魂の生産者に訊く!

【魂の生産者に訊く! スピンオフ】農家が作った「ちょっと他とは一味違うピザ」は、多彩なアイデアに支えられて  湘南佐藤農園 佐藤智哉さん《天狼院書店 湘南ローカル企画》


2022/05/02/公開
記事:河瀬佳代子(READING LIFE編集部公認ライター)
 
 

2年前、湘南佐藤農園さんの取材からこの連載は始まりました。
<参考記事>Vol.1 フルーツトマトの1粒1粒は、夢を乗せて羽ばたく
その時に語っておられた「ピザのキッチンカーを出したい」構想が、2021年に実現したことを伺いました。
農業をしながらのキッチンカー稼働も軌道に乗せたい。その実現の裏には、どんな想いがあったのでしょうか。

 
 

「フルーツトマトで作ったトマトピューレ」が差別化のカギ


2年前に取材を受けた時には、ピザのキッチンカーを出す話は既に決めていました。
「ピザに使うトマトピューレは、うちで穫れたフルーツトマトで作る」ことをメインの軸にして、そこからピザ作りを進めていきました。
 
うちでは販売用のトマトジュースも作っていまして、それとの比較になりますが、
 
・275gのトマトピューレを作るには、500gのトマトが必要
・180gのトマトジュースを作るには、250gのトマトが必要
 
となります。トマトピューレの方がトマトの凝縮量は多いです。
この自家製トマトピューレは一般向けには販売しない予定です。完全にうちで出すピザ専用にしています。「フルーツトマトを使ったトマトピューレ」を乗せたピザって、多分うちしかやってないと思うんですよ。日本中探してもほとんどないと思いますよ。
 

 
ピザ生地は自家製です。強力粉100%で、ふわっとした生地です。
粉の配合は、知り合いに飲食関係のプロの人がいたのでその方に教わりながら、妻が考えてくれました。アドバイスをもらいながら、毎晩夜遅くまで繰り返し作って考えましたね。
 
ピザに乗せる野菜は、基本的にはうちで収穫した野菜です。
乗せているトマトですが、うちのフルーツトマトと、親戚が「湘南の冬春トマト」というものを作っていまして、その2つを主に使っています。
 
コーンはうちの農園で夏に収穫しますので、それも使います。
バジルは苗で購入して、所有するハウスの中で育てています。苗から育てれば収穫してからすぐにピザに乗せられる。そうするとバジルの香りがとてもいいんですね。バジルの葉を買うよりも、苗から穫ってすぐに使う方が断然香りがいいので苗から育てています。
 

 
その時期にない野菜は、藤沢の近隣の農家さんから買っています。
例えば藤沢の春キャベツは国の指定を受けていて、品質がよい。藤沢の農家さんの野菜を、ピザとして食べてもらう形で提供できたらいいなと思います。
 
マルゲリータに使っているモッツァレラチーズは、花畑牧場のものを使っています。少しお高めではあるけど、試作してみて使いたいと思いまして取り入れました。
「花畑牧場のチーズを使っています」っていうのは敢えて前面には出していないんです。うちのピザは「農家が作っています」とか「本格釜で焼いていますよ」とか、とにかく情報量が多すぎちゃう。おかげさまでキッチンカーの前に出す、看板代わりの黒板の中に書ききれないくらい、情報量が満載になっちゃいました。
 
 

「夏の湘南サンセット」から生まれたキッチンカー


キッチンカーのデザインのイメージは、いくつかは自分の中で既にありました。
スタッフさん、パートさんにもアイデアを出していただきながら、このオレンジに決まって行きました。これは湘南のサンセットのイメージです。
 

