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痴漢に遭遇したあなたへ……


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記事:akko(ライティング・ゼミ書塾)
 
 
悲しい事実がある。
 
多くの女性が人生で1度は痴漢に遭遇しているという事実。
 
「そんな格好で歩いているから」
「隙があるんだよ」
 
しばしば被害者である女性が非難されて来た。
悲しい事実だ。
 
私が1番初めに痴漢に遭ったのは、忘れもしない、高校生の頃だった。
自宅まであと数メートルという距離だった。
雨も止み、爽快な気持ちで自転車を漕いでいたとき、後ろから来た車に呼び止められた。
 
「〇〇駅に行きたいのですが、この方向でいいですか?」
「地図を持っているから、教えてください」
 
運転席の窓を全開にし、膝には地図が置いてあった。
まだカーナビなどなかった時代なので、地図を見ながらの運転は不自然ではなかった。
 
親切心。
親切心で、地図を覗き込んだ。
でも覗きこんだ瞬間に、私はそうするべきではなかったことに気づいた。
 
露出狂。
露出障害。
 
露出障害という精神疾患を知っているのは、診断された本人か医療者くらいだろう。
露出狂も障害になると、犯罪ではなく病気としての地位が与えられるのか?
 
「少なくとも6ヶ月間にわたり、警戒していない人に自分の性器を露出して得られる反復性の強烈な性的興奮が、空想、衝動、または行動に現れる」
 
診断基準のうちのひとつである。
露出するのも病気なら仕方ない。そう思えるなら、それでいい。
でも仕方ない、では済まないのが心情だ。
遭遇した私たちは、どうやって身を護ればいいのだろうか。
 
もうひとつ遭遇体験がある。
社会人になった私は、毎日ほぼ同じ電車、同じ車両で通勤していた。
ある日のことだ。
平日の19時だったが、珍しく電車内は空いていて立っている人はまばらだった。
3人がけの席がひとつ空いた。寝ている女性、スーツ姿の男性、私、の並びで座った。
男性は通勤カバンを立てて膝の上に乗せていた。
ふと気配を察したのだ。
視界の隅で、男性の手が不自然な動きをした。
視線を落とすと、性器を露出していた。
カバンを立てているので、私か寝ている女性にしか見えない。
 
鼓動が高まった。
 
「どうしよう」
「逃げたい」
 
車内の人は誰も気づいていない。
立ち上がろうとしたのに、なぜか椅子から自分の身体が剥がれてくれない。
 
「ドッキン、ドッキン」
 
自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。
男性は明らかに私が気づいたことに気づいていた。
憎らしかった。バカにされていると思った。
何もできないなんて悔しい。
 
駅に到着する直前、おもむろに男性が席を立った。
 
「この人、痴漢です!」
 
誰かが助けてくれると思った。
でも、声を上げた瞬間、それは違ったと気づいた。
視線は私に注がれたが、車内は静寂に包まれたままだったのだ。
 
「この人、何言ってるんですか。おかしいんじゃないの?」
 
男性から反撃を食らった。予想外のことばかりだった。
一緒に電車を降り、改札までもみ合いになった。
 
「駅員さん、痴漢です! 助けてください!」
「自分で警察を呼んでください」
 
言葉を失った。
駅員ですら、手を貸してくれなかった。
通り行く人からの冷たい視線がいたたまれなかった。
泣きたくなった。
 
誰かが警察を呼んでくれたのだろう。やっと警官が2名改札口にやってきた。
 
「これで救われる」
 
離れたところで別々に事情聴取された。私は女性の警官に詳細を話した。
聴き取りが終わり警官から説明を受けた。
懲らしめたかったので、期待しながら耳を傾けた。
 
証拠がない。
男性の携帯を調べたが、盗撮はしていない。
訴えた場合、私は長時間に及ぶ調書を作成し、裁判にも出向かなければならない。調書作成は深夜までかかり、今後仕事も休む日が出てくる。
 
つまり、
 
「厳重注意で帰宅させました」
 
私だってプライバシーをかなり詳細に聴き取られた。
人々の冷たい視線にも耐えた。
何より、男性が露出したことで不快な目に遭ったのだ。犯罪ではないのか?
 
「厳重注意で帰宅」
 
こんな結末、全く予想していなかった。警察にすら、護ってもらえないのだと感じた。
 
脳裏には人々の冷たい視線がこびりついた。誰も助けてくれない惨めさが染み付いた。
翌日から電車に乗るのが怖くなった。時間も車両も変えた。それでも怖かった。
 
あの男性がいるのでは……。
また冷たい視線に晒されるのでは……。
 
恐怖と屈辱感を拭うのに、長い時間を要した。
 
次にまた同じ状況に晒されたら、私はどうするだろう。
対処方法などあるのだろうか。
 
「電車内痴漢等迷惑行為相談所」
 
警察署内にある相談所だ。ホームページには対処方法がいくつも挙げられている。
 
「次の停車駅で降りる。車両を変わる」
 
やはりこれが1番しやすいことかもしれない。
でもこれでは犯人は野放しになってしまう。
自分以外の被害者を作ることに加担している気もする。
 
逃げてばかりでは気が済まない。
携帯のアプリには無音のカメラがある。勇気を出して証拠を掴めば泣き寝入りせずに済むのだ。
自分の身は自分で護ればいい。
 
でも、誰も被害に遭うことのない安全な世の中がいい。
女性は声も上げない弱い人間なんかじゃない。
 
悲しいことに痴漢に遭遇したあなたへ……。
 
あなたは何も悪くない。
助けてもらえなかったことも、あなたのせいではない。
女性であることが悪いわけでもない。
怖かったね。
悔しかったね。
傷ついたのも当然だよ。
あなたは弱くない。
 
 
 
 
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2019-06-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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