アドバイスは時として予言となる
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【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:樋口隆行(ライティング・ゼミ日曜コース)
「○○はきっとこういう場所に戻りたくなるし、戻ってくるよ」
大学時代にたいへんお世話になった「東京の姉」の言葉。その時は働き続けた先のことどころか、卒業後の進路ですらそこまで深く考えられていない私だったが、非常に印象に残っていた言葉である。
1999年のノストラダムスの預言は外れ、その後順調に時が経過し、気づけば21世紀最初の浪人軍団の一人となっていた。お約束のような予備校生活を送り、1年後に東京都内にある大学の二部、いわゆる夜間学部(夜学)に入学することになった。諸般の事情もあったが、一番は自分の学力不足であったことが要因だったことにあるはずで、今思い出すとなんとも情けない話である。勉強は嫌いではないのだが、英語と数学が駄目だったのだ。そんな形での入学ということもあり、当初はどこかで昼への編入試験を受ける気でもいた。
ところが、その夜学には想像もしなかった世界があった。少なく見積もっても3、4割が社会人であり、学ぶ意欲に満ち満ちた人たちだった。学費を自分で工面し、仕事を調整して講義に出る。講義の終わりには多くの質問が教授を襲い、通常であれば休講は喜んだことが記憶にある人も多いと思うが「その分の授業料と時間はどうしてくれるんだ」という発言が飛ぶ。それほど真剣に「学びたい」人たちだった。いまでこそ社会人が学ぶのは珍しくはないが、その当時は世間でも今のように語られるほどではなかったと記憶している。
そんな方々にとある授業の待ち時間に何の気なしに質問をしてみた。
「なぜ、そこまでして大学に来ようと思ったのですか? すでに立派に働かれているのに……」
夜学は夕方から授業のため、働いている場合であれば少なくとも定時上がりでないと1限目の授業には間に合わない。実際、時間のコントロールができるようなある程度の役職の方か自営業の方が多かった。それでも口にされることは同じで内容で「働いているからこそ勉強したくなる」「もっと、勉強しておけばよかったと思ったから」という回答だった。コンサルを立派に仕事にしている人でさえ、「きちんと学びなおすため」と言っていた。その当時の私は正直なぜそう思うのか分からなかった。働いていて、実績もあるはずなのに……。そんな気持ちが顔に出ていたのか「働くようになるとそのうち嫌でもわかるようになるし……」と「東京の姉」に言われたのである。
数年後、大学を卒業し、就職した。新卒4年目に一度だけ、ビジネススクールに通ったことはあった。ただし、大学生の時に言われたことが分かったわけではなく、当時の仕事を進めるうえでの必要なスキルとされていた講座だけを受けるために。そんななかでも一緒に学ぶ学友たちとのいろいろな話の中で、「働きながら学び意味」を考える機会にはなったのだが、そのまま学び続けることはなかった。おそらく、このときに続けていればまた違った未来にはなっていたと今では思う。
そんな学びのことを忘れかけ、2度目の転職を考えていた時に数奇なめぐりあわせで、その時通っていたビジネススクールの運営会社に転職が決まった。懐かしい思い出とともに自己研鑽も兼ねて、期間限定の学生として受講していくうちにあることに気付くようになった。「あのプロジェクトがああなったのはこういう背景や理由があったからか」「そのとき自分がこう考えられていれば、乗り切れたかもしれない」と、ずっと未完成だったパズルのピースが見つかり完成することが出来た時のように、過去の仕事のことや会社の出来事が自分の中で完結していった。遅まきながら、その時はっと気づいた。より多くのものを抱えて働くようになると色々なことを判断する必要が出てくる。そこには経験と勘もあるが正しい知識や論理も求められてくる。だからこそ「社会人になれば」ではなく「働くようになるとそのうち」と言われていたのだと。
それから、自分のこれまでのキャリアと未来のキャリア、これからやりたいことを散々悩んだ末の結論として、今年の4月からめでたくとある大学院大学の学生になることになった。「東京の姉」はこうなることを予測して言っていなかったと思う。しかし、その言葉は十数年の時を経て現実のものとなった。
もちろん、「東京の姉」の職業は占い師ではない。「バリバリと働くキャリアウーマン」という表現がとてもしっくりくる人だった。ひょっとしたら別の誰かが質問しても、将来を悩む一大学生へのアドバイスとして同じようなことを言っていたかもしれない。でも、その何の気なしに言ったかもしれない言葉が人の人生に影響を与えて、その後の未来となることは不思議なことでない。そういった意味では人に可能性をアドバイスすることは予言とほぼ同じなのかもしれない。少なくとも私はそのおかげで、一つの可能性の扉を開くことができたのだから。
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