青いランドセルの決意
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:高橋 志穂(ライティング・ゼミ土曜コース)
「どうしてみんなと同じようにできないの?」
子どものころ、親からよく言われた言葉だ。
私は、これが嫌だった。
「なぜ、みんなに合わせなければいけないの?」
疑問を抱えたまま大人になった。
大人といっても、すでに40歳を超えた。
大人も大人、社会の中では中堅選手だ。それでもやっぱり、みんなに合わせるのは苦手だ。
組織の中では「歩調を乱す人」なのだろう。わかっていても、自分の気持ちに嘘をつくことができず、いつもはみ出してしまう。
いつしか「みんなに合わせられない」ことが、劣等感になっていた。
言われたことに従い、タスクをこなせばいいのだ。それで、毎月お給料が振り込まれるのだから。みんな、そうやって生活費を稼いでいる。
わかっているのに、私には、それができない。
親になり、家族のために生活費を稼がなければいけない立場になった。
がんばったつもりだ。
でも、がんばった分、組織からはみ出していた。
自分の子どもには、世渡り上手に育ってほしい。
子どもには親と同じ苦労はして欲しくないものだ。
しかし、似て欲しくないところほど、似るものである。
ある日のこと、年長になった息子に、ランドセルは何色がいいかとたずねた。
すると、息子は
「青!」
と答えた。
口には出さなかったが、心の中で思った。
「どうしてみんなと同じ『黒』を選ばないの?」
自分の親と同じだ。
最近のランドセルは、デザインや色が豊富だ。とはいえ、ここは東北の地方都市。男子のランドセルは、今でも黒が一般的である。
道を歩いている小学生を見ても、ほとんどの男の子が黒いランドセルを背負っている。女子は、ピンクや水色、パープル、茶色など、カラフルになってきた。むしろ、赤いランドセルの方が珍しいくらい。
ところが、男子はほとんどが黒。最新のカタログを見ても、やはり黒が主流。ステッチの部分だけが赤や青、といったデザインが多い。
息子に、カタログを見せて見ても、やっぱり「青がいい」という。
紺色とかではなく、はっきりした青だ。目の冷めるようなブルーがいいと言うのだ。
親としては「みんなと違う色だと、仲間はずれにされるのでは?」と気がかりだ。
実際、私は「ランドセルの赤い色がちょっとだけ朱色っぽい」という理由で、いじめられたことがある。今思えば、いじめられたと言うより「イジられた」だけに過ぎないのだけど。
みんなと同じだったら安心なのか?
黒いランドセルなら、仲間外れにされないのか?
ランドセルが青いだけで、仲間外れにされるのか?
自分に問うた。
しばし、悩んだ。
私たちの時代は「ランドセル」そのものを与えられた。選ぶ必要などなかった。
みんな同じでなければいけない時代だった。
男子は黒。女子は赤。
だから、ちょっとでも違うと目立ってしまったのだ。
私は、ランドセルの色が違ったからいじめられたと思っていたけど、実際は違う。
「イジられた」ことにクヨクヨしていたのだ。
クヨクヨして、怯えている、そんな自分が嫌いだった。みんな、私なんて嫌いなんだ、だからいじめるんだ。そう思い込んでいた。
みんなと違うことは、けっして悪いことではない。劣等感を抱く必要などない。
胸を張って、強い気持ちで「それがどうした」と言えば良かったんだ。
「みんなと違ったっていいじゃないか」そう、心の中で思いながらも、押し殺す自分がいた。
「どうしてみんなと同じようにできないの?」
みんなと違うことは、劣等感だと思い込んでいたのだ。
今の子どもたちは、ランドセルそのものを与えられるのではなく、ランドセルを「選ぶ自由」を与えられた。
今は、選べる時代なのだ。
学校の指定がなければ、男子の中には、シルバーやグリーンを選ぶ子だっているかもしれない。黒でなければいけない理由は、無い。
時代は変わった。
「みんな同じでなければいけない時代」から「みんなちがっていい時代」になったのだ。
だから「みんなと同じだから」という理由だけで、親が決めてはいけない。
息子が、自分の気持ちを押し殺して黒いランドセルにしたらどうだろう。
「本当は青が良かったけど、お母さんが黒って言ったから」と、親のせいにするに違いない。
そんな6年間なんて、つまらないだろう。
「どうしてみんなと同じようにできないの?」
言われて嫌だった言葉を、私が言ってしまうところだった。
息子にも、同じ思いをさせてしまうところだった。
大事なのは、みんなと違うことに劣等感を抱くことなく、むしろ「特別でかっこいいんだ」と胸を張れる前向きな心だ。
そのためには、息子の気持ちを否定してはダメだ。受け止めてあげなければ。
そして、青いランドセルに決めた。
「いい色だね。かっこいいじゃん」
自分の物になったランドセルを背負って、得意げな表情の息子。
私は、この表情をずっと忘れない。
私も、悩むのはやめた。
胸を張って、前に進もう。
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