長女コンプレックス。
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記事:夏音(ライティング・ゼミ日曜コース)
私の名前は、和美。8月15日生まれ。終戦記念日に生まれたから、平和の「和」と美しいの「美」で「和美」と両親に名付けられた。私はこの平凡な名前が好きだ。三姉妹の長女として生まれ、着る服も、おもちゃも一番最初に選べて、一番最初に使えた。
それまで全てが一番で幸せだったある日。私はお姉ちゃんになった。妹が生まれたのだ。妹とは2歳離れている。妹が生まれたことによって、私は「お姉ちゃん」と言われるようになり、なりたくなくても「お姉ちゃん」にならなきゃならなかった。お姉ちゃんだからって我慢するようになった。お姉ちゃんだから、大人しく、しっかりしていれば、周りに褒められるから、お姉ちゃんらしくしていた。私は2歳離れた妹を連れて、いつも友達と遊んでいた。妹がベソをかいて泣いていると、妹の機嫌をとらなきゃならなくて、楽しい時間が潰れてしまう。でも、お姉ちゃんだから、我慢して、優しく妹が泣き止むのをあやしていた。「だから、妹を連れて行きたくなかったんだよー」と、心の中でいつもそう呟いていた。妹を連れて遊ぶのは、小学校まで続いた。
私が6歳になる前。妹が生まれた。一人妹が増えた。そして、またお姉ちゃんになった。
今度は2人のお姉ちゃんに。この時の私はお姉ちゃんの経験値が上がっていたからなのか、お姉ちゃんとしての自覚が芽生えていた。
「2人のお姉ちゃんとして頑張ろう」って。
しかし、一番下の妹とは年が6歳離れていたからか、喧嘩もあまりすることもなかった。2歳離れた妹は、一番下の妹を子分のようにあちこち連れまわすようになった。あること、なすことを言い訳にし、「〇〇しなかったら一緒に遊んであげないからね!」とか言って、お姉ちゃんぶっていた。まるで、妹時期を脱したとばかり、お姉ちゃん気質を全面に出していた。そこが微笑ましくも思えた。
私が8歳になった夏。ラーメンをフーフーして食べている時に発作が起きた。口がもつれ、頭がぼーっとなって、意識がなくなる「もやもや病」だ。脳の血管が徐々に細くなり、やがて詰まってしまう病気だ。国の特定疾患に指定され、難病の一つとされている。
運よく、もやもや病の名医がいる大阪の病院で手術を受けることになった。手術ともなれば、長期入院が必要になる。一番心配だったのは、妹たちの存在だった。私が入院する間、母は私に付きっ切り。一番甘えたい時期に甘えられなかった妹2人には申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
12月の冬休み。妹たちは父と祖母と一緒にお見舞いに来てくれた。鹿児島から大阪まで800km 。車で約片道13時間の道のりを、幼い妹たちはわざわざ会いに来てくれたのだ。物音一つない病院の空間は、妹たちにとってとても苦痛な時間だったに違いない。それでも、妹たちが病床で美味しくピノを食べる姿を見ているだけで、私はとても嬉しかった。と同時に、2つ離れた妹が、しっかり一番下の妹を面倒見ているのを見て、とても頼もしく思えた。長期に渡る闘病生活は、家族の支えもあり、手術は無事成功した。術後、20数年経った今でも、後遺症もなく、今は元気に日常生活をおくれている。
「長女」は、責任感がある、真面目、面倒見がいいとよく言われるが、決してそうではない。
本当は、甘えたい時もあるし、たまにはわがままも言いたい。それを勝手に我慢してきたのは他でもない自分自身だ。「長女だから」と理由をつけて、ずっと長女という殻に籠っていたんだ。もし、私が病気をしていなかったら……妹たちは甘えん坊のままだったかもしれない。決して病気になることが良いことではない。だが、病気を通じて私は、妹たちとの関係性を深いものへと導びかせてくれた最高のチャンスだったのかもしれない。
現在、妹2人は東京と神奈川で看護師として活躍をしている。久しぶりに会うと、妹たちの方がしっかりしていて、私が妹みたいで恥ずかしい時がある。でも、お姉ちゃんぶらなくていいかもって思えるようになったのは、あの時、彼女たちのたくましい姿を見たからかもしれない。
妹たちの身長は私の身長をぐーんと追い越し、今では私が一番小さい。今でも、幼少期からずっと変わらず、「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と慕ってくれる妹たち2人が可愛くて仕方がない。
妹が2人いるお陰で「お姉ちゃん」という存在で居られるんだ、と改めて妹たちの存在に感謝したい。いつまでもこの関係が続きますように。
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