迷惑は、大きくすれば社会がまわる
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ブロムベリひろみ(ライティング・ゼミ平日コース)
北欧のスウェーデンに、かれこれ20年ほど住んでいます。
引っ越した当時は日本からは遠い国でしかなかったけど、近年は北欧ブームでおしゃれなインテリアや雑貨だけでなく、ヒュッゲやらラーゴムやらフィーカやら、そのゆるく充実してそうな暮らし方が注目されている国です。
「北欧ってワークライフ・バランスがよくて、休暇がたっぷりあって、福祉が充実して、老人ホームではゆったり個室でワインとか飲んでるんですよね!」などと、北欧の暮らし方に興味を持つ人から話しかけられることも増えました。
最近は、小さなお子さんのいる日本人ファミリーが、育児休暇の充実ぶりなどに魅力を感じて、スウェーデンに移住してくることも、ものすごく珍しいことではなくなってきました。
スウェーデンでは子供ひとりにつき、両親合わせて480日の育児休暇をとることができます。そしてそのうちの90日ずつが父親に固有、または母親に固有の育児休暇です。日本でも巡回写真展として話題になった、育児と格闘する「スウェーデンのパパたち」は、スウェーデンでは本当にもうどこにでもある日常の話です。
でもちょっと考えてみてください。
あなたは職場で5人のチームで働いている。あなた以外の4人は30代から40代の男性・女性で、偶然にもその4人が同じような時期に育児休暇をとることになりました。あなたは40代後半の男性で子供はいないし、これから先もおそらく育児休暇をとることはないと思っています。
この状況、あなたにとってとても迷惑?
これは私の夫の職場での話です。ここの「あなた」は私の夫。私達には子供はいません。
上の例は少し極端な話かもしれませんが、一般的にスウェーデンでは育児休暇が重なったりしてもだれも遠慮しないし、休暇を取ることを申し訳ないとは思ったりしない。
スウェーデン社会で育ってきた夫も、すごい偶然! 本当か! とは思ったそうですが、ちょっと大変だとは思っても迷惑だとは思わなかった。仕事は一時まわらなくなっても、子供ができたら育児休暇を取ることは当たり前。それがスウェーデンの職場です。
少し日本の話もしましょう。
私がスウェーデンで最初に働いた会社では、日本に顧客がたくさんいました。そしてある日、ある取引先をスウェーデンから訪ねていったら、たまたまその打ち合わせ当日の朝、取引先の担当者(男性)に長女が生まれ、その担当者の上司がかわりに対応してくれたことがありました。
その上司は不都合を謝ってくれ、担当者は明日には職場に戻りますから、と説明してくれました。それを聞いた私は嬉々として「スウェーデンならお父さんも出産時に10日の休暇がとれるんですよ」と話しました。ですが、その上司から返ってきたのは「それはえらい迷惑な話ですね」という言葉。
そうか、日本ではこの手の話は個人と個人の迷惑の話になってしまう。だから状況は簡単にはかわらない。だれも人に迷惑なんてかけたくない。私達は「人様に迷惑をかけるんじゃない」と親から教えられてきたのですから。
スウェーデンでは迷惑を社会化して、その社会を大きなお互いさまで回しています。だから当然の帰結として、その分不便で大変なことも多いです。
これまで話してきた育児休暇の時や、一ヶ月ほどもある長い夏休みの際には、当然のように休んでいる人の仕事は止まるしプロジェクトは進まない。イライラしはじめたらきりがない。
平日の遅い時間や休日に働きたい人はあまりいないから、お店は早く閉まるし、やってない。お医者さんだって夏休みは取りたいから、夏の病院は開店休業状態。だからその時期は病気にならないように気をつけなくてはいけません。この状況を「夏の怪談」と揶揄する人もいるほどです。
そして育児休暇とは別に、子供が急に熱をだしてしまった時には数時間単位でも使える子供看護休暇制度も年間120日あり、同僚が会議の途中で突然帰ってしまうのもよくある話。でも、この制度があるからお父さんもお母さんもみんな働きながら子育てができる。そしてその状況は、みんな同じように「お互いさま」です。
多くの人が避けては通れない一時的に大変な状況のサポートを社会化して、みんなでイケてない状況も分かち合う。迷惑というと一方通行にやってくるものですが、迷惑を双方向で考えたとたん、それは「お互いさま」という温かな言葉になる。双方向と言っても自分の方にいいことが返ってくるのはもしかしたら来世になるかも? くらいのスタンスでいるのがカリカリしないコツかもしれません。
個人対個人の「迷惑な話!」を、大きく大きく社会化すると安心して暮らしていくための社会の仕組みになる。育児も看護も介護も年金も。
国の仕組みを突然大きく変えることは難しいけど、私たちひとりひとりが「迷惑」や「お互いさま」をもう少し大きな枠でとらえることができると、なにかとギスギスしがちな日本の職場も、少しだけゆったり北欧化するかもしれません。ぜひお試しください。
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