一生モノは早く買おう
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:後藤里誉音(ライティング・ゼミ平日コース)
「この鍋には10年間の保証が付いています。
10年の間に、不具合が生じれば、無料で修理いたします」
デパートの店員さんはそう言った。
その日、友人への結婚祝いを選びにデパートのキッチン用品売り場に行った。
新婚生活にふさわしいような美しいキッチン用品が、
美しいテーブルコーディネートとともに並んでいた。
10年保証がついていたのは、ある外国ブランドの鍋だった。
ピカピカに光り輝くステンレスの鍋、その姿は美しい上に、熱効率も良いらしく、
短時間で調理が出来るそうだ。
厚みがあるので、ご飯も美味しく炊けるらしい。
ああ、なんて魅力的!
その鍋が並ぶキッチンで、自分が楽しく料理をしている姿を妄想してしまう。
陽がサンサンと降り注ぐキッチン、もちろん対面式でカウンターは大理石だ。
そのステンレス鍋セットを、友人の結婚祝いに、連名で贈ることにした。
もちろん自分でも欲しくなった。
まず、10年保証というのは凄いことだ。
よほど商品に自信があるのだろう。
当時、まだ20代だったので、10年という重みが今とは違う。
自分の人生の半分よりちょっと短いくらい。
そんなに長い間一つの鍋を使うということすら想像出来ない。
自分が使っているもので、10年モノは当時、見当たらなかった。
「10年保証なんて、凄いことだ」
その立派な鍋は、当然ながら価格も立派だった。
とはいえ、何十万円もする訳ではないので、無理をすれば手が届かないこともなかった。
そこがまた、「気になる存在」であった。
いっそのこと、手に届かなければ諦めもつくのに。
「奮発」という勢いがつけば、買ってしまう領域だった。
その後も、デパートに行くたびに、その「気になる存在」に会いに行った。
そして、何度かボーナスの季節が通り過ぎ、その「気になる存在」は
ついに我が家に嫁ぐことになった!
いやあもう、可愛くてたまらない。
スベスベで、キラキラで、眩しいくらい魅力的だ。
そして、かなりデキる奴だった。
ご飯が美味しく炊ける。
揚げ物がカラッと揚がる。
パスタは余熱だけで茹で上がる。
ゆで卵は、少量の水で短時間に茹で上がる。
付属の調理ブックに掲載されていた料理を、端から試した。
その「鍋」と一緒に暮らし始めて、ますます好きになった。
ご飯は上手に炊けるし、料理は上手い、
しかも手際よく、短時間で仕上げる。
経済観念も備わっている、まさにデキる嫁のような存在だ。
そんな嫁が来たものだから、電気炊飯器にはヒマを出した。
以来、我が家では鍋でご飯を炊くようになった。
電気炊飯器とガスで炊くご飯の味は、格段に違った。
(今は電気炊飯器が高度になってきているので一概には言えないかもしれません)
土鍋炊きのご飯も美味しいと言われているが、こちらは面倒臭がりの私には
炊いた後の手入れが拷問のようだった。
その点、ステンレス鍋はツルンとしているので、お焦げが出来ても、
ツルリと剥がれてくれる。
最初は1つだけ購入した鍋だったが、ご飯を炊きながら
味噌汁を作り、揚げ物をすることになり、徐々に増えて3つになった。
そして、四半世紀ほどの時が流れた。
保証期間の10年はとっくに過ぎた。
いつ期間満了になったのかも気づかないくらい、
何の問題もなく使い続けてきた。
ちょっと奮発して購入した鍋だったが、こんなに長い間
しかも便利に使い続けたことを考えると、元は充分に取れている。
使う事に喜びを感じさせてくれる鍋、これぞまさに一生モノだ。
一生モノというと、時計や万年筆、カバンなどが思い浮かぶ。
包丁、フライパン、家具などもそのようにいわれることがある。
先ほどから話題にしている鍋は、幸いな事に若い頃に出会い、手に入れたので、
長く使い続けることが出来た。
これから先はどうだろう。代々使い続けてくれるような家族がいれば別だが、
夫婦二人の我が家では、自分達の代でおしまいだ。
これから何十年も使えるものを買うのは勿体無いような気がする。
一方で、定年後の暮らしは、今の年金制度ではどう考えても苦しくなるであろうから、
最後の買い換えと覚悟して、長く使えるモノを買うという選択もある。
まあ、気に入ったものだったら、1日でも早く購入し、自分も長生きして、1日でも長く使う喜びを感じるのが一番だ。
安物買いの銭失いとはよく言ったものだ。
身の丈に合わないものは別として、毎日使うものは、良いものを選ぶようにしたい。
これからを生きる若い世代の人たちには、もしも気に入った「一生モノ」と呼ばれているものに出会ったのなら、無駄遣いを減らし、何かを我慢して、1日も早く手に入れることをお勧めしたい。
私は古女房になってしまったが、我が家の鍋たちは磨けばまだ光り輝く。
3つ並べて旦那と一緒にピカピカに磨くのが年末の恒例行事となった。
これからもずっと、使い続けていくことであろう。
さあて、私もまだもう少し、磨いたら、まだ光るかな。
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