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スコーンが焼けないと外国人男性からモテる


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:田中たぬき(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「田中さん、スコーンは作れますか?」
職場の先輩から唐突にショートメッセージが届いたのはのんびりとした休日の午後だった。
「社長から指令です。明日のお教室で生徒さんにお出しするスコーンを作ってください。
事務所にレシピと材料はあります」
 
私の勤め先はガーデニングショップ。この春から働き出してまだ間もない。
お花の苗やポットをショップで販売したり、お庭のデザイン施工をしたり、ガーデニング教室を開催したりとガーデニングにまつわることを幅広く手掛けている。
ヨーロッパのおしゃれなガーデニングライフを楽しめると、県外からわざわざ足を運ぶお客様もいるほど人気のお店だ。
 
社長は数々の受賞歴を誇るガーデンデザイナー。
ガーデニング教室の講師も務める。
明日のお教室のテーマは「ガーデンパーティー」。ガーデニングショップの中庭で英国式アフタヌーンティーを楽しむ優雅なひととき。
そのパーティーで生徒さんに召し上がっていただくスコーンを作りなさいというのだ。
 
自慢ではないが私は料理が苦手だ。
アラフォー独身にして、毎晩近くに住む母の家においしい晩ごはんを食べにいくご身分。
料理を全くしないというわけでもないが、いざ作ろうにも普段料理をしないものだから何をどうしたらいいのかさっぱりわからない。
お菓子など生まれてこのかた作ったこともなく「いわんやスコーンをや」である。
 
自分ひとりが食べるぶんならまだしも、人様に食べていただく料理とあっては下手なものは作れない。
しかもガーデニングを優雅に楽しむ舌の肥えたマダムたちに召し上がっていただくスコーンだ。
失敗など許されるはずもない。
 
「料理が苦手でスコーンは作ったことがないのですが、どうしましょう?」
スコーンなんて作れません! 私、料理苦手なんで!
とも言えず恐る恐る先輩にそう返信してみた。
「(社長に)聞いてみますね!」
察してか優しい先輩の返信メッセージのあと待つこと数分。
「簡単なので、材料を計るくらいはできると思います。
レシピ通りに材料の準備をしておいてください、とのことです」
 
「わかりました。ご確認ありがとうございます」
平静を装いメッセージのやりとりを終えたものの、内心は落ち着かないまま。
材料を計るだけ……それなら私もできるかも。
でもちゃんとできるかな。何か起こりそうな気がする。
うう、プレッシャー。
 
かくして不安は的中した。
翌朝出勤しスコーンのレシピを探しだす。
人数分の小麦粉、ベーキングパウダーを計量していると、スーツケースをゴロゴロとひきながら東京出張から朝イチの便で社長が戻ってきた。
そう、社長は多忙なのだ。
 
私を見るなり顔をのぞきこんで社長はこう言った。
「田中さん、料理が苦手っていうのは昨日聞いたけどね。
自分でつくってごらん。スコーンなんて誰にでもできるから。
女性ならこういうことを楽しんでできるようにならないと」
 
にこやかにそう言う社長の目の奥は笑っていなかった。
「私は忙しいんだからスコーンくらい作りなさい。仕事でしょう」
そう言われている気がして冷や汗がでそうだった。
 
いま午前11時。
お教室が始まる30分前の13時までにはスコーン作りをはじめ、その他もろもろの準備を全て終えておかなければならない。
頭の中でミッションインポッシブルのテーマが流れはじめる。
「13時までだから時間は十分よね」
そう言い残して社長は去っていった。
 
繰り返しになるが、私は料理が苦手だ。
人様に食べていただくスコーンを作るなんて生まれて初めてのことだ。
しかも制限時間内にお仕事として。
もう泣きそう。
 
レシピを見ながら①小麦粉とベーキングパウダーをふるいにかける。
(ふるいって……ここにあるふるい、私の知ってる形じゃないけど本当にこれ使うのかな)
②砂糖とバターをくわえ指先ですり混ぜる。
(すり混ぜるってなによ! 指でするように混ぜるってこと?
こう? こうなの?! ……そしてゴールがわからん!)
③混ぜ合わせた材料を3センチの厚さにのばし四角く切る。
(何の上でどうやってのばすの?まな板とめん棒があるけど。
うわ、なんかべちょべちょしてくっついてくる。これ本当に切れるの?)
 
べちょべちょの生地の前で途方にくれかけていると社長がやってきた。
社長「ちょっと何してるの!」
私「え……生地をのばして切ろうと」
社長「板とめん棒に打ち粉はした?」
私「いえ……」
社長「料理教室にいったことないの?」
私「はい」
社長「ダメだわ! 誰かわかる人きて! 続きをを変わって」
 
ベテランの先輩にバトンタッチして私のスコーン作りはあえなく終了。
先輩も自分の仕事があるだろうに、申し訳ないやら恥ずかしいやら。
 
そして前日に買っておいたパーティー用のマカロンの色に社長のダメ出しが入り
「濃いピンクじゃなくて薄いピンクのマカロンを買ってきて!」
との指令に急遽買い出しに走ることになった。
 
ケーキ屋を3件はしごし何とか薄いピンクのマカロンを見つけて帰ってくると、きつね色の焼きたてスコーンがキッチンに並んでいた。
 
そんな私だが、実は外国人男性とおつきあいしている。
スペインとイタリアのハーフでイケメンの彼は料理が得意だ。
 
初めて彼が私の家に泊まりに来たとき、お腹が空いている彼にごはんを作ろうとしたことがある。
食にこだわりのある彼は
「いいよ。自分でスープ作るよ」
と冷蔵庫のありあわせのもので手早く料理をはじめた。
私に気を遣ってくれたのもあるだろう。
「ライスある?」
と聞かれ、冷凍していた玄米を解凍して彼にあげた。
作りたてのスープと解凍したてのごはんを彼はおいしそうに食べたかに見えた。
 
しかし後日、彼はこう告げた。
彼「あのとき食べたライスは焦げて固かった。僕は思ったね。
『なにこれ。あーこの子は料理できないね。だから前の男に逃げられたね』って(笑)」
私「ひっどおい! 逃げられたんじゃないし、私がふったんだし!」
 
確かに私は圧力鍋で玄米を炊く度に焦げつかす。
何度やっても。そのくらい料理が下手だ。
 
でも彼はそんな私をかわいいと言ってくれる。
「料理ができなくていつもママのごはん食べて。
いくつになっても子どもみたいにピュアな君が大好き」
 
女だから、いい歳だから、料理ができなきゃいけない?
そんなことはない。
 
人には向き不向きがある。
苦手なことをがんばってやろうとしなくたっていい。
不完全な私をありのままに愛してくれる人がいる。
 
お互いが得意なことをして支えあっていけたら楽しい。
ちなみに私は皿洗いが得意。彼は苦手だ。
 
スコーンが焼けないほうが外国人男性にモテるのだ。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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