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痔で本気で死にかけた話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:吉田 陽子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
ちょうど1年前、私は痔で死にそうになった。
死ぬなんて、大げさに聞こえると思うけど、本当に死に瀕した。
体の3分の1の血がお尻から出ていった。
お医者さんには、すぐに輸血をするように勧められるほどだった。
世間は浮かれ気分のゴールデンウィーク。
私は、そのゴールデンウィークを丸々病室で過ごす事になったのだった。
 
痔を患ったのは5年程前だった。最初は症状も軽く、時たま血が出る程度だった。
いぼが出ていたわけでもなかった。
けれど私の痔はじわじわと、そして着実に悪化の一途をたどった。
トイレットペーパーに毎回血がつくようになり、しばらくするとぽたぽたと血が滴るようになり、しゃーっと音を立てて血が噴き出るようになった。しまいにはレバーのようなむにゅむにゅした血の塊が出てくるようになった。
もはや大便の時だけではなく、トイレに座るだけで出血するようになっていた。
 
それなのに、なんだか他人事のような気がして、トイレットペーパーにレバーのような塊を乗っけて、むにゅむにゅの感触を楽しんだりして遊んでいた。
ずーっと他人事のような気がしていた。
 
痛みが一切なかったのだった。不思議な感覚だった。
視覚から入ってくる映像は、かなり衝撃的なものだったと思う。
便器は毎回毎回真っ赤に染まり、まさに血の海だった。女だから、血を見る事に耐性があったのがよくなかったかもしれない。私が男だったらその時点で病院に行く覚悟を決めていただろうと思う。
 
「こんなに血が出て大丈夫かなぁ」と呑気にぼんやり思ってもいた。
もちろん大丈夫ではなかった。
 
まず、500m続けて走れなくなった。
それまでは週末に20㎞以上余裕でランニングをする程だったのに、急に走れなくなった。けどこの時はまだ原因が痔だなんて思っていなかった。
 
次に階段が登れなくなった。
5段登る度に息が切れて休憩しなければいけなくなった。半蔵門線の地底深さを毎朝恨んで出勤していた。こんなところで、「世の中にはバリアフリーがまだ全然行き届いていないな」なんて気づかされたりしていた。
 
少しすると、ちょっとした坂道が登れなくなった。
普段の生活では気付かないようなちょっとした傾斜が登れなくなった。
例えば、2,3段の階段の脇に設置されている緩やかなスロープ程度の傾斜だ。
 
さすがにこの時には、何かがおかしいと感じていた。
それでも本当に不思議な事に、この体調不良の原因が『痔』だなんて、どうしてもピンと来なかった。
 
お尻ではなくて、「実は内蔵からの出血なんじゃないか? もしくは婦人科系?? 」
なんて、往生際の悪い事を考えた。無駄に腸の内視鏡検査や婦人科系の検査もしてもらった。もちろん異常はなかった。
 
お尻から毎日溢れんばかりの血が出ているというのに、どうしてもそれが原因でこんなに体調が悪いなんて結びつけたくなかった。
自分が『痔』だという事が、とてもかっこ悪い気がしていた。負けの烙印を押された気になっていた。どうしても『痔』を受け入れられなかった。家族にも友達にも相談すらしたくなかった。
 
そうは言っても、現実は明らかだった。
受け入れられないなんて言っている場合ではなくなった。顔は青ざめ、唇は真っ白になった。
ついに観念し、肛門科へ行った。
 
そして即刻入院・手術となった。あと1日でも流血させていたら、輸血を免れなかったかもしれない。
 
急に体の3分の1の血が失われると死に至る事もあるが、私のように徐々に血が失われていく場合、体が少ない血で過ごす事に事にだんだん慣れていってしまうのだという。
人間の体って本当によくできている。
しかし、心臓はムチを打ってフル稼働させられている状態になる為、心筋梗塞の危険も出てくるとの事。本当に危険な状態だった。
 
手術は一瞬だった。「15分程で終わるよ~」と言われていたはずが、50分超にはなってしまったが、今までの5年間を思えば、こんなにあっさりかと思う程あっさりと終わった。
 
それでも術後は本当に辛かった。
手術の日の夜と次の日はずっと熱が出ていた。痛み止めを飲んでも痛かった。
体が、治ろうと闘っているから熱が出るという事を初めて知った。
 
入院中は6人の相部屋で過ごしていたが、痔で悩む人はこんなにも多いものなのかと驚かされた。そして20代・30代で悩んでいる方がとても多い事にも。
他の患者さんの話を聞いていると、次の日にはケロッとしていてほとんど痛がっていない。
自分とは全く温度感が違っていた。
大体は、1か所か2か所を切り除くだけのようで、そこまで痛みはひどくないらしい。私のように5か所も切除する羽目になる方はほぼいないとの事だった。
痔を受け入れられず、甘く見てきたツケがここにまわってきたのだった。
 
痔は本来はそんなに怖い病気ではない。
そしてもちろん、恥ずかしい病気でもないし、かっこ悪い事でもない。
3人に1人は痔を患っているという時代だ。
普通の風邪と同じような感覚で、病院に行くべきものなのだ。
もし痔で悩んでいる方がいるのなら、つまらないプライドで痛い思いをしてほしくない。
すぐにでも病院へ行って一日でも早く治療を開始して欲しい。
 
 
 
 
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2019-05-23 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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