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クリスマスプレゼントで子供に金銭感覚をしつける方法


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記事:土谷 薫(ライティング・ゼミ 平日コース)
 
私は両親から勉強しろと言われたことは一度もなかったし、習い事も自分でやりたいものを自由にやらせてくれた。
そんな両親がこれだけは厳しかったと思うのは、箸の持ち方、歩き方、そしてお金の使い方である。

箸の持ち方と歩き方は、ちゃんとできるようになるまで何度もしつこく注意され、妥協は一切なかった。
箸は持ち方レクチャーが毎食あり、それ通りでないとすかさず注意され直される。まだ子供で筋力も不足しているから、食事中ずっとそれを保つことは難しいが、容赦はない。
歩く方は特に父がうるさく、少しでも音を立てて廊下を歩くと、戻ってやり直しをさせられた。体育会系かと思う厳しさだった。

しかし、お金の使い方については、少し違った。特に父は私に甘かった。
母に言って買ってもらえないものでも、父に言えば買ってもらえることを経験上知っていた私は、父と出かけるときを狙っては欲しいものをねだり成功していた。買ってもらったおもちゃを嬉しそうに持って帰ってきた私を見て、母は父を睨んでいた。そしてそのあともれなく両親がもめることも私は知っていたのだ。まだ小学校に上がる前、なんと計算高い子供だったのか。
同居していた祖父は輪をかけて私に甘く、私が欲しいと言う前に先回りして、お人形セットや漫画や、私が喜びそうなものを次々と買ってくれていた。
その当時私は「お金」の存在は知っていたが、それがいったい何を意味するのかを全く理解していなかった。

秋祭りには、毎年近所の神社に行くのが恒例で、たくさんの屋台を楽しみにしていた。ある年、仲良しの子たちと秋祭りに行きたいと母に頼み、生まれて初めてお小遣いをもらって子供達だけで神社に行った。
私は子供用の手鏡か何かを気に入って、友達とお揃いでそれを買い、母に見せようと急ぎ足で家に帰った。

母に手鏡を見せて、一通り秋祭りの様子を話したところで、母は私に訊ねた。

「お釣りはどうしたの?」

「……?」

「これ、200円って書いてあるから、お釣りあったよね? お釣りってね、お金の残りのことだよ」

「それなら全部神様にあげてきた!」

母が時間をかけて聞き出したには、私は、もらったお金は全部使い切るものだと思っていたらしい。残りは、賽銭箱に全部入れてきたと。神様への奉納だから、叱るに叱れなかった母は、しかし、私にお金というものの意味をどこかでしっかり教えなければと、このとき決心したようだ。

小学校3年生になり、毎月お小遣いをもらえることになった。今となっては何か覚えていないが、すごく欲しいものができた。でも、お小遣いでは足りなかった。
その時、私はいいことを思いついた。来月分と再来月分を、先にもらえばいいんだ!
お金を貯めてから買う、という発想はひとかけらもなかった私は、母に「前借り」を頼んだ。
母は、わかったよと言って先にお小遣いをくれた。

そして次のお小遣いの日。私は先にお金を使っているのだから、もらえるはずはないのだけれど、そんなこととうに忘れた私は、お小遣いをくれない母に訊いた。

「今日お小遣いの日だよね」

「そうだね。でも今月分は、もう先に渡したよね」

「(はっ、そうだった。)でも、漫画買えない……」

「どうしても欲しい? そしたら、再来月分をまた先に使っちゃうことになるよ。来月も再来月も、お小遣いないけどいいの?」

「うん、それでいい! 今月ちょうだい」

私よ、なんてバカなのだ。問題を先送りしてどうする。
目先を優先した私は、また前借りを重ねたのであった。
そしてこの小さな自転車操業は止まることなく続き、季節は冬になった。私の前借りは、3000円くらいになっていた。

毎年クリスマスには、大きなツリーとホールケーキとプレゼントのおもちゃがとても楽しみだった。
「サンタはいない」と教えられていた家だったので、プレゼントは父が手渡してくれるのが決まりだった。が、この年は、母からだった。

「はい! 今年のプレゼントだよ」

と言って母がくれたのは、小さなチョコレートの詰まった透明な袋だった。
明らかにいつものプレゼントよりしょぼいそれを見た私はびっくりした。びっくりして、チョコレートの袋と母の顔を何度も交互に見た。

母は笑顔を崩さず、でもしっかりした口調で、私が借金をしているからその分を引いたプレゼントであること、借金があるにもかかわらず、我慢できずお小遣いをもらい続けるから借金が減らないこと、借金を続けると心が麻痺をして、どんどん積み重なっていくことを、私に淡々と説明した。実際、私は半年分のお小遣いを前借りしている状態だったが、なんの意識もなかった。
母は「借金」という言葉を何度も使った。それは私の心にずしずしと刺さり
私は泣いていた。泣きながら、これからはもう絶対に借金はしないと、幼いながら心に誓った。

子供の頃体に叩き込まれたことは決して抜けないものだな、と思う。
私はとても美しく箸を使い、音を立てずに歩くことができ、そして借金が本当に苦手になった。欲しいものがあったらまずお金を貯めてから買う、そんなまっとうな感覚を仕込んでくれた母に感謝である。
 
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2018-11-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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