メディアグランプリ

心を通わせるということ


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【8月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:不破 肇(6月開講ライティングゼミ・平日コース)
 
 
「なに〜、このロケ。AV撮影みたいになってる〜」
 
私のモデルさんに掛けた言葉がエロすぎて、女性の参加者が思わず声にしてしまったのだ。
天狼院書店のパーフェクトポートレート講座で、モデルさんと街に出て参加者の皆さんと一緒に写真を撮るワークショップでのことだった。
 
しかし、講師の榊智朗先生は
 
「不破さん、いいよ!」
 
「アラーキーがいるかと思った」
 
と言って頂き、有頂天になってしまっていた。
家に帰ってから、妻に「今日、ポートレート講座の榊先生という人に、アラーキーみたいって言われたで!」「これから俺のことフワーキーと呼んでくれ」などと、自慢げに話をしていた。
 
しばらく経ってから、そのポートレート講座で知り合ったY氏が、
 
「不破さんのポートレート撮影、面白かった!もう一回見たいから二人で撮影会しませんか?」
 
と誘ってくれた。
調子に乗っていた私は二つ返事でOKした。
 
Y氏からモデル候補が送られてきて、その中の一人セレナさんで決定した。
その後、香盤表(撮影のタイムテーブル)が送られてきた。
各ロケ場所のイメージ写真入りで、それぞれの場所での撮影時間、移動時間などが綿密に計算されたものだった。
 
日程を調整して、いよいよ撮影日。
セレナさんは、実際に会ってみると写真以上にめっちゃ可愛いかった。
ウキウキ気分になった。
Y氏は緊張しているようにだった。
私はテンションが上がって、いつものようにエロい言葉を連発しながら、セレナさんを撮った。
そして、撮影を終えた。
 
別れ際、
 
「またお願いします」
 
と言ったセレナさんの目線の先はY氏に向けられていた。
私を見ることはなかった。
 
「?」
 
彼女の態度に、何かモヤモヤする違和感を感じた。
後日、Y君と私は撮影した写真を本人に送った。
彼女のインスタに、Y氏の写真がアップされた。
私の写真はアップされなかった……
 
Y氏の写真は上手い。だからアップされた。
それで片ずけてしまっても良いのだが、あの別れ際の彼女の態度がどうしても引っかかる。
 
「何でかな……」
 
良く考えてみると、天狼院のパーフェクトポートレート講座の時も、同じような引っ掛かりを感じていたのだ。
同じ参加者の方々の視線、モデルさんの私に対する態度などを振り返ってみた。
それで気がついた。
 
私はモデルさんたちの気持ちを考えず、自分本位で写真を撮っていただけなのだと……そう考えると全てが納得出来る。
 
モデルたちは、その撮影のために最高のコンディションで臨んでくれる。
それに対して、エロい言葉をかけたりしたら失礼じゃないか! と。
彼女たちをもっとリスペクトしなければならない。
Y氏がロケハンをして、綿密な香盤表を作ったり、本人と連絡を取り合って衣装を決めたりして、本番に臨んだように、万全の準備をするべきなのだ。
それが彼女たちを撮るための礼儀であり、当然の心構えなのだと。
自分が撮りたいと思う写真を求めるのではなく、モデルをリスペクトして撮影することが大切なのだと分かった。
 
しかし、頭では分かっていても、反省が大きかった分、次の行動に移すことに躊躇した。
セレナさんの別れ際の冷たい態度、天狼院書店のパーフェクトポートレート講座での「AV撮影みたい」発言が脳裏をよぎるのだ。
「あ〜恥ずかしい」「アホやなぁ」と自分を責めて、穴があったら入りたい気分になった。
 
でも、
 
「ここで逃げてどうすんねん!」
 
と鼓舞するもう一人の自分がいた。
モデルのブッキングから撮影までを全て自分でやってみよう! と決めた。
 
ブッキングは、カメラマンとモデルをつなぐマッチングサイトで行った。
そのサイトでは、モデルによってギャラが違うのだが、あえてハードルを上げてギャラの高い人を選んだ。
このようなマッチングサイトでは、簡単に相手に内容が送れるように、フォーマットになっているが、それはあえて使わず心を込めてラブレターを書くようにオファーした。
 
モデルはNatsuki(なつき)さん。
ロケ場所は、日本大通りから海岸通り、大桟橋までに決めた。
自分の馴染みがあって、好きな場所なのだ。
そうすることで、他のことを考えずモデルさんと対峙できると思ったからだ。
ロケハンも撮影と同じ時間で、太陽の状態などを確認しながらじっくりと行った。
 
撮影当日、抜けるような青空が広がった。
いつになく緊張していた。
Natsukiさんとは、16時にみなとみらい線「日本大通り駅」の改札で待ち合わせた。
写真よりも美しかった。
しかし、以前のように浮ついたりしない。
 
撮影が始まった。
銀杏並木の日本大通りから、海岸通りへ撮影をしながら移動していく。
もうエロい言葉は使わない。
相手をリスペクトして声を掛けながら撮る。
 
海岸通りから大桟橋に向かう頃、Natsukiさんと私の間合いが縮まって、
お互いが自然な笑顔になった。
 
最後の撮影場所、大桟橋に着いた。
私の動きに合わせるように、Natsukiさんが動き出した。
夕日が輝いた。
風が吹いてきた。
Natsukiさんの髪がなびいた。
無心でシャッターを切った。
 
別れ際、
 
「また撮影しましょうね」
 
と言って「ギュッ」と握手をしてくれた。
 
……嬉しかった。
 
出来上がった写真はピンぼけが多かったけれど、そんなことは全然気にならない。
Natsukiさんとの撮影は、創造的な感性がビンビンと響く刺激的な時間だった。
そして、初めてポートレート撮影の本当の楽しさを知ったように思う。
家に帰ってからのビールがめっちゃ旨かった。
これからもモデルさんをリスペクトして、「心を通わせる」ことを大切に写真を撮っていきたいと思う。
 
 
 
 
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2019-07-18 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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