若いエキスを吸い取る秋に出る妖怪
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:久保田かおり(ライティング・ゼミ日曜コース)
季節はそろそろ秋が見え隠れする頃。
町には少しずつ秋の味覚が顔をだす。
秋刀魚の水揚げがニュースになったり、スーパーに松茸が並んだり。
果物は桃から梨、そして葡萄へ。
美味しいものが目白押しだ。
食べ物に旬があるように、労働にも実は旬がある。
例えば上記に出たものでいうと、桃を食べる季節には桃をたくさん収穫するという労働が発生する。
葡萄の季節には葡萄の労働が、梨には梨のための労働がある。
「季節労働」ともいわれる働き方だ。
私はこの数年、梨農家での季節労働をしている。
八月の中旬から約一か月間、ほぼ毎日梨に埋もれて過ごす。
実はそれに合わせてもうひとつ、あるものに埋もれて過ごしている。
それは「若者」だ。
短期で比較的時給のいい季節労働は大学生や高校生がたくさんやってくる。
今年43歳を迎えたわたしにとっては完全なるアウェイだ。
部活がどうした、サークルがどうした、彼氏が欲しい、彼女ができたとそれはそれは賑やかだ。
少々気後れしそうになるが、聞いているととても楽しい気持ちになる。
彼らはいつでも素直でストレートだ。
興味を持って、同じスタンスで話を聞いていると、彼らもどんどん心を開いて話してくれる。
わたしもそんな彼らがかわいくて仕方がない。
しかし、ひとつだけ気になることがある。
それは、彼らの進路についての話しだ。
高校を卒業するもの、大学4年生になるもの。
それぞれが、この先の話になると声のトーンが少しばかり落ちる。
進学しないほうがメリットがある。
就職したいところがない。
早く決めて自由になりたい。
親と離れて自立したい。
などなど、あまり楽しくない話が目立つ。
こんなことがしてみたいな、こうなったらいいなというワクワクする話は聞こえてこない。
私はといえば、若い頃は早く自分で稼げるようになりたかった。
なぜか仕事をすることの方が学生よりも自由にみえていたのだ。
時代のせいもあったかもしれない。
バブルも終わる頃で就職はきびしかったが、そこまで深刻になっている人がまわりにはあまりいなかった。
外国語専門学校だったこともあり、就職というよりは卒業後は海外を目指すものも多く、
バイトしてお金貯めよう!
どこの国へ行こう
どんなことをしよう
そんな話題で持ちきりだった。
今悩んでいる学生たちが聞いたら、ばかばかしい話だろう。
しかし、そんな現実的な学生たちは毎日朝も早くから梨を摘んで、運んでとせっせと働いている。
ふと、この夏の終わりの労働と、就職して働くことは何が違うんだろうと思った。
学生のひとりに聞いてみた。
「どこに就職するかというよりさ、どんなことがしたいの?」
そんな会話を聞いていた子が何人か集まってきた。
彼らがそこで口々に話したのは、条件についてだった。
何度か質問を元にもどして問うてみるも、答えはだいたい
「別に何でもいい」だった。
おばさんはそこで思わず熱くなりました。
若者よ! 大志じゃなくてもいい! 中志でも小志でもいいから何か持ってくれ。
条件やお給料はもちろん大切かもしれない。
でも、働くことの先に何か自分の心が躍るようなことを持ってほしいと。
「じゃぁさ、何で今アルバイトするの?」
その答えはもちろんひとつ、即答でお金が欲しいから。
「じゃぁさ、お金何に使うの?」
その答えは逆にだれひとりはっきりしなかった。
遊ぶお金という子もいなかったし、○○が欲しいからという子もいなかった。
とても不思議だった。
そんな質問をしている不思議な43歳のおばさんに一人の若者が言った。
逆に何でその年でこのバイトしてるんですか?
「楽しいから」
「海外旅行にいくためのお小遣い稼ぎ」
「農業にも興味あるから」
おばさんは即答である。
それに対して若者たちの反応はといえば
「えー! すごーい」
「人生楽しいんでますね」
「いいですねぇ、なんか」
という言葉が返ってきた。
私に言わせれば、若者たちの方がよほど可能性もあるし、
できること多いと思う。
しかし、本人たちがそれに気が付いていない。
「みんなだってできるでしょうが」
さらりとそういったが、おばさんは心の中で
もったいない! とてももったいない!
君たちは可能性のかたまりなんだ。
とつぶやいた。
しかし、そう思いながらも、悩み、もがいてこそ若者であるとも思っている。
恋に仕事に悩む若者の若者らしさのエキスを、梨の果汁のごとく吸う秋の始まり。
少年よ、若者よ、君たちが面白い大人になって一緒にお酒を呑むのを楽しみにしているよ。
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