メディアグランプリ

ユーチューブは子どもに夢を与えるものだった


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記事:西元 はる香(ライティング・ゼミ土曜コース)
 
「お母さん、この本ほしい」
 
長男が小学校に入って最初の秋のことだった。学校から持ち帰った購入図書の封筒を見せながら、長男・タロ(愛称)はそう言った。時折学校から購入図書の案内があり、任意で購入することができる。家庭でも本を読みましょう! という企みがあるのだろう。本にあまり興味のないタロが、こういうことを言いだすのはとても珍しい。
 
「いいよ! 何の本?」
 
私はタロの提案に、秒で答えた。
幼い頃から本が大好きだった私は、本に救われてきた。悲しいことや辛いことは本のおかげで乗り越えてきたし、本のおかげで楽しいことや嬉しいことも増えた。夢を与えてくれたのも本や漫画たちだった。そして、自分の子どもにも本が好きになってほしいと思うようになった。
だからこそ、タロの言葉は本当に嬉しいものだった。
自分の子どもが自分から本をほしいと言ってくるなんて。タロも成長したなぁ。そう思ったのもほんの数秒、タロが指した本を目にして、私は即座に固まった。
 
『ユーチューバーになる方法!』という文字が、タロの指先で光っている。
 
「ね、お母さん! 僕ユーチューバーになりたいんだ!」
 
そして同時に、タロの将来の夢を知ることとなる。ユーチューバーになりたかったんか、お前……。お母さん、知らんかったぞ。
 
「ちょっと、その本買うのは保留にしようか……」
「え? なんでなんでー!」
「ちょっと考えさせて……」
「なんでなんでなんでー!」
 
正直私は、ユーチューブのことを良く思っていなかった。
タロが生まれたのは2011年、iPhoneが日本に普及しはじめた頃だった。同時に『スマホに子守りをさせないで!』のポスターをよく見かけるようになり、私は息子とスマホを遠ざけた。小学校に入ってからはユーチューブを見せるようになったけれど、あまり良く思っていないのは相変わらずで、「ユーチューブ消しなさい!」だとか、「ユーチューブばかり見てるとバカになるよ!」などの言葉を発することもよくあった。
理由は? と聞かれると大した理由もないのだが、なんとなく発達に良くないような気がするとか、そんなことだ。
しかし、私が放つ言葉たちに聞き覚えがあった。タロのユーチューバーになりたいという夢を聞いて、私は小学校の頃のことを思い返していた。
 
小学校の頃、私は漫画家を目指していた。
1990年代、子どもたちにとって漫画は最大のエンタメであり、同時に夢を与えてくれる存在だった。毎月、月のはじめに発売される『りぼん』に『なかよし』、そして『ちゃお』といった少女誌たち。恵まれたことに3誌全てを読んでいた私は、毎日のように漫画を読み漁っていた。
次の発売が待ちきれず、ボロボロになるほど繰り返し読んで、模写し、自分でも漫画を描いた。描いた漫画を友達と見せ合い、合同で手作りの冊子を作った。漫画家になりたいと思うのも自然なことだった。私だけじゃない。クラスの半分くらいは漫画家になりたいと言っていたと思う。漫画は子どもたちにとって、夢を与えてくれるものだったのだ。
 
しかし、大人たちはそうは思っていなかった。
先生は「夏休みだからといって漫画ばかり読まないように!」と言うし、親は親で「漫画を読んでいたらバカになる」とか根拠のないことを言ってくるのだ。
 
なぜ大人は、そんなことを言うのだろう?
漢字やことわざは漫画で覚えたし、仲間を思いやる気持ちや夢を持つことを教えてくれたのも漫画だ。漫画は自分にとって良い影響しか与えていないのに、なんで大人は漫画をバカにするのだろう。読んでもいないくせに。そんな疑問が常に自分の中にあった。
 
思い返してみると、漫画とユーチューブはよく似ている。私は無意識に、かつて大人たちに言われていた言葉をタロにも放っていたのだ。
そういえば、私はタロといっしょに動画を見たことがあっただろうか? キッズチャンネルを見ている、くらいのことは知っていたが、きちんといっしょに見たことはない。
 
「ねえ、タロ。ママといっしょにユーチューブ見ようか」
 
私はタロに声をかけ、いっしょにキッズチャンネルを見た。
ひまわりチャンネル、プリンセス姫スイートTV、かんあきチャンネル。これらの動画は全てタロとあまり変わらない子どもたちがユーチュ-バーとして出演していて、色んな実験や遊びを体験していた。そして、最近タロが「お菓子を作りたい」だとか「絵の具を混ぜたい」だとか言ってきていたのも、キッズユーチューバーの影響だったと知った。
そして、そんな動画たちを見て、タロは目を輝かせてこう言うのだ。
 
「ねえ、僕もスライム作りやりたい!」
 
タロの姿は、かつて私が本を読んでいたときの姿そのものだった。
幼い頃から本が大好きだった私は、本に救われてきた。悲しいことや辛いことは本のおかげで乗り越えてきたし、本のおかげで楽しいことや嬉しいことも増えた。
彼にとっては、ユーチューブがその役割を担っているのだろう。そう思うと、ユーチューバーになるという彼の夢を応援したくなった。私がかつて漫画家を夢見ていたように、彼もまた夢を抱いているのだ。
ユーチューブは、私たちにとっての漫画と同じだ。そう分かった今、タロがユーチューブを見ているのを微笑ましく思う。
 
今度の休みにはいっしょに、ユーチューバーごっこでもしようか。動画でも撮って、わりと本格的に。彼の夢に一歩近づくために。
 
 
 
 
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2019-03-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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