メディアグランプリ

カンボジアの農村女性は、私の憧れ


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記事:後藤愛美(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
私は、カンボジアの農村の女性に憧れている。
 
今、私が働いているのは、アンコールワットがあるカンボジアの都市、シェムリアップから約1時間ほど離れたところにある小さな工房。農村の貧しい家庭から約60名の女性たちを雇用し、バッグやサンダルなどのものづくりをしている。私は1年ほど前から、この場所で女性たちのカウンセリングやトレーニングを行うチームの一員として働いている。
 
日本の人たちはこんなに屈託なく笑うだろうか、と思うほど、農村の工房で働くカンボジア人女性たちの笑顔はまっすぐで、透き通っている感じがする。仕事中にも、ちょこちょことおしゃべりしては、笑い転げている。目が合うと、優しくにっこりと微笑んでくれる。彼女たちの生活環境は経済的に厳しい場合が多い。家庭内の問題も多くある。そんな難しい環境の中でも、負けずに、楽しい時は楽しく、笑顔を忘れずに生きている。そんな女性たちの強くて、表裏のない笑顔が、私は大好きだ。
 
でも一方で、私は彼女たちと話す時、気づかぬうちに緊張している。カンボジア人のスタッフに通訳してもらったり、かたことのクメール語と、ボディランゲージで会話をする。その言葉の通じなさに緊張しているのかなと最初は思っていたけれど、最近それだけではないかもしれないと思っている。
日本語や英語であれば、自分がこれまで築き上げてきた会話術、コミュニケーションスキルなどを使い、自分がこれまでやってきた経験、所属や肩書きをベースにある程度会話ができる。でも、農村の女性たちとはお互いに言葉も通じない。もはや日本人である私たちとは、全く違う世界に住んでいて、自分のスキルや肩書きや、所属は、一切通用しない。そんな中で、何も持たないまっさらな1人の人間として、彼女たちと話をする気持ち。私には、それがとても怖いらしい。
 
何をそんなに繕っているの?
何をそんなに恐れて、逃げているの?
それがあなたのありのままの姿なの?
 
様々な鎧を取られた自分が、彼女たちのまっすぐに生きる姿に、そんなことを問われている気がするのだ。
 
高校生の時から、ずっとずっと、途上国支援の現場の仕事に携わりたいという思いで大学時代から努力を重ね、1年前に、カンボジアに赴任することになった。最初は、現場の最前線で働けるという喜びと、そこで見る彼女たちの笑顔に励まされ、それが自分の働くエネルギーにもなっていた。
しかし、現場の仕事は、私にとって想像以上に辛かった。工房で働く女性たちの人生について、常に答えのない問いに向き合う。前例もなければ、問題解決の型があるわけでもない。どう進めていったら良いのか全くわからず、何かを試してみて失敗するのも怖く、毎回難しい、難しい、と繰り返して、その場をしのぐ。何の役にも立っている気もせず、そうやって逃げ続けている自分が彼女たちにどう思われているのかが心配になり始めたりして、究極的には私は彼女たちの人生に興味がないのではないか、現場の仕事をするのには向いていないのではないか、と結論づけそうにもなる。
 
そんなある日、工房でぼんやりと、女性たちが働く姿を見ていると、ふとさっきの問いが聞こえてきたような気がしたのだ。自分のありのままで働く彼女たちの姿に、今の自分をすべて見透かされていて、あなたはそれでいいの?何をそんなに隠しているの?と問いかけられている気がして。でもそれは鋭い問いかけではあるけど、不思議と冷たいものではなく、あたたかく、あなたならできるよ、と私を応援してくれている気もした。
 
その問いに対する答え、というのはまだ全然見つかってはいない。でも私は、農村の女性たちこそがその答えを知っている気がする。きっと、彼女たちがありのままで生きている姿こそ、私がめざしたい、ありたい姿なのではないかと思う。
 
いわゆる途上国開発、を語る時、様々なものを持っている私たちが、そうではない彼女たちを支援する、という構図になりがちだと思う。でも、多くを持たない彼女たちから、私たちが学ぶことは数え切れないほどある。むしろ、もので溢れている今の世の中で、自分が背負っている鎧をすべて下ろして、自分がどうあるべきか、どうありたいかがとても大切になってきているのではないかと思う。そして、それを見つけるヒントは、カンボジアの農村にある。ぜひ機会があれば、できる限り多くの人に、この場所に訪れてもらいたいと思う。そして、一緒に鎧を下ろして、彼女たちのまっさらな笑顔に触れてほしい。
 
 
 
 
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2019-07-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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