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見つめられると心は揺れる


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記事:いしやま なおみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「もう2度としませんから許してください」
 
今まで人生で何回この言葉を使ってきただろうか。
この言葉を使うときは決まって心の底から反省していない。
私はそう思う。
 
だが、今までで1度だけこの言葉に心を乗せたことがあった。
しかも、心だけでなく、悲しい表情付きで。
 
20代前半の夏、転職活動中の私は自転車で街中を駆け回っていた。
次の面接の場所はあの公園の近くの雑居ビルだ。
日差しの強い昼下がり、
いつものように、ビルの横に自転車を停め面接する会社を訪れた。
 
面接は可もなく不可もなく、お互い惹かれ合わずに終わった感触だった。
次を探そう! と気分を切り替えて、家に帰ろうとしたところ
 
あれっ? ない!
 
停めていたはずの場所に、自転車がなかった。
私のお気に入りの自転車、一体どこへ?
 
この暑さで停めた場所を間違えたか?
もしかして、この短時間で盗られたか?
 
もう2度と来ることもないこのビルから早く立ち去りたいという思いで自転車を探す。
 
あった!
 
ビルの裏口のようなところに自転車は置いてあった。
フラフラと自転車に近寄ると、どこからともなくおじさんが現れた。
 
「それ、君のか?」
「あ、はい」
「あんなとこに止めたらあかんよ!」
「あ、はい。すみません」
「名前は? 住所は?」
「いや、このビルに用事があって来たもので……」
「どこの会社や?」
「……」
 
面接に来ただけで、今後会うこともない会社に迷惑をかけていはいけないと思い
質問を無視しておじさんを振り切ろうとする
 
「すみません、今後気を付けますから」
 
軽く謝って、解放してくれると思った。
 
「なんであんなとこにとめたんや? あかんと思わんかったんか?」
 
おじさんの勢いが止まらない。
しかも、結構怒ってる。
 
「そうですね……すみません」
 
「名前と連絡先教えてもらおうか!」
 
怒りがおさまらない、おじさんが攻め寄って来る。
なぜこんなに責められないといけないのだろうか。
暑いし、仕事決まんないし、ほんの一瞬自転車を止めただけなのに、最悪…….
 
もう勘弁してくれという思いで、あの言葉が口から出た。
 
「もう2度としませんから許してください」
 
私はおじさんの目を見て悲しい顔で訴えた。
 
ふっと一瞬、風が流れた。
 
おじさんは自転車を解放してくれたのだ。
 
やった!
 
心の中でガッツポーズし、
私はそそくさとその場を後にした。
 
その時学んだのは
目を見て心を込めて何かを訴えると、人の心を動かすことができるんだと。
あの時はじめて人を操った感覚があった。
 
私はあまり感情を出さない方なので、
自分の感情を込めて何かを訴えることは滅多にない。
あの夏の日から10年ぐらい経とうとしているが
心から訴えたことはあれ以来ない。(と思う)
 
しかし、世の中の女子はいとも簡単に人を操っている。
そう、それは「ぶりっ子」というものだ。
 
男性の目を見て、瞳をウルウルさせ
「棚の上のものを取って〜」
「足が痛いからもう歩けない〜」
「プラダの靴が欲しいの〜」
など自分の要求を伝え、男性に奉仕をしてもらう。
 
心の底から思っているかはわからないが
目を見て何かをうったえ、人を操るという行為には違わない。
本気じゃないとわかっていながらも、
それを受けた男性達はついついそれに答えてしまう。
 
たやすくぶりっ子を使える女子は相当な人使いだ。
すごいと思う。
 
目的は可愛く思われる為とか、好意を寄せる男性に一目置かれる為など
色々あると思うが、人をたらしめる行為を堂々とできる姿は憧れもする。
私にはまだその技を使いこなせていないのが悔しい。
 
また、ぶりっ子と近いものに幼い子供も似たような行為を時々する。
「アイス食べたい〜」
「歩きたくない〜」
こちらを見て可愛く顔をかしげる。
そんな表情されたら、男でなくてもイチコロである。
その子を喜ばせるために無条件で何かしてあげたくなってしまう。
 
子供は一人ではこなせない事が多く、周りの大人に頼って生きていかなければならない。
その中で、そのような技を身につけていくのだろう。
小さい頃から人を操るなんて、たいしたものだ。
 
もしかしたら、私も幼い時はその技を使っていたのだろうか?
いつからその技を忘れてしまったのだろうか?
残念でならない。
 
『大事なことを言うときは人の目を見て伝えるといいよ』
 
最近もある人からそう教わった。
けれどもなかなか照れ臭かったり自信がなくて出来ない。
せめて顔は相手の方を向こうという努力はしているが、
いざとなると、目を見て言葉を発することができない。
 
人を騙す大人にはなりたくないが、
世の中をうまくやり抜くためにはちょっとした技が必要である。
それが度を行き過ぎると非難されることになるが、
正直に生きていくよりも、技を使えた方が生きやすいのではないかと思う。
 
目を見ながら思いを伝えるのが難しければ
思いを伝えた後に3秒見つめるというのはどうだろう?
少し長めの技になるが、効果はありそうな気がする。
 
直接会ってやりとりする機会が減ってはきているものの
大事なことはやっぱり面と向かって伝えたいと思う。
 
目を見て思いを伝えることを
ゲームのように楽しんで見てはいかがでしょうか?
 
 
 
 
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2019-06-28 | Posted in メディアグランプリ, 未分類, 記事

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