捨てることで得たもの
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:久保 力也(名古屋ライティング・ゼミ)
「何かを手放すと、それを埋める働きがある。それは宇宙の真理なのだ。」
聞いたことがある言葉というのはある日突然本当の意味で理解できる。
僕は退職を考えていた。
だが、決断できない一つの理由があった。
携帯ショップを始めて4年半、勤めたきっかけは事務員募集の求人だった。
接客業経験がない僕は事務員ならラクそうだと思い
次の仕事のつなぎで応募した。
ところが、事務員はもう採用されていて代わりに販売員をやってくれないかと
断れない僕はそのまま働くことになった。
初めての接客はひどいもので、受付するだけで顔が真っ赤になり
電話対応もロクにできない状態だった。
店内の雰囲気も悪く、気を遣いながら仕事を覚えていた。
先輩スタッフが絶妙な4角関係でいがみ合っていて、
店長は裏にこもったままの状態だった。
そんな中、僕の支えだったのが副店長のOさんだった。
いつも的確な指示をくれて目標の達成に協力的で、
なにより誰よりも販売が強く、一言に説得力があり人望も高い人だった。
「僕は上司に恵まれた」
Oさんの期待に応えたいと思った。
休憩時間も商品やサービス知識の勉強を行い、
休日には 死ぬほど働く営業マンがお客様に選ばれる などの本で
接客について学んだ。
僕が正社員になった時、Oさんは別店舗の店長になった。
一緒に働くことは無くなったが、
休みが合えば他店調査に向かうこともあった。
今思えば、休みなのに何してんのって感じだ。
正社員になってから副店長を目指して1年が経った。
販売実績が良ければなれるという店長の言葉通りに邁進した。
しかし結果は出なかった。
自分よりも販売台数が少ない先輩たちが昇進していく。
自分にはなにが足りないのだろう。
「年齢が若いからもう少し経験を積もう」
上司に聞いてもその一言だけ返ってきた。
もうなにをすればいいのかわからなくなってしまった。
その時、救ってくれたのはOさんだった。
Oさんは既にマネージャーになっていた。現状を話したらすぐに飛んできてくれた。
「今は資格保有者の評価が高いから最高位資格を取ってくれ!
そしたら久保くんを推しやすいから!」
そして最高位資格取得の半年後、副店長になることができたのだ。
振り返るといつも僕の実績や活躍をみてくれていた。
別の店舗になってからもずっと。
Oさんみてもらえていることが仕事のやりがいだった。
副店長になって3ヶ月ほど経つと、いつのまにか会う機会どころか
お話をする機会がなくなった。
仕事環境は変わらない。
業務内容も辛くない。
ですが次第に仕事の楽しさがなくなっていき、
ついには業務を毎日こなす生活に感じた。
その後、自身の考え方を変えてくれた転機が訪れた。
Ph.GプログラムというAndroid製品のスペシャリスト候補として選抜されたのだ。
そのプログラムでは、体験型接客という価値に視点をおいており、
今までやってきた商品知識を覚えることや値段訴求とは全く違うものだった。
Amdroidスマホのフォトコンテストや提案に使うキャッチコピーコンテストで
プロの方に評価してもらう企画など楽しいキャンペーンが盛りだくさんだった。
プログラムを通じて自分の興味・やりたいことがわかってきた。
「僕が居るのはここじゃない」
そう思った。
退職を考えたのはそこからだった。
だが、そこからしばらく踏み切ることができなかった。
社会的な面でもなく、親に心配かけてしまうでもなかった。
「ただ一つ、Oさんとのつながりだった」
パートの頃からお世話になった。
数えきれないくらい食事に誘ってもらい、
数えきれないほど奢ってもらった。
ピンチを救ってくれたのはいつもOさんだった。
その分の恩を返せていないから辞めれないと思っていた。
でも本当は分かっていた。
その感情は僕の勝手な考えで、Oさんが望んでいる答えではない。
ただOさんのつながりを失いたくなかっただけなのだ。
ある日の夜、決心がついた。
「明日の朝、退職を伝えよう!」
当日の朝は電話で伝えるまで心臓がバクバクだった。
なぜか歩き回ってしまうし、手を握るとか首を回すとか無駄な動きばかりで
全然落ち着かない。
時間がなくなると、ようやく電話をかけることができた。
「Oさん! 僕、来月いっぱいで辞めます!」
言った。
言えた。
やっと言えた。
「そうか。じゃあ、すぐ時間作るから。また連絡する。」
そのあと近くの喫茶店で退職理由を全て話した。
これでもう一緒にできない。
会うこともなくなるだろう。
なにか話すときや会うときはほとんど仕事の話だった。
良い上司に出会えてよかった。
そう心の整理をしていた。
全部話を聞いたあとOさんは僕に言った。
「久保くんを応援してるよ!一緒に仕事はできないのは
残念だけど、仕事以外ではこれからも友達だろ?」
その瞬間、僕は一点だけを見つめていた。
周りの音がなくなり、空気の動きが止まっている感覚だった。
嬉しかった。
上司と部下のつながりのことしか考えていなかった。
Oさんも同じだと思っていた。
そんな言葉をいただけるとは思わなかった。
このまま仕事を続けていたらきっと得ることが無かっただろう。
僕はそのあと号泣した。
その後、Oさんと一緒にフットサルをしに行った。
仕事では無駄なく効率よくフロアマネジメントしているのに
その片鱗が全くない。
来月は名古屋でバーベキューの予定だ。
お酒酔ったのOさんは面白いからたのしみだなあ。
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