泣き虫新入社員が、ネイルによって自信を取り戻したワケ。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:秋良(ライティング・ゼミGW特講コース)
社会人になりたての頃、私は毎日のようにトイレで泣いていた。
就職活動を乗り越え、ようやく憧れの業界の会社に入社。
就活氷河期に内定を勝ち取ったことで抱いた「私は優秀なのかもしれない」という幻想は、速攻で打ち砕かれていた。
先輩達の圧倒的なアイディア力と実行力、そして体力。
仕事の出来る同僚に追いつくために、がむしゃらに仕事をこなした。
それでも毎日のように指導を受け、自分の仕事の出来なさと直面する日々。
価値を提供出来ず、どんどん透明人間のようになっていく自分が悔しくて溜まらなかった。
気がつけば、化粧ははげかけ、髪もぼさぼさ。
でも、そんなことどうでも良くなっていた。
外見を気にしている暇があったら、資料を読み込んでいたかった。
「おお、毎日頑張ってるね」
そんな苦しい日々の中で、目標としている女性の先輩が居た。
いつもパンツ姿でさっそうと社内を歩き、「彼女にしかこの仕事は出来ない」と評価は抜群。
さらに後輩への気遣いも忘れない。
とても美しく、かっこ良い先輩だった。
「……なかなか、仕事が出来るようにならなくて」
「肩に力入りすぎてない? 大丈夫?」
苦笑して髪を書き上げる先輩の姿を見上げた時、ふと視界の隅に青いものが入った。
違和感を感じて、眼をこらす。
白くて細い指先に、綺麗に塗られたターコイズのネイル。
美人でありながら、常にパンツ姿でボーイッシュな印象のあった先輩がネイルをしていることに、少し驚きを感じた。
でも、その指先の美しさがとても印象に残った。
「……ネイル、きれいですね」
私も、ネイルをしたら先輩みたいになれるかな。
ぼんやりそう思った瞬間を、今でも覚えている。
リフレッシュになるから行ってみれば、という先輩に行きつけのネイルサロンを教えてもらい、どきどきしながら店内に足を運ぶ。
「いらっしゃいませ」と柔らかい微笑みを浮かべるスタッフ。
所狭しと置かれたネイルの綺麗なサンプルを眺めていると、疲れた心に、少しづつエネルギーが充填されていくのを感じた。
「オフィスでされるなら、最初はシンプルな方が良いかもですね」
ふんわりと良い香りのするネイリストさんは、初めての体験におろおろする私に優しくアドバイスをし、丁寧に指先を彩ってくれた。
1時間位で施術が終わり、店の外でドキドキしながら、手のひらを太陽にかざす。
綺麗なピンクベージュに彩られた爪は、きらきらと光を放っているように感じた。
ネイルをするようになってから、たくさんの変化が起こった。
常に綺麗なものが身近にある、という環境は、思った以上にエネルギーを与えてくれる。
例えば、疲れ果ててお風呂にも入らずベッドに倒れ込み、絶望的な気持ちで眼を覚ました朝。
慌てて携帯電話で時間を確認すると、いつも通りの綺麗なネイルが眼に入る。
今日もネイルは綺麗だな。
ぼんやりとした頭で考えながら、シャワーを浴び、服を着替え、ネイルに負けないくらい綺麗な色の口紅を引く。
鏡の中の自分が出来上がって行くにつれ、思考がクリアになって行く。
ネイルを始めたことで、外見に対して以前よりも意識するようになっていった。
せっかく綺麗な爪をしているんだから、それに見合う自分でいたい、と自然に思うようになったのだ。
さらにネイルは、ケアをさぼっていると、だんだん色があせて、はげて行く。
自分がそのときどれくらい忙しいのか判断する、客観的な基準になりうるのだ。
残業中、いつも以上にかたかた鳴り響く自分のタイピングの音に顔をしかめて手元を見ると、大抵ネイルはぼろぼろで、すっかり爪が伸びてしまっている。
ああ、忙しい時期が続いているな、きっと自分は疲れているな。
「はげたネイル」という事実からそう気がつくことが出来、きちんとセーブして仕事を行うことを意識するようになった。
また、コミュニケーションの上でも、ネイルの力は大きかった。
周囲にはネイルをしている女性が多く
「ネイル綺麗ですね」
という会話がきっかけで、話が広がって行くことがとても多かったのだ。
ネイルは、様々な色やパーツがあり、デザインを選び出したら切りがない。
その結果、誰かの指先を彩るネイルには、何らかの思いが詰まっている。
またネイルは、気に入らなかったら別のデザインに変えることが比較的容易い。
逆説的に言うと、その瞬間にそのネイルをしていると言うことは、そのネイルが気に入っているということだ。
自分の気に入っているものを褒められて、嫌な気持ちになる人はそんなにいない。
人見知りで初対面の人となかなか話せなかったわたしが、ネイルを入り口にたくさんの人と話せるようになっていった。
「あ、ネイルしてるんだ」
初めてネイルをしてから数ヶ月たったある日、会社の飲み会でそう声をかけられた。
頭が良すぎて、雑談すら緊張する他部署のエースだった。
「細かいところまで、きちんと気を使ってるんだな」
咄嗟に声がでなかったが、じんわりと心に嬉しさが広がって行った。
周囲からそのように見てもらえる、ということは何だか自信に繋がった。
そしてずっとそう思い続けてもらえるように、ネイル以外もきちんとしよう、と改めて思うようになった。
あれから数年が経ち、新しい仕事の都合から、今の私は普段ネイルをしない。
それでも、ここぞ、と気合いを入れたい時はネイルをしにいく。
時には、たった一つのことのために、願いを込めて。
そして、心の中呟く。
大丈夫。
私は頭のてっぺんからつま先まで、準備万端だ。
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