最強の営業マンは誰だ!?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:清水佳哉(ライティング・ゼミ平日コース)
「早くしなさい! 遅刻するわよ!」
よく聞くセリフ、よく見る朝の風景。
どんな家庭にもありがちな、毎朝の景色がここにある。
自分の母親にこれを言われていたのは、さすがにもう40年近くも昔のことになる。
その後私も、学校を出て、大人になって、社会人として、企業戦士として生きることになる。
いわゆるサラリーマンである。
会社に入ってみると、多くの気付きがある。
なんとなく、まるでドラマでも観るように、自分の周りを見渡してみると、様々な人間模様があるし、いろいろな人間関係がある。
組織に所属するということ、そしてそこの中で生きるということ。
我々自身がドラマのセットの中で、それぞれの役を与えられ、演じているようにすら見てくる。
誰かのこぼす小さなつぶやきが、その人のドラマの中では、とても大切なシーンなのかもしれない。
あるとき先輩が言った。
「やってられねぇよ。そんなに簡単にいくかよっ! ふざけんなよ!」
そこに向けて、上司の声が響く。
「何か言ったかっ!? いいから早く行ってこいっ!」
「注文書を取ってこい! とっとと行け!」
先輩にしたって、文句のひとつも言いたくなるのは分かる気がする。
「そんなに頭ごなしに怒鳴らくても……」
私もそう思うからだ。
またあるときは、こんな事があった。
「なんだよこの商品? こんなの売れるかよ!?」
営業マンの会話だが、他社に比べて機能的に見劣りするとか、価格的に高すぎるだとか。営業マンあるあるだが、言い出したらきりがない。
どんな商品にも大なり小なり、違いはあるわけで、後発他社の商品が、本家で元祖とも言える我々の自社商品よりも機能的に進化させてきたり、価格勝負を挑んでくるのも、当たり前といえば当たり前な話のように思えた。
そうは言っても、私も含めて営業マンなどというものは、自分の会社であったり、商品に対して「もっとこうだったら良いのに」という期待が多きすぎるのかもしれない。
もっと機能が優れていれば良いのに。
もっとデザインが格好良かったら良いのに。
もっと価格が安かったら良いのに。
もっとサービス体制がしっかりしていれば良いのに。
私もそう思ったし、およそないものねだりをしがちである。
おねだりだけではなくて、文句を言ったり、売上が伸びないことを、自分の力量は棚に上げて、会社や商品のせいにしたり……。
どこにでもある風景で、本当によくあることなのだけれど、営業マンとしては、とっても恥ずかしいことでもある。
これまでも、結構恥ずかしいことをしてきたと思う。
でもそれが本当に「恥ずかしいこと」だと気がついたのは、まさかの台所であった。
自分では、週末しか立たない台所。
私がそこに立っても、決して目には入らないものが、うちの奥さんには見えているらしい。
ある月曜日の夜、奥さんが言った。
「パパ、なに食べる?」
「そうだなぁ。最近少し食べ過ぎだから、何か軽いものがいいな」
そんな些細なやり取りのあと、目にも留まらぬスピードで、ごはんが、おかずが並んでいく。
あれ? あれれ?
「あれ? 買い物行ってきたの?」
「うんにゃ」
昨日見たら、冷蔵庫にはほとんど何も入っていないくらいの状態だったと記憶しているのだが……。
結局、あれよあれよという間に、テーブルの上にはおかずが並び、ずいぶん立派な夕食の時間を過ごすことが出来た。
「ママ、これなに?」
「昨日の残りを卵とじにしてみた」
「これは?」
「あー、味がいまいちだったから、チーズをのせて焼いてみた」
すべてがそんな調子である。
残りものや、あるものを有効活用。
「何が足りない」とか、「もっとこうじゃないと売れない」とか、ほんの数時間前、会社でそんなことを言っていた自分が恥ずかしかった。
なにがあるか? 何がないのか?
実はそれは変わらない。
つまるところ、「ない」あるいは「足りない」と感じている営業マンと、「なんだ、けっこうあるな」と受けとめられる主婦。
卵の数が足りなかろうが、野菜がちょっと傷んでいようが、ありあわせだろうがなんだろうが、あちらこちらから料理の材料を集めてきて、おかずにしてしまうその手腕は、魔法のようですらある。
ただの昨日の残りものを美味しく仕上げてしまう主婦は、まるで錬金術師のようでもある。
考えてみれば、おかんにせよ、奥さんにせよ、すべての主婦はみな、こういったことを、毎日、毎日繰り返して、1日も休むことなく働いてくれている。
文句も言わず、休みも取らず。
誰に頼まれるでもなく、率先して。
給料さえも受け取らずに……。
なんにもないところから何かを生み出す。
食卓で、家族のみんなを笑顔にしてくれる。
「主婦、恐るべし!」である。
ビジネスの世界で出会おうものなら、とてもじゃないが敵わない気がした。
価値ある商品を提供し、その対価をいただくのが営業マンだとするならば、無償で美味しい料理を提供し、家族みんなの笑顔を勝ち取る主婦というのは、実はとても優秀な、最強の営業マンなのかもしれない。
やばいやばい。
もしも競合したならば、私は彼女たちに勝てるのだろうか?
とりあえず、つべこべと文句を言わずに働こう。
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