影を追うことこそが英語上達の近道である
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記事:松波 利幸(ライティング・ゼミGW特講)
「よし!久しぶりにTOEICでも受けてみるか!」
私はいつになく意気込んでいた。
遡ること4年前。私が身をおいていた会社で海外事業部の立ち上げが確定したのだ。
私はもともと英語が大好きであった。
中高生時代に「得意な科目は?」 と聞かれれば、真っ先に「英語」と答えていたし、大学も外国語学部英米学科に進学したほどだ。
本当は英語を活かした職業に就きたかったのだが、就職活動時期にはまさかのリーマン・ショックが勃発……職種を選んでいる場合ではなかった。
結局、東京の不動産販売会社に就職することとなった。
全く英語を使うことなく約7年勤務していた時、舞い込んできたのが海外事業部の立ち上げだ。
「これはチャンスだ!」
心の中で叫んだ。
見たところ周りの社員に英語が得意な人はいない。
「TOEIC高スコアをアピールすれば海外事業に参加できるかもしれない」
私は意気揚々としていた。
で、TOEICの結果……
「620点」
「あれっ……(絶句)」
低スコアとは言えないまでも、決して他人にアピールできる点数とは言えない。
さすがにショックが大きい。
大学生時代には800点近くのスコアを取得したこともある。
いくらブランクがあるとは言っても、ここまでスコアダウンするとは思いもよらなかった。
いや、嫌な予感はしていた。
TOEICを受けた際、明らかにリスニングで聞き取れない箇所が多かったし、読むスピードも格段に下がっていることに気づいた。
「あ、この単語、学生時代なら覚えていたのに」 そう思う場面も多々あった。
が、凹んで終わってしまっては、何の進歩もない。
「よし!英語学習を再開しよう!」
私は再び意気込んだ。
英会話スクールへの申込を真っ先に検討したが、どれもイマイチ。
想定はしていたが、受講料もやはり高い。年間100万以上かかるものばかりだ。
高いお金を払って効果があるかも分からない。
そんな時、本やインターネットを検索する中で、ある英語上達法に出会った。
「シャドーイング(Shadowing)」だ。
シャドーイングとは、英語を聞きながら、聞こえてくる英文のすぐ後ろを影(Shadow)を追いかけるように、その英文を復唱していく訓練方法である。
最近では、英会話スクールやRIZAP ENGLISHのような英語トレーニング塾でも取り入れられている手法である。
半信半疑ではあったが、無料でできるのは魅力的だ。
とある出版社から「スクリーンプレイ・シリーズ」という映画セリフ集が発売されており、映画のセリフを全編にわたり英語及び日本語で文字化したものだ。
映画好きの私にとって「うってつけ」の教材といえる。
選んだ映画は、「プラダを着た悪魔」。
特別好きな映画ではなかったが、スクリーンプレイ・シリーズの中でもトップクラスの人気を誇っており、レベルも初級~中級で初めてのシャドーイングには丁度良い。ファッションビジネス界で働く女性を主人公にしているため、ビジネスシーンの英語を学べるのも一石二鳥であった。
ということで、私のシャドーイングライフがスタートした。
さて、いざやってみると……
めちゃめちゃ難しい!!
最初のシーンに登場するエミリーという女性はイギリス訛りのアクセントで、会話スピードもめちゃめちゃ速い。
その後に登場するミランダ(主人公の上司で、物語の主要人物)によるマシンガントークのシャドーイングは更に難易度が高く、まるで付いていけない。
「これ本当に初級レベル?」 そう思ったが、すぐに諦めてしまうのは嫌だったし、まずは3ヶ月続けてみようと心に決めた。
1週間以上かかってしまったが、最初の3頁をクリアできたのに達成感を感じることができた。
その後、毎日毎日シャドーイングを繰り返し、不思議と習慣化されていった。
毎日の通勤時間には、AirPodsを耳にあて、ブツブツと影を追うようにシャドーイングしていた。
周囲の人からは「変な人」扱いされていたかもしれない。時に訝し気に私を見る視線も感じた。
さて、そんなこんなで3か月後に再びTOEIC。
結果は……
「730点」
「おっ!」「悪くない。まだまだだけど。」
3ヶ月前と比べれば試験の手応えも感じていた。
どうやらシャドーイングは本当に効果があるようだ。
その後も毎日欠かさずシャドーイングを続けた。
「プラダを着た悪魔」は半年で全編クリアし、その後も他の教材でシャドーイングを続けた。
シャドーイングを始めてから1年後に受けたTOEIC。
結果はというと……
「780点」
「おおお!」
「800点いかなかったのは悔しいけど、確実に効果は出ている」
そう実感していた。
外国映画を見ていても、以前よりも明らかにセリフを聞き取れるようになったとも実感していた。
さて、結局、私は海外事業部に参加することはできなかった。
経験者を新規採用していたし、海外事業の準備は、私がシャドーイングライフを続けている間にどんどん進んでおり、「時すでに遅し」 であった。
だが、この経験は無駄だったとは思わない。
その後の転職活動で評価は上々だったし、道行く外国人に道を尋ねられた時も会話に困ることがなくなった。
現職でも英語を使う機会はないが、相変わらずシャドーイングは続けている。
「いつか必ず役に立つ」
そう信じて、今日も私は影を追う。
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