銭湯に行って気づいた、人生で遠回りすることの効能
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:櫻庭航(ライティング・ゼミ火曜コース)
「自分は何をやっても上手くいかない」
滞在先の山梨県にある銭湯に浸かりながら、ぼくは失敗ばかりの自分の人生を振り返っていた。
大学受験、
資格試験、
病気で就職ができなかったこと……。
それからは紆余曲折あり、フリーランスの専業ライターになるという目標に出会えた。
しかし、ついこの間、ようやく受注したライターの仕事で未払いを受け、貧困に陥った。
なにをやっても上手くいかず、中々成功にたどり着けないのが、今までの自分の人生だ。
「この遠回りばかりの人生に、なんの意味があるのか?」
ぼくは、先の見えない不安から、人生の方向性を完全に見失っていた。
最近、そんな行き詰まりから少しでも開放されるために、なけなしの貯金を削って車で小旅行に出た。
夕食を終えた夜、地域でも評判の銭湯に足を運ぶ。
銭湯はいい。
この湯の絶妙な熱さが、日々のストレスから心を開放してくれるからだ。
ただ体の汚れを落とすだけなら、シャワーだけで十分。
だけど、心の汚れは、長い時間をかけて湯に浸からないと落とせない。
「気持ちいい! 嫌なことなんてすべて忘れられる!」
ぼくは、この湯に満足した。
そして、銭湯が与えてくれた開放感に心が救われた後、備え付けのサウナへ向かった。
サウナはいい。
体を高温の部屋に閉じ込め、その後に水風呂に浸かることで血行をよくして、より健康になるからだ。
さらに、心までもリフレッシュさせてくれる。
サウナ室の中に入って、終了時間を計るために置いてある砂時計を逆さまにした。
ここから、ストレスとの戦いが始まる。
健康にはいいのだが、サウナ室の中にいることは、非常に苦しい。
少しでも大きく呼吸をすれば、熱気で鼻が火傷してしまう。
心身を健康にするという目的がなければ、絶対に関わりたくなんかない。
だけど、これから健康になるために、いまはストレスに耐えるのだ。
「苦しい! 早くここから出たい!」
ぼくは、そんな悲鳴を胸の内に抱えながら我慢し続けた。
サウナの高温と戦い続け、ようやく砂が落ち終わるのを確認。
灼熱地獄から脱出した後には、水風呂が待っている。
水風呂に急に浸かると心臓発作の危険もあるので、ゆっくり、ゆっくりと体を沈めた。
浸かった時間は、大体1分ほど。
水風呂の冷たさは、先ほどの高温とは真逆のストレスを与えれくれた。
「冷たい! 凍えて体を壊しそうだ! 早くここから出たい!」
サウナ室とはまた違った苦しさが、ぼくの体を襲う。
しかし、これから健康になるために、我慢し続けたのだった。
短いようで長い水風呂の冷たさとの格闘を終え、ぼくは浴場を出た。
浴場に入ってから出るまで、とても長い時間だった。
繰り返し言うが、体の汚れを落とすだけなら、シャワーを浴びるだけでいいんだ。
体の健康を手に入れるため、
そして、心の健康を手に入れるため、
わざわざ時間をかけて遠回りするんだ。
「ん? 遠回りっていえば、なんだか自分の人生に似ているような……?」
このときはまだ自分の心に生まれた、そんな違和感の理由を言葉にすることができなかった。
なぜなら、風呂上がりの「アレ」を味わうことで、頭がいっぱいだったからだ。
「アレ」とは何か?
そうだ……。
コーヒー牛乳だ。
「銭湯上がりにコーヒー牛乳を飲む」
あなたもドラマや漫画でよく見るだろう、とてもベタなものだ。
たしかに、ベタかもしれない。
だけど、これが本当においしいんだ!
どうしてなんだろうか?
ぼくはたまに、自宅でコーヒー牛乳を作って飲んでいるが、銭湯から上がった後ほどにはおいしく感じられない。
自分では理由が分からなかったので、この疑問を自販機前の受付に座っていた係のおばさんに尋ねてみた。
「どうして銭湯から上がった後に飲むコーヒー牛乳は、おいしいんでしょうかね?」
おばさんは答える。
「お風呂で汗が出ちゃってるから、体が水分を求めるってことじゃないのかしら?」
なるほど、スポーツ後のポカリスエットのようなものか。
おばさんの説に、科学的な根拠があろうとなかろうと、このときは納得してしまった。
話しながら、コーヒー牛乳の入った自販機に100円玉を入れ、ボタンを押した。
ここで失敗してしまった。
おしゃべりしながらボタンを押したのがマズかった。
間違えて、豆乳のボタンを押してしまったのだ。
「失敗した! なぜだ!! どうしてだ!!」
そう、ぼくの人生は、いつも失敗してばかりだった。
ぼくという人間は、たった1本のコーヒー牛乳さえも手に入れられないのか?
忘れかけていた、遠回りばかりの成功を手に入れられない、惨めな人生が思い返された。
生真面目で、誰にも相談せずに、1人で悩み続けたあの日々が……。
だがここで、受付係のおばさんが救いの手を差し伸べてくれ、豆乳とコーヒー牛乳を取り替えてくれた。
長かった。
失敗もあったけど、ようやく出会えた。
手に入れた1本のビンに口をつけ、格別の冷たさと甘さにたどり着いた瞬間、体中が喜びであふれかえった。
紆余曲折を経て、たどり着いた「格別においしいコーヒー牛乳」という成功体験を、ぼくは忘れることはないだろう。
飲み終わるころには、気づいていた。
人生で遠回りすることは、サウナや水風呂のようなものだと。
失敗して遠回りすることは、後の成功をおいしく味わうために必要なものなんだと。
ぼくは「専業ライターになる」という成功にたどり着いたときの喜びもまた、いま飲んだ「格別のコーヒー牛乳」を飲んだときの喜びと同じだと知り、うれしさに笑みを浮かべながら銭湯を後にした。
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