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丁寧さを欠いた私が、社会人としてなんとかなっている理由


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記事:山本さおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ある時、こう言われたことがある。
「丁寧さに欠けますね」
前髪を七三にきっちりと分け、メイクもばっちり決まったスーツスタイルのお姉様に、である。
それは、秘書検定1級の実技試験の面接会場だった。
 
社会人2年目にあろうことか、会社役員の秘書を命じられた。上司になぜ秘書に私を起用しようと思ったのか聞いたところ、返ってきた答えは「できそうだから」何とも腑に落ちない。
きっと、当時配属されていた営業としてはポンコツだけど、辞めさせるのも面倒だから、他に異動させようというところだったのだろう。
しかし、なかなか会社の役員と接する機会もないペーペーの新入社員は、偉い人と接触するチャンスだ! と思い、その異動辞令を受けることにした。
 
それまで販売職に携わっていて、残念ながら、ビジネスマナーなど何にも知らない社会人1年目を過ごしていた。そんな自分が突然の役員秘書である。とてもじゃないが、務まらないと考えた私は、せめて知識だけは補おうと思い、ビジネスマナーの本を1冊買った。
 
読みたい本ではない本、しかも、ただただ知識を入れるだけの本を読むことがこんなにツラいことだとは考えもしなかった。
何度途中で寝落ちしたことだろう。しかし、どうにか読み終えた私は、尊敬語と謙譲語の使い分けや、電話対応、契約書類の押印の違いなど、なんとか前線には立てそうなくらいの装備を手に入れた。そのように感じていた。
 
しかし、実際の秘書業務が始まると、グーグル先生に頼る日々になる。お礼状一つ書くにも、時候の挨拶がわからない。先輩に聞こうにも、私が異動して早々に先輩が体調不良で入院してしまい、そのまま退職してしまった。
グーグル先生と一緒に何とか仕上げたお礼状を役員に見せ、OKが出ればそれを使い回した。
 
上司にあたる役員には大変な迷惑をかけた。その役員は、私がどんなに不器用でも、何も仰らない、穏やかな人だった。使えない秘書にため息も出たことだろう。しかし、見守ってくれたのは非常にありがたかった。今でもそれは恩義に感じている。
ただ、自分が使えない秘書であることは、自分が一番よくわかっている。何とか自分の秘書業務に自信を持ちたいと考え、秘書検定を受けることにした。
 
手始めに受験した秘書検定3級は、筆記試験のみだったので、参考書をまるっと1冊勉強することで対策。普段の秘書業務と照らし合わせて、「あぁ、あの時は、こういう言い回しで電話対応しなければいけなかったんだな」などと数ヶ月前の自分を恥じながら、勉強した。
 
残念ながら、担当していた役員が退任し、会社を去ることになってしまったのだが、退任するまでの1年間で、秘書検定3級の合格までで終わってしまった。自分がふがいない。穏やかに見守ってくれていたその役員に、果たしてどれだけの対応ができたのだろう。
 
せっかくの自分の経験を資格という形に残しておきたい! と思った私は、秘書業務を離れても、秘書検定の上位級を受けてみることにした。
 
秘書検定1級は、筆記試験に加えて、実技試験として面接があった。筆記を何とか合格点プラス2点というすれすれでクリア! 実技は、試験官のおじさんを役員に見立てて、一つ目の試験内容が、箇条書きのメモの内容を報告すること、二つ目が、日程調整について相談することであった。
今までやってきたとおり、役員を思い出して、実技試験に臨んだ。
 
そして、最後、試験官として一連の動きを見ていた女性の方からのフィードバックが「丁寧さに欠けますね」である。
「言葉づかいが、会社のトップ向けではありません」とか何とか言われたような気がするが、もはや頭に入ってこない。私の今までの秘書人生は何だったのか……
担当していた役員に合わせる顔がない。
 
もう私はこの丁寧さを欠いた自分で生きていくしかないのだと悟り、秘書検定の再受験をすることもなかった。
 
しかし、この秘書検定への挑戦が、私の今の社会人のビジネスマナーの基礎になっている。上役に仕事の提案をするときも、敬語は口をついて出てくるし、書類の押印も間違いなく対応できている。今では、新入社員に簡単なビジネスマナーの講師もするようになった。
 
ビジネスマナーは、ネクタイだと思う。たとえ、中の人間が多少丁寧さを欠いていようとも、ネクタイをし、ジャケットを羽織れば、少なくとも第一印象で不快感を持たれることはない。首回りは窮屈でも、ビジネスマナーの基礎を抑えていれば、それなりにできそうなビジネスマンに見える。私はそれっぽく見せることで、様々な方と自信をもって話すことができた。
勉強のし始めは、「ビジネスマナーなんて意味あるの?」「ですます調で話せば何とかなるでしょ」くらいにしか思っていなかった私だが、今では勉強して、マナーというネクタイを何本か持っておいて良かったと思っている。
 
しかし、私には忘れてはいけない一言がある。
「丁寧さに欠けますね」
たとえネクタイをし、ジャケットを羽織ったとしても、
今日は、今日こそは、丁寧さを忘れずに、お客様と接したいと思う。
 
 
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2019-01-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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