 
僕はサーフィンもやっていて鵠沼に住んでもいましたから、夏の17時以降の江ノ島とか片瀬東浜とか、あの辺から見る夕陽が大好きです。あの素晴らしさはもう言葉に尽くせないですね。あのオレンジがかったサンセットの空気を、キッチンカーで表したいと思いました。それにオレンジなので、遠くからでもすごくわかりやすいでしょう?
このロゴですが、知人の旦那さんがHPを作っている会社にいまして、こういうデザイン系のことも得意なので作ってもらいました。
キッチンカーを発注したのは今年の1月で、そこから2ヶ月くらいで出来上がって来ました。
 

 
ピザを焼く窯ですが、これは三重県で作ったものです。
下に溶岩石が敷いてあるので、温度は約500℃まで上がります。
家庭のオーブンやレンジだとどうしても300℃くらいまでしか上がらないんですよね。本格的なピザを作っているところの窯はほぼ500℃くらいです。
ピザ窯で焼くピザって、チーズの焦げがあるでしょう? あれは焼く温度帯が高くないとできないんですよ。焦げから旨味も出てくるんです。高温で焼くと生地の出来上がりが全然違いますよ。
 
 

子どもがホール1枚楽にたいらげてしまう、農家のピザ


実際にピザを焼く技術ですが、これはひたすら練習あるのみでした。
江ノ島でレストランをやっていた人がスタッフにいまして、ピザ生地のことなどいろいろと教えていただきました。
まずは家のオーブンで練習をして、キッチンカーオープンまでには何枚焼こうという目標を立てていました。
 

 
オープンまでにもいろんなピザを食べ歩きました。江ノ島とか横浜とか。先日なんて藤沢市役所の前にもピザのキッチンカーが出ていて、その時はお昼食べた後だったんですけど「これは食べておかなきゃ!」って買って帰りました。どこのお店も美味しいんですよね。よそと食べ比べながら、どこで差をつけるかを自分たちでも研究して、味を作り上げました。
 
例えば子どもって、ピザだったら1切れ2切れ食べて「美味しいね」ってお腹いっぱいになるじゃないですか。ホール1枚を全部食べようとすると残しちゃうと思うんです。
でもうちのピザは、子どもがホール1枚食べちゃうんです。子どもってお世辞は言わないしでしょう? 味に関してもすごく正直だから。空っぽのお皿を見ればわかります。フルーツトマトピューレのピザは残さない。そういう意味でも、ちょっとよそのピザとは一味違うんじゃないかって思っています。
 
 

「湘南の農業を、地域を盛り上げたい」が原動力の源


キッチンカーは、湘南佐藤農園販売所、JA さがみさんからはわいわい市(藤沢市亀井野)とにぎわい市(高座郡寒川町)の3か所を中心に出店していますが、時々ピンポイントで月に1~2回行くところもあります。
 

 
ピンポイントで訪問した中の1つですが、鵠沼の社会福祉法人さんに出す話が来た時、最初はそちらに入居している方向けに出店するのかなと思っていたんですが少し違っていて、そこで働いていらっしゃる職員さんに向けて出して欲しいというご希望でした。
よくよくお伺いすると、コロナ禍で医療従事者の方がずっと大変で、一般の方にも気を遣ってなかなか外にも出られない、医療従事者というだけで敬遠されてしまう現状がおありでした。そのタイミングで「ピザだけじゃなくて、佐藤農園で作っている野菜も持って来てほしい」とリクエストをいただきました。そういう形で、たとえ月に1時間でもいいからうちのキッチンカーが入ることで、頑張っていらっしゃる医療従事者の皆さんに喜んでいただければということで、お伺いしたこともありました。
 
あと、オンラインツアーもしています。これはH.I.S.(エイチ・アイ・エス)さんとの企画です。
zoomで20人くらい集まりました。畑を見せながら話をして、ピザを焼くところも配信しました。最後にはQ&Aも設けて、ライブ感がある形にできたのもよかったですね。
 
オフラインでのツアーですが、藤沢の農家さんで実際に農作業を体験して、ピザを持って帰るツアーを企画しました。藤沢市の農業を盛り上げようという目的もあってツアーを組みました。コロナ禍ということで十分配慮して少人数での開催です。2家族・4〜5人くらいを定員にして実施しました。こちらも好評でしたので、人数を絞りながらもオフラインツアーを続けたいと思っています。
 
