人の死は新たな結び付きを作る
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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辻 範男(ライティング・ゼミ平日コース)
「はい、分かりました。すぐに伺います」
朝早くから妻の張りつめた声が響く中、自分の中ではとうとう来たかという思がよぎってくる。
「病院から、父危篤の連絡です。すぐに行かないと」
やはりこのことかと思ってしまった。早朝の連絡、いつにない緊張感が、嫌だが予感が当たってしまった。
思えば最近ボツボツ妻から、父が危ないかもしれないと言われていたのもあるし、義父ではあるが、自分も前日の夜は何となく眠りにくかったのも確かである。
モタモタしてられないので、まだ眠い中さっと出かける準備をして、近くの入院している病院へと向かっていった。
タクシーに15分程乗って病院へ到着。病室へ向かうと最初は入れなったが、そのうち入れて貰えると、人口呼吸器をつけられた義父に、医者が懸命に心臓マッサージをしてくれていた。
随分長い事してくれていたようだが、回復する兆しはみられず、これ以上行っても本人の体の負担もあるので終わりとなり、同時に死亡が確認される。
記憶を思い起こすと、身近な人の死に接するのは、まだ4歳位の時のおじいちゃんが最初であったが、小さすぎてあまり覚えていないものである。
次は、自分が25歳の時に亡くなったお婆ちゃんであるが、この時は遠くに離れていたので、死に際には立ち会っていない。
今回、義父で始めてしっかり記憶に残る、人の死の現場に居合わせた事になる。不思議な感じであまり現実感がなかったのも確かと言える。
義父とは、結婚の挨拶に行った時に始めて会った訳だが、その当時から体は弱っていて、残念ながら元気な姿はお目にかかることはなかった。
また一緒に住んでいた訳でもないので、お盆や正月に御挨拶に行く位になってしまったが、それでも交わした言葉のやり取りは記憶にしっかり残っている。もう話せないのかと思うと、寂しさが込み上げてくるのは止められないものである。
自分は結婚が遅かったのもあり、妻方の家族と親密な関係が築けてはいなかった。その為、十分な義理の息子としての親孝行も出来ていない。今さら後悔しても取り返しは付かないが、これを機に気持ちを新たにいきたいと思える。
「お久しぶりです。お元気でしたか?」
「今日会社は休みでしたか?」
今までほとんど話した事がなかった義兄達と、何気ない世間話が始まる。親戚とはいえ、これまで接触がほぼないので、少々ぎこちなさはあるが、ここからがある意味新しいスタートである。
先ず変わってきたのが、義兄達との関係である。妻には兄が2人いるが、結婚式以来ほぼ顔を合わせた事が無く、義父の死を縁として今新しい繋がりが始まろうとしている。
やはり冠婚葬祭(結婚式やお葬式)は何か特別なモノがあるのは間違いない訳である。結婚は新たな関係が始まっていくし、お葬式は残された者が今後を考えていかないとならない。
自分の場合、まだ両親ともに高齢にはなったが元気でいてくれるので、親孝行の機会はある。
“親孝行、したい時には親はなし”と言われるが、本当に人の命は何時どうなるか分からないし、明日の保証も無いのが現実である。
しかしながら、頭で分かっていても、日々生きていく中では、人は簡単に死なないという幻想を持っているのも間違いない訳である。
一体どんなスタンスで生きていったらいいのか? どんな人も年齢に関係なく何時かは亡くなるので、日々を悔いなく精一杯生きることである。
その中で縁ある方を大事にし、必要ならば良い人間関係に発展させていく事が大事となる。
今事務的な事もまだまだ多く、その事について話す事は多くなるが、これまであまり親戚として関わってなかったので、今後は大事にしていきたい。
今怒涛のように過ぎた、お通夜・お葬式を経て思うのは、人の死は一旦終わりではあるが、同時に新しい何かが始まっているのも間違いない事である。
家族、親しい人が亡くなった時、この方と縁があった方が集い、また新しい縁が始まっているのである。
こう思うと、人の営みは循環して繰り返され、その都度生き方を見直すように迫ってくるようなものである。
これからの自分は、
・自分自身悔いなく生きる
・家族関係をより良くする
・義兄との親戚関係をもっと持つ
・両親といる時間を長くする
といった重要な指針がみえてくるが、これなど義父の死が大きなきっかけとなったのは間違いない訳である。
目に見えない心理面にも大きな影響を与えるし、目に見える実際の行動も変化するもので、確実に新しいモノが芽生えてくるものである。
義父との直接の関わりは確かに少なかったが、今思いだしても様々なシーンが浮かんでくる。ましてやこれが両親だったらどうだろうかと思える。
人の死に立ち会うというのは重要な節目となる。ここからの新たな結び付きを大事にしていきたい。
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