その痛み、VIP待遇で歓迎すべし
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:井村ゆうこ(ライティング・ゼミ平日コース)
「いたい、いたい」
8月下旬、真夜中の午前1時。隣に寝ていた5歳の娘が、泣いて目を覚ます。涙で顔をぐちゃぐちゃにして上半身を起こし、立ち上がろうとする。しかし、いつもはうさぎさながら、ぴょんぴょん飛び跳ねるように動く脚が、いうことをきかないらしい。
「やっぱり……やっぱり、来たか。例のやつが」
私は、リビングへティッシュを取りに行くついでに、長い夜の幕開けに備え、冷蔵庫から冷えた水を一杯飲んで、寝室へと戻る。娘は相変わらず、上半身だけ起こして、涙と鼻水を手の甲で、しきりに拭っていた。
「ほら、とりあえず鼻ちんして」
鼻水がつまっているのか、なかなか鼻がかめない。その間もずっと「いたい、いたい」という涙声が、娘の口から洩れる。予想通りの展開に、状況に反して、私は内心微笑まずにはいられなかった。
娘がもうすぐ5歳になろうかというころ、始まった。夜中に目を覚ましては、泣きながら痛みを訴えるということが。痛む箇所は決まって脚。特に太ももの部分だ。初めてのときは、脚に何か良からぬ事態が起きたのかと疑い、翌日慌てて整形外科の門を叩いた。
「これは、いわゆる成長痛ですね」
娘を診察し終えた先生が告げた診断結果に、ほっとすると同時に、娘の確かな成長を認めて、胸の内に淡いよろこびが、広がるのを感じた。そんな私の、心の動きを見透かしたように、先生が説明を続ける。
「お母さん。いわゆる成長痛というのは、お子さんの骨が成長しているからではないんです。子どもはまだ、筋肉や骨、関節が未完成なのに非常に活発に動くため、疲れがたまり、それが痛みの原因になっているんです」
成長痛とは文字通り、子どもの身体が成長するに伴って生じる痛みとばかり思っていた私は、よろこびがしゅんと、しぼんでいくのを感じた。確かに、娘はお昼寝もしないで、朝から晩まで遊びまわっている。ちょっと疲れさせ過ぎていたのかも……。
「それから、生活環境の変化による、心的ストレスが原因とも考えられます。最近、何か変わったことはありませんでしたか?」
追い打ちをかけるように、発せられた先生の言葉によって、私のこころの中の淡いよろこびは完全に姿を消し、濃い霧のような戸惑いが生まれた。
えー、まだ4歳なのに、ストレスってどういうこと? 生活環境の変化? 変わったこと? そんなの思いつかないけど……待てよ。もしかして、あれが、原因ってこと?
我が家は、娘が年中児になる春、岩手から大阪へ引っ越したため、娘は新しい幼稚園へ通い始めた。1学期の間にだいぶ幼稚園にも慣れた様子だったので、2学期からは、延長保育で午後5時過ぎまで預けるようになった。そして、延長保育初日を終えた日の夜、やってきたのだ。「いわゆる成長痛」というお客さまは。
それからは不定期に、見事なくらい変化を見逃さず、そのお客さまはやってきた。
娘が、英語教室に通い始めた日の夜。
夫が、初めて娘をこっぴどく叱った日の夜。
私が、出張で家を空ける前の日の夜。
我が子ながら、その繊細さには、驚きを通り越して、もはや「あっぱれ!」という心境だ。
普段はほったらかし育児推進派の私も、このときばかりは、全てをほっぽり出して、付きっきりにならざるを得ない。
それにしても、一晩中「この子の身体は、今ストレスを訴えているんだな」と思って過ごすのは、正直つらい。非常につらい。だから、私は自分だけの「成長痛の定義」を採用することにした。娘の脚の痛みは、疲れやストレスが原因の「いわゆる」成長痛ではなく、こころと身体が今よりも、ひとまわりもふたまわりも大きくなろうとしている証の「本物の」成長痛であると。
だって、そうではないか。娘は人生のさまざまな変化に直面し、そのストレスと戦い、自らを鍛えるという、成長ど真ん中にいるのだから。
成長痛を招かれざる客としてではなく、両手を広げて歓迎するVIPに格上げしたのだ。私は毎回、これ以上ないVIP待遇で、お客さまを丁重におもてなしする。すると、翌日の朝には、お客さまは満足して静かに帰っていく。
夏休みが終わり、明日から2学期開始という日の夜、午前1時。予想を裏切らずやってきたお客さまを相手に、私はこころの中で話しかける。
「やっぱり、いらっしゃいましたね。少し、私の話を聞いてくださいませんか。実は、大人になっても成長痛があるということが、最近分かったんですよ。私もまさか、40過ぎてそんな痛みに襲われるなんて、思ってもみなかったんですけどね……」
そうなのだ。私は現在、私自身の「本物の」成長痛と、がっぷりよつで取組み中だ。
6月から始まった天狼院書店のライティング・ゼミで、毎週1記事の課題を提出しながら、書くことのスキルアップに励んでいる。講義は残すこところ、あと2回。課題はゼミの修了証をかけた、ラスト4回へと突入していく。ライティング・ゼミを受講し始めてから、私には多くの変化が訪れた。書くことへの姿勢、書くための心構え、書くことのよろこびとつらさ……。
正直言って、「この内容で、いいのかな?」「この書き方で、大丈夫なのかな?」という不安と「書くことが思いつかないー」「締め切りまでに、間に合わなかったらどうしよう」という恐怖が、ストレスとなって襲ってくる。しかし、娘の成長痛同様、このストレスを、自分の書く力がひとまわりも、ふたまわりも大きくなっている証だと捉えたい。
ひとは、いくつになっても、成長できるということを、私は今、ひしひしと感じている。そして、その成長には、「痛み」となって現れる、ストレスが伴うということも、ヒリヒリと実感している。
大人だって、痛いのはごめんだ。だけど、この痛みが「今、ギアチェンジして進む、重要なポイントだぜ」と、教えてくれるなら、VIP待遇で歓迎すべきだろう。
成長痛は、自らの内側からわき起こる、魂の雄たけびだ。叫べ、叫べ、もっと叫べ!
でも、最後にお願いです。
思う存分叫び終わったら、速やかにお引き取りください。
そして、私が次のチェレンジを始めるとき、またぜひお越しください。こころから歓迎いたします。
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