 

「あなたがいてくれたから」実現できたことがある


本業は野菜の生産ですが、2021年になってキッチンカーがそこに加わって、忙しいんですが何とか回っています。今はピザにかなり時間を取られていますし、僕がキッチンカーに出てしまうのでどちらかといえば農業は後手になっているかもしれません。それでもうちはスタッフさん・パートさんがたくさんいるので、みんなが一生懸命頑張ってくれているおかげで農業も回せています。
 
今まで「夏を超えるトマト」を作ったことがないんです。
夏は暑さのために着果不良でトマトの花が落下してしまうことが多く、作ったことがなかったんですけどチャレンジしてみようかと思っています。なかなか難しいですけどね。
 

 
あとはピザに使う食材を少しずつ試してみようかと思っています。
うちに来てくれているボランティアさんですけど、パンを焼いて持ってきてくれる方がいらっしゃいます。あんパンなんて、めちゃめちゃ美味しくてね。僕はそれまであんパンはあまり好きじゃなかったんですけど、それをいただいてからはあんパンがやたらと気になりだしたくらいですから。
自分でもあんパンを買ってきて研究するようになって、そこから「ピザにあんこを乗せても面白いんじゃないかな?」って思うようになりました。あんトーストじゃないけど、スイーツ系のピザもあっても面白そうですよね。
今ってフルーツサンドが流行っていたりしますから、果物をピザに乗せてもいいでしょうし、それが藤沢産の果物だったらなおいいですよね。いろいろとアイデアが尽きなくて面白いですね。いずれ実現したらいいなと思っています。
 
今後の構想もあって、キッチンカーを1台のみならずもっと増やしてもみたいと思っていますし、ピザを冷凍にして通販にしてもいいんじゃないかと思っています。
まずは農業とピザの2本の柱があって、そこがうまく回るようになっていったらその先のことも考えていきたいです。
 
キッチンカーを出してみて思うことは、周りの人たちに支えられているということです。1人じゃ絶対に実現できなかったことでした。周りの人がいてくれるからこそ、キッチンカーを出す環境が整ってきました。とにかく「人」がいちばんだということを日々実感しています。
 

 
 
インタビューの随所で「周りの人たちのおかげだから」とおっしゃっていた佐藤さん。多くの方たちがこの試みに希望を持って応援している光景が目に浮かびます。
今後の展開を語る生き生きとした表情からは、次から次へとアイデアが生まれてきそう。これから先、どんな夢を実現させていくのか、楽しみになりました。

 
 
 
 
(取材・文:河瀬佳代子、撮影:山中菜摘)

湘南佐藤農園
神奈川県藤沢市亀井野2754
TEL: 080-4324-3100
https://www.shonansatonouen.com/(キッチンカー出店予定はこちらをご覧ください)
Facebook:https://www.facebook.com/satonouen.shonan
※取材時の情報です。

□ライターズプロフィール
河瀬佳代子(かわせ かよこ)(READING LIFE編集部公認ライター)

東京都豊島区出身。天狼院書店ライターズ倶楽部「READING LIFE編集部」公認ライター。「Web READING LIFE」にて、湘南地域を中心に神奈川県内の生産者を取材した「魂の生産者に訊く!」http://tenro-in.com/manufacturer_soul、「『横浜中華街の中の人』がこっそり通う、とっておきの店めぐり!」 https://tenro-in.com/category/yokohana-chuka/  連載中。

□カメラマンプロフィール
山中菜摘(やまなか なつみ)

神奈川県横浜市生まれ。フリーカメラマン。天狼院書店スタッフとして様々なカメラマンに師事。現在は天狼院フォト部マネージャーとして活動しつつ、フリーカメラマンとしても活躍中。

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2022-04-27 | Posted in 魂の生産者に訊く!

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