ただ進みたいだけだったのに、境界線を確認するために立ち止まらなければならなかった。《12代目天狼院秘本》
まただ。
3ページほど戻って、確認する。
ああ、そうだ。
今、ここにいるんだ。
そうして、また進む。
読んでいる間、何度も行ったり来たりした。
ある人が勧める作品なので、情報を入手して、すぐに手に入れた。
止まらずに一気読みしちゃった!
とか、
あっという間に読み終わってしまった!
という感想を、本を読み終わったときに抱くことがある。
物語の中に入り込み、先へ先へ進みたくなる作品。
そういう本が「面白かった!」という気持ちにさせてくれる。
この前読んだ、警察の公安を舞台にした、スパイがらみの作品は先の展開が気になりすぎて、時間が経つのも忘れて読んだ。
その作品は、シリーズで3作出ていたのだが、一気に読み終わった。
また、35巻も出ていた漫画も、試し読みだけのつもりが全て読んでしまった。
ただ、違ったのだ。
この作品は、進んでは止まり、戻ってまた進む。
決して読みにくいわけではない。
先へ先へ、どんどん進んでしまう。
グイグイ中へと引き込まれる。
しかし、ふと止まるのだ。
後半にいくにつれて、止まることも多くなる。
なぜだろうと思いながらも、止まりながらも、先へ進まなければいけないという使命感というか、読み終わらなければいけない焦燥感にかられる。
深夜2時。
やっと読み終わり、改めて考えてみた。
私は、引き込まれすぎたのだ。
だから、物語の中と自分の中とでの境界線がわからなくなり、主人公がいる場所を確認しないと先へ進めなくなった。同時に自分が立っている場所もふわふわしてきて、一緒に確認するために少し戻る。
そう、大丈夫。私はここにいる。
数ページ戻って、主人公の立っている場所を確認すると、ちゃんと物語のこちら側にいる自分も確認する。
フィクションであり現実にあり得ないだろう世界観だというのに、これは本当に起きていることなんじゃないか、明日起きたらこの世界にいるのではないかと思ってしまう。
その度に首を振り、境界線を確認して、そんなはずはない、ただの錯覚だ、と先に進む。
この作品を読み終わり、振り返ってみて思うこと。
もう一度、読んで、振り返りたい。
いや、でも、少し怖い……。
それでもまた、読んでしまうのだろう。
誰かと、この思いを共有したい。