察券を出した朝7時~午後2時位までお昼ご飯も休憩も取らずに働いていらっしゃる。
「この人達を信じてみよう」と云う気持ちになったのだ。そしてその後、看護師さん達には
上半身に出来た小さな活火山に1つずつパッチと云うバンソコウの様なものを貼って貰って
その日の診察は終わった。小1時間はかかっただろうか?
なのに精算は1,000円もしなくて、申し訳なくて個人的にお支払いしたくなった位だった。
結果論から言うと、1年以上私を悩ませた皮膚病は2カ月も経たない内に完治した。
それは正に「奇跡」と呼べる様なものだった。
ただ今になれば解る。そもそも患者である私に病に対する「我慢」が足らなかったのだ。
皮膚病は薬が進化しているとは言え、一朝一夕に治る様なものではない。
あの先生の元に来る患者さん達は、私を含めて何軒も医者をはしごして「裏切られて(と思って)」たどり着いた人達が多数だった。
先生はそれらの人達の身体に対して、一旦「リセット」をして、薬を再び受け入れられる状態にしてから「劇薬」を投下。最大の効果を得ていたのだ。
でも、何よりも効いたのは「この病気は必ず治ります!」と云う言葉だった。
病気をして身も心も傷ついた私を含めた患者さん達にとって、「必ず治る」「こうすれば治る」と云う言葉は「魔法の言葉」なのだ。
私達はいつも「魔法の言葉」を求めている。
「魔法の言葉」だけでは名医とはならないが、「魔法の言葉」を吐けない名医も居ない。
私は15年前にそう学習したのだ。
あなたが病気になった時、「魔法の言葉」を言ってくれる名医に巡り合えます様に!
***
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。
「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
http://tenro-in.com/zemi/62637
天狼院書店「東京天狼院」
〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
東京天狼院への行き方詳細はこちら
天狼院書店「福岡天狼院」
〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
天狼院書店「京都天狼院」2017.1.27 OPEN
〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
【天狼院書店へのお問い合わせ】
【天狼院公式Facebookページ】
天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。