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ドラえもんありがとう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:外園 佳代(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
わたしには、20歳、16歳、12歳の3人の子どもがいます。
子どもたちの願いは、なるべく叶えてあげたい、と思って育ててきました。
 
なんでもかんでも言うことを聞いてきたわけではありませんが、本人がやりたい、これがほしい、と強く願うことはなるべく大事にしてきました。
 
でも、昔のわたしは、子どもに我慢させることはあたりまえだと思っていました。
「我慢させないとわがままになる」
と思い込んでいました。
そんなわたしが変わるきっかけになったのは、ドラえもんです。
いや、正確に言うと、「ドラえもん寿司」です。
わたしの長男は、とてもおとなしい子でした。
赤ちゃんの頃からとても育てやすくて、わがままもほとんど言いませんでした。
ただ、悲しいことがあるとすぐに泣いてしまう泣き虫さんでした。
長男が2才のころ、同い年の子どもがいるお友達のアパートに、もう一組の親子といっしょに遊びに行きました。
 
子どもたちは室内でビデオを見たりおもちゃで遊んだり、おとなしく遊んでいました。
そしてママたちはそのかたわらでペチャクチャおしゃべり。
よくあるママ友たちの風景です。
そして、昼食は、そのアパートの近所にある、持ち帰り寿司のチェーン店で買うことになりました。
 
友人は、
「わたし、まとめて買ってくるよ。
子どもたちは、ドラえもん寿司でいいよね」
と、言いました。
 
ドラえもん寿司とは、当時、その持ち帰り寿司チェーンで販売されていた、ドラえもん型のケースに入った子ども向けのお寿司です。
(今はもう売られていません)
 
ドラえもん寿司は、普通のケースに入った安いお子さま寿司より、200円ほど高かった。
 
子どもたちは、
「わーい、ドラえもん寿司だー」
とはしゃいでいました。
 
でも、わたしは、ついケチ心が出たのと、わが家ではそれほどテレビを見ていなかったので、息子はそれほどドラえもんに興味はないだろう、と勝手に判断しました。
 
そこで、
「うちの子は、こっちでいいわ」
と、安いほうのお子さま寿司を選びました。
 
そして、買ってきたお寿司でランチタイム。
 
「いただきまーす!」
と、他の子ども達は、ニコニコとうれしそうにドラえもん寿司のフタを開けます。
 
長男は、自分の前に置かれたお子さま寿司をじっと見つめていました。
 
その頃彼は、まだそれほど言葉は話せなかったのですが、
「あれ? ぼくだけちがう」
と、なんだか悲しそうな表情でした。
 
わたしは、その表情を見て、
「あ、かわいそうなことをしてしまった」
と、少し胸がチクっとしましたが、
「中身はいっしょだからね」
と、ごまかしながら、お寿司を食べさせました。
 
そのときのわたしは、
「たかがお寿司くらい」
と、軽く考えていたのです。
 
そして、その日の夜。
 
長男は、いつもどおり眠りにつきましたが、突然夜中に
「うわーん!」
と、泣き始めました。
 
こわい夢でも見たのかとあやしましたが、ぜんぜん泣き止まず、泣き声はますます大きくなるばかり。
 
長男は、ふだんはとても寝付きがよくて、ぐっすりと眠る子なのに。
 
オンオン泣きじゃくる彼を抱きしめながら、わたしはハッとしました。
 
「わたしが、昼間、ドラえもん寿司を買ってあげなかったせいでは?」
と、思ったのです。
 
でも、
「Rくん(長男の名)、どうして泣いてるの? ドラえもんのお寿司食べられなかったから?」
と、聞いても、ますます彼は泣きじゃくります。
 
そして、とうとう泣きつかれて眠ってしまいました。
 
そして、次の日の朝、目を覚ました長男に、
「Rくん、昨日の夜、どうして泣いてたの?」
と、聞きましたが、本人は、泣いていたこともよく覚えていない様子でした。
 
だから、その大泣きが、ドラえもん寿司のせいかどうかは、結局わかりませんでした。
 
でも、わたしは、
「あぁ、長男に申し訳ないことをしたなぁ」
と、ものすごく後悔しました。
 
200円くらいケチることなかったのに。
「わぁ、ドラえもん寿司だ!」
っていう楽しい気持ちをプレゼントしてあげたらよかったのに。
 
そして、その出来事の後は、罪ほろぼしのごとく、本人がそれほど欲しがっていなくても、何度もドラえもん寿司を買いました。
 
それでも、あのときの
「あれ、ぼくだけちがう……」
という長男の悲しそうな表情が、ずっと忘れられませんでした。
 
そして、ドラえもん寿司事件から数年後。
 
すっかり大人になった長男に、あのときの出来事を話したくなりました。
 
一部始終を話しながら、
「おかあさん、あのときは、悪いことしたなぁと思って。ほんとごめんね」
と、あやまりました。
 
すると長男は、
「え、そんなことあったかな」
と、覚えていないようでした。
 
それを聞いて、なんだかホッとしたような、拍子抜けしたような気持ちになりました。
 
あのとき長男がはげしく泣いたのは、ドラえもん寿司のせいではなかったのかもしれません。
 
ただ、こわい夢を見ただけだったのかもしれません。
 
でも、きちんと長男に謝れたことで、わたしの心にずっと刺さっていたトゲが抜けたように感じました。
 
そして、思い返すと、あのドラえもん寿司事件のおかげで、子どもの願いはなるべく叶えてあげよう、と思えるようになったのかもしれません。
 
子どもたちが、何かおもちゃをほしがったり、やってみたい習い事があれば、相当無理な願いでない限り、だいたい叶えてあげてきました。
 
後になって
「あぁ、あのとき、この子に、あれをしてあげたらよかった」
と悔やまなくていいように。
 
そして、そうすることで子どもたちがわがままになるかと思いきや、そんなことはなく、願いが満たされるとそれで満足している感じでした。
 
「子どもの願いは叶えてあげたらいい」
ということに気づけたのも、ドラえもん寿司事件があったからこそです。
 
ドラえもん、ありがとう。
 
それでもやっぱり、ドラえもんのタイムマシンに乗ってあのときに戻れたら、わたしは、迷いなく長男にドラえもん寿司を買ってあげることでしょう。
 
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2019-01-11 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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