メディアグランプリ

はじめの一歩の為の、立ち止まる勇気


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【4月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:外村省吾(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「……ごめん! 明後日打ち合わせ入ってしまったから、飲みは別の日でもいいかな」
 
「いいよ、忙しそうやね…… 体調だけは気を付けろよ」
 
忙しい。
友人とこんなやり取りが増えてきたのは
私の仕事が忙しくなってきたからだ。
 
赤は仕事の予定。
青はプライベートな予定。
最近は青色の文字が赤色に変わることが多く、
手帳はいつの間にか真っ赤に染まっていた。
 
目の前の仕事を手際よくこなさないといけない。
4月からは後輩がまた新しくできる。
仕事の出来ない人間とは思われたくない。
 
時間の流れは恐ろしく、新入社員だった頃から立場はいつの間にか変わる。
どんな気持ちで仕事に臨んでいただろう。
どんな将来を考えていただろう。
もう思い出せないし、今は考えられない。
忙しいから。
 
忙しいという言葉は心が亡くなる
と書くけどまさにそうだ。
そして、とても便利な言葉だなと思う。
 
朝から夜遅くまで働いて、
部屋に帰っても寝るだけの日々。
 
いつか読もうと思って買った文庫本や雑誌が
入り交じった本の山。
しわくちゃになったままの衣服。
飲みかけのまま放置してたペットボトル。
 
……酷い有り様だった。
 
とりあえず文庫本の山、雑誌の山という風に
本の山を整理。
とりあえず着れそうな服は綺麗に畳んで他は洗濯。
とりあえず流しにペットボトルの中身をながす。
 
荒んでる……。
心が亡くなるとあらゆるものが、
環境が荒んでくるんだなと実感する。
 
部屋の片隅に枯れた花が、ポツンと佇んでる。
いつ飾ったかも覚えていない。
最初は華麗な姿だったのかもしれない。
 
でも、不思議だ。
枯れていてもそれはそれで美しい。
 
「明日、花を買おう」
 
深夜2時にぽつりと呟いて寝た。
 
「あの、延命剤も頂けないでしょうか?」
 
ある花屋での会話。
どうやら、切り花を出来るだけ
長持ちさせたいみたいだ。
 
店主はこう言った。
「なぜ私たちの都合で延命させるのでしょうか」
「長くあればいいとは限らないでしょう」
 
あぁ、確かにそうだな。
もし、自分自身の命が誰かに勝手に
延命されるのは辛いかもしれない。
 
ゴールテープの先にまたゴールテープがあっても困る。
人も花も限りがあるからこそ精一杯生きるはずだ。
 
花の命も人の命も一緒だということを
伝えていた店主。
 
納得していった客。
晴れ晴れとした顔だった。
 
私はドライフラワーを手にする。
何故だろう、枯れた姿にも私は魅力を感じる。
 
切り花は世話が出来ないかもしれないから
ドライフラワーを買った。
 
「枯れた姿に美しさを見出だせるのは素晴らしい事ですよ」
 
命が絶えても、枯れても。
人に感動を与え続けたい。
そんな思いが聞こえた気がする。
忙しさで心が参っているのか、精神的におかしくなっているのかもしれない。
 
荒れた部屋に戻って、花を飾る。
少しだけ空気が変わった気がした。
 
生きているものは美しい。
枯れた姿だとしても、
きちんと終わりを迎えた姿は
どこか晴れ晴れとしている。
 
忙しい忙しいと、
ただ単純に心を亡くしている自分は
そんなことをぼんやりと考えていた。
 
「でも、忙しいんだよ」
心の中の自分が呟く。
そう、明日も明後日も
いろんな作業をしないといけない。
ゆっくりと本を読んだり、
ゆっくりと着る服を考えたり
ゆっくりと生きた花を飾る時間もないんだよ。
忙しいんだよ。
 
そんな事言ってるうちに私は体を崩してしまった。
安静するように言われたけれど、安静にしてる時間はなかった。
 
けれど、体はやっぱりついてこない。
通院しながら早めに帰宅する生活を行う事にした。
 
体調に支障が出ない範囲で。
誘いを断ってしまった友人との
時間を作ることにした。
 
まだ桜が咲いていない頃だった。
花見をしようと言い出した。
 
「まだ、桜咲いとらんね。蕾やね」
 
「いいじゃん、蕾でも。綺麗じゃん」
 
「……そうかな」
 
蕾をこんなにまじまじと見るのは初めてだった。
所々、新しい芽吹きが見える。
生きている。咲いて散っていくとしても。
最後まで誰かを感動させたい。
終わりが分かっているけど、咲きたい。
また、そんな声が聞こえた気がした。
 
「きっと、綺麗に咲くだろうな」
 
そんな事を話ながら友人との花見は終わった。
 
通院の為にいつも歩く道の途中、桜が咲いていた。
蕾の状態の木々や、花を咲かせている木々。
いつも通りそこにあった風景。
今なら見落としていたささいな豊かさが分かる。
 
風に舞い散る桜。
出来るならもう少し散らずにいてくれないかと思う。
でも、散りゆく姿も綺麗だ。美しい。
永遠でないからこそ咲いた感動も大きいし
散り際も儚い。それがいいのだ。
 
蕾から咲いた花は、夏の夜空に咲く花火みたいに美しくて強い。
 
静かに紅く染まる葉も、厳しい寒さを伴う雪化粧も同じく美しくて強い。
 
きっと、終わりがあるからこそ美しくて、感動を与えるのだと思う。
 
散る桜 残る桜も 散る桜
という詩があるように。
 
生きていく姿は終わりを迎える姿でもある。
終わりを感じることが美しさにつながるように。
 
私はどうだろう。
 
出来ることなら、生きている姿を見せたい。
美しくありたい。
 
終わりがあるからこそ美しい。
今、私は私の終わりをきちんと考えらてるのだろうか。
ただ、何も考えないまま亡くしてしまった気がする。
 
確かに、今を精一杯頑張ることも必要だけど
どこに向かっているのだろうか。
 
それは、5年後、10年後の終わり方でもいいと思う。
例えば1年後でも、1ヶ月後でも明日でも。
 
行き先のない精一杯の頑張りは何を生むのだろうか。
私を大事にできるのは私だ。
精一杯の頑張りが辿り着く先を導いてあげないと
花は咲かないだろう。
 
私は立ち止まる。
散っていく桜や、これから咲くであろう
蕾を見つめる。
 
2019年4月、新しい時代の始まり。
新しい生活、新しい出会いの季節。
誰もが、新しい何かに向かって進んでいくだろう。
 
私はその始まりの時、一度、立ち止まろうと思う。
 
私が辿り着く先を、もう一度、立ち止まって考える。
 
終わりの美しさを教えてくれた。
美しく生きるために、自分を生きるために
誰かに感動を与える人になるために。
 
立ち止まる勇気も必要だと思う。
 
 
 
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2019-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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