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猫又になったらまたおしゃべりしようね


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:しゅん(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「昨日、お母さんがひなさん病院に連れてってくれたじゃん?」
 
朝起きた途端、お父さんが話しだした。
ひなさんは、うちの13歳の猫さんだ。
 
「うん」
 
あれ? お父さん泣いてる?
 
「実は相当悪いらしくて、もう長くないんだって……1週間持つかどうか……今のうちに撫でてあげて……」
 
えっ、昨日病院から帰ってきた後、元気そうに廊下をうろうろしてたじゃん……
たしかに、最近元気なかったけど……
 
目の前が涙でぼやけて見えなくなってきた。
 
ひなさん……
 
ひなさんは、私が生まれた時にはもうお家に居たらしい。
猫は25年生きると猫又って妖怪になるんだよってお母さんが言ってた。だから、まだまだ一緒だと思ってた。
 
ひなさん死んじゃうの?
 
ぐったりして動かない、ひなさん。
ごはんもお水も自分で取れなくなった、ひなさん。
時々トイレに行こうとよろよろ歩き出すもののトイレに入る前に力尽きてしまう、ひなさん。
 
ちょっと前まであんなに元気そうにニャーニャー鳴いてたのに。
 
「写真を撮ろう」
 
お母さんが言い出した。こんな時に写真?
 
「病院の先生にね、言われたんだ。猫ちゃんだけの写真はあるだろうけど、家族と一緒の写真を撮ってあげてくださいって。確かに家族と取った写真ないよね」
 
そこからみんなでひなさんと一緒に写真を取った。
みんなの顔、涙でぐしゃぐしゃだ。
 
でも、ひなさん死なないで。1日でも2日でもいいから長く生きて。みんな口々にいいながら順番にひなさんのそばに行って、なでた。
 
私も横になって、ひなさんと同じ目線になってなでた。
浅い呼吸を繰り返すひなさんをなでているうちに、泣き疲れて眠ってしまった。
 
—-
 
ふと目を覚ますと、目の前にひなさんが居た。
あれ? でもひなさん随分大きくなったね? 私と同じくらいじゃない?
 
ひなさんと目が合った。
ふぁ〜あぁ〜と大きなあくびをした。
 
「よく来たねぇ」
 
ひなさんがしゃべった!?
 
しかもおばあちゃんみたいな声だ。たしか、猫の13歳は人間でいうとおばあちゃんだってお母さん言ってたな。
 
「猫又になるまで待つつもりだったんだけど、体力的に持たないかもしれないから、今のうちに言っとこうと思ってねぇ」
 
「ひなさん、死んじゃうの?」
 
「どうだろうねぇ? 生きるか死ぬかの間にいるのは確かだね。まぁ、こればっかりは神のみぞ知るってやつさ」
 
「そうなんだ……」
 
ひなさんは、ふぁ〜あぁ〜とまた大きなあくびをした。
 
「あんたらが順番になでに来るから、おちおち寝てられなくて寝不足だよ。まぁ体の具合悪くて寝られないんだけどね」
 
そういえばずっとぐったりと横になってたけど、半目で寝てはいなかったな。しんどくて寝られなかったんだ。
 
「それで言っときたいことって、何?」
「ああ、お前さんが昔から自信なさそうなのがずっと気になっててね。なんとかしてやりたいってずっと思ってたんだよ」
 
お父さんお母さんにもたまに言われてたけど、ひなさんにまで心配されてたんだ。
 
「そんなこと言われても、私できないだもん。自信なんかないよ」
「なにができないんだい? 誰が決めたんだい? 誰かに言われたのかい?」
 
「なにが? って言われても全部だよ。誰かに言われたわけじゃないけど、周りの人みんなできるし、私には無理だよ……」
「やれやれ、人間は変なことを気にするねぇ」
 
後ろ足で耳の後ろをカリカリしながら呆れたようにひなさんは言った。
 
「変なことってなにがよ?」
 
ムっとして思わず口を尖らせて尋ねる。
 
「お前さんは、私が何かできるから可愛がってくれてたのかい?」
「そんなわけないじゃん。ひなさんはなんにもしなくても可愛いし癒されるよ。ゴロゴロしてそこに居てくれるだけでいいよ」
「私が、他の猫にできて私にできないことで悩んでるように見えたかい?」
「ううん。ひなさんはいつも幸せそうに見えたよ」
 
ひなさんが無言でこちらをじっと見つめてる。
 
「だって、猫だもん!」
 
思わず叫んだ。
 
「猫だって人間だって一緒だって思わないかい? 何が違うんだい?」
「違うよ、全然違う!」
「何が違うんだい?」
 
言葉がでてこない。そう言われたら何が違うんだろう?
 
「お前さんのお父さんお母さんは、お前さんが何かできるから可愛がってくれてると思うのかい?」
「そんなことないと思う……」
「そうだろ。じゃあ、お友達と自分を比べるのはどうだい? その考えはお前さんを幸せにしてるかい?」
「してくれてない……」
 
なんだろ? 涙がこみ上げてきた……
 
「じゃあ、その考えは捨てちゃってもいいんじゃないかい?」
 
頭がぐるぐるしてきた。
 
「お前さんも猫のように生きたらいいんじゃないかい?」
 
目の前の世界がぐるぐるしだした。
 
—-
 
「寝ちゃってたね」
 
笑いながらお父さんが言った。
 
あれ? ひなさんは?
目の前にいつものサイズのひなさんがぐったりと横たわってる。
 
夢……?
 
目の前のひなさんがしんどそうに首を上げた。
そのままじっとあたしの目を見る。
 
「お前さんも猫のように生きたらいいんじゃないかい?」
 
さっきのひなさんの声が頭のなかで蘇る。
もしかして、さっきのは本当にひなさんが伝えてくれたのかもしれない……
 
ぐったりとした身体をなでながらそう思った。
 
—-
 
そしてあの日から約2ヶ月。
病院から帰ってきたお母さんが言った。
 
「ひなさん、危機的状況は脱出したって! 奇跡の復活やね〜!」
 
良かった……本当に良かった……
 
みんなひなさんが猫又になるのを楽しみにしてるよ。1日でも2日でも長生きして欲しい。
 
あの日以来、ひなさんの横でうたた寝しても、大きなひなさんが夢の中にでてくることはない。
 
でも、自分のことが少しだけ好きになれた気がする。
 
ひなさんが猫又になったら、またお話できるかな。
その時が楽しみだ。
 
***

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2018-12-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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