メディアグランプリ

スタートラインはここからだ!


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記事:西元 はる香(ライティング・ゼミ土曜コース)

「ユミちゃん、学校やめるんだって」
友人のひとりがそう呟いたのは、高校2年の終わりのことだった。在校生の95%は大学や短大に進む進学校で、自主退学を決める人は少ない。小学校からの同級生であったユミは勉強ばかりの生活に疲れたのか、次第に学校に来なくなっていた。髪を派手に染め、ヤンキーと言われる人たちとつるんでいるらしい。あと1年頑張れば卒業出来るのに、なんでやめちゃうかなぁ。
「こんな小さい町で高校中退してさ、どうするんだろうね」
私の本心から出た言葉に、友人も同意する。正直この町で中卒だなんて、ろくなところに就職も出来やしない。全てを放り投げたユミは、スタートラインにすら立てないのだ。
「ね。ぶっちゃけ高校辞めたら、終わりだよね」
友人が返した言葉に、今度は私が全力同意する。そうだ、高校を辞めたら終わりなのだ。私はユミのことを『ばかなやつ』だと思って、記憶の片隅に押し込めた。

それから私は地元を出て、ユミとは関わることなく過ごした。ユミは高校を辞めたあと美容院でバイトをはじめたらしい。そう風の噂で耳にしただけだ。中卒でバイトしたからって、カリスマ美容師になれるわけじゃない。同じ高校からは何人か美容の専門学校へと進んだ。そういう専門的な場所で学んだ人だけが、スタートラインに立てるのだ。
夢を叶えることは、カーレースと同じである。整備された車両で、整えられたサーキットにいる者だけがレースに参加出来る。その外にいる者は、スタートラインにすら立てないのだ。

とは言え、私も人のことを言える立場じゃない。文章を書くことが好きで、それを仕事にしたいとずっと思ってきた。シナリオライターになるための専門学校に行きたかったのだが、厳しい父はそれを許さず、大学の人文学部に進んだ。そしてやりたい仕事に進む最後のチャンス、就職活動の時期が始まっていたのだ。
文章に関わる仕事がしたいと思っていた私は、出版社や新聞社などを中心に就職活動を行った。時には飛行機に乗り、東京まで出向いた。
しかしそんな努力は、報われることはなかった。受けた全ての会社で、採用にたどり着くことが出来なかったのだ。何がいけなかったのだろう? やはり学歴だろうか。良い大学に入れなかったから、就職活動が上手くいかなかったんだ。スタートラインに立つ前に、もう出遅れていたんだな。そう思った。
これから新たに専門学校に入るなど父は許してくれないだろうし、どこかに就職するしかない。私はせめて興味のある仕事に就こうと、旅行会社に就職を決めた。

けれども、心のどこかに『本当にやりたいこと』に対するモヤモヤがいつもあって、私はいつも後ろをふり返るように歩いた。自分のことを凄い人間だと思っていた。自分のやりたいことを叶えて、自分の文章で人々を救うんだと、そう思っていた。けれども現実は、そうじゃない。
スタートライン前でしくじった私は、スタートラインにすら立てていないのだ。ユミのことを思い出した。大学まで出ているのに、私は何も進んじゃいない。スタートラインに立つ前につまずいてしまった人は、どうすればいいんだろう。これからどうすべきか分からないまま、時に身を任せるように過ごした。

そんなある日、facebookにユミからの友人申請が届いた。ユミがあのあと、結婚して三児の母になったというのは知っていた。元気に暮らしてるかな、と彼女のfacebookの投稿を見て、私は驚いた。ユミは家事育児をこなしながら、ヘアセットの専門店をオープンさせていたのだ。それが上手くいき、店舗が増えるという。自己啓発にも時間をかけ、さらなる夢の実現のために努力しているようだった。
その時、ユミはスタートラインに立つことが出来たんだと思った。そして同時に、誰でもスタートラインに立つことは出来るんだと知った。小さな町で高校を中退して、終わりだと言われていたユミが、夢を叶えて頑張っている。
私はどうだ? 何かしたか? 就職活動を諦めた後、何もしていないじゃないか。

夢を叶えることは、カーレースと同じだと思っていた。きちんと整備された車両で、サーキットに降り立った者だけが参加出来るレースなのだと。しかし、そうじゃなかった。夢を叶えるレースは、誰でも参加することが出来る。どんな雨上がりの道だって、いつだって、誰だって走りはじめることの出来るレースなんだ。
そう分かった瞬間、私はまた走りだそうと思えてきた。ユミのお店のアカウントをフォローし、私も頑張るからね! と心の奥で叫んだ。そして、ユミにごめんねとありがとうの念を送るのだった。

私は今、WEBライターとしての仕事をはじめたところだ。まだ駆け出しだけれど、これからどんどん色んな文章を書いて行きたいと思っている。32歳、経験なし、初心者からのスタートだ。しかし、スタートラインに立てた私はもう走り出すことが出来る。今度は後悔しないように、自分らしく走っていこうと誓うのだった。
 
 
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2019-02-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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