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私がこの職業を選んだ理由(わけ)


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:多恵(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私が今の職業を選んだ理由は自分のリハビリのためだった。
 
毎日、通えるようなること。ただ、それだけだった。
 
私は長い間、うつ病に悩まされていた。
 
夜は熟眠感のない睡眠。本人はほぼ寝てないと感じている毎日。
朝は、無理やり重い体を起こし仕事に行くのがやっとだった。
小学生の娘が、毎日心配そうにしながら朝ごはんを作ってくれていた。
しかし、そんな朝ごはんも味も何も感じない。ただ私は小さい声で、「ごめんね」と言う。
そんな毎日を過ごしていたが、ある日、大量の薬を飲んでしまい昏睡状態になる。
なぜ、そんな大量に薬を飲んでしまったのか?
ただ、死にたかったようなのだ。その頃の記憶は遠い。もう、そんなことも今は忘れてしまったが。
 
それが2度ほどあり、会社を休職する。パートの身で休職させて貰うとは。
今、思うと恵まれていたなと思う。
 
会社に行かなくてよくて、家で引きこもる毎日。どんどん生活は破綻していく。
見るに見かねた私の両親は、娘と私を引き取ってくれた。
 
小学生の娘はその頃、学校では学級崩壊していたらしく、まともに授業が行われていなかった。担任の若い教師は生徒からの執拗ないじめに遭い、休職し辞めたと後から聞いた。そのころの私は、もう自分のことで精一杯で娘が辛い状況に陥っていることさえ知らなかった。ぽっちゃりしていた娘が激やせしていたことも私は一緒に暮らしていて気づくことさえなかった。
 
そんな私が立ち直り、今の職業に就いた。
 
うつ病で家にいることが困難に思えて仕方がなくなり、主治医に頼み込んで入院した。
希死念慮のある私の服は紐などが抜かれ、携帯電話も預かりだった。そこは閉鎖病棟で外からの情報はテレビか新聞、持ち込みの雑誌や本だった。男性と女性の病室は行き来できないようにリビングが中央にあり、人が交流するのはリビングで食事もそこで行われた。
なぜ、入院しているのかわからないくらいみんな元気で、新参者の私に優しく色々教えてくれた。若い人で10代、年上の人で70代くらいの人まで入院していた。危害を与えるような人はいなくて時々、保護室へ入れられる人がいて泣き叫んでいた(保護室が嫌で泣き叫んでいたように思う)
看護師さんも普通に接してくれているようだった。
普通の病院と違うのはご飯が終わり、いつも服薬は病室の前にならばされたのが嫌だった。人としての扱いをそこで受けてないような気がした。
夜は全然眠れず、夜に寝なくても昼間に寝ても良かったから、夜通しリビングで眠れない人たちと夜食を食べたり話をしたりした。のちにわかるのだが、話をする人のほとんどはありもしないことを誇張して話す人が多かった。誇大妄想というやつだ。しかし、私はそんな現実離れした話を聞くのが好きだったし、別に嫌だと一度も思ったことがなかった。中には、あまりにも話を聞きすぎている私にそっと「誇大妄想だから信じるな」と忠告しにくる人がいたりした。
 
徐々にみんなと仲良くなっていくと、日中、どこかへ出かける人がいた。どこに行くのか聞くと「デイケア」という。
「デイケア」は医師からの処方がないと受けられないリハビリだった。病院の敷地内に「デイケアルーム」というのがあり、そこで作業療法士の人がいて思い思いにやりたいことなどを取り組んでいるようだった。そこで作ったヘアアクセサリーをもらったりした。
 
家族との面会も日曜日に1回許されていた。
しかし、娘は一度も来なかった。私の両親の配慮だった。私は娘と会えなくても寂しいと一度も思わなかった。両親の元で幸せならそれで良かったと思っていた。自分のことで精一杯の私に子育ては無理だった。
 
そんな時、とても強烈な印象の女の子が入院してきた。その子は、リストカットの痕は腕に膨大にありパンダの着ぐるみ帽子をずっとかぶっていた。椅子に座らず、床にずっと座ってパンダのグッズに全身を固めている。それが落ち着くのだと彼女はいうのだ。齢は19歳だった。床に投げ出された細い足で壁をずっと蹴って「こんな病院に来たくなかった」と文句を言い続けている。「元の病院に返せ」というのだ。
京都の大学病院に信頼を寄せているらしかったが、強制的に出されてここに来たと言っている。新参者には優しいここの患者たちは、よく話を聴く。一通り話を聞き終えても同じ話でもずっと聴いているのだ。女の子は次第にイライラしていた口調から落ち着いた様子で話を始めた。ここの住人たちには膨大に時間がある。その子が落ち着くまで話を聴く時間があるのだ。
 
私の中では強烈に何か心に刺さった。話を聴くということが人を癒す力があるんだということ。
看護師には強い口調で喧嘩をふっかけるようにしていた女の子がここの住人には心を少し緩めたように思ったのだ。
 
私は、ここにいちゃいけない。そう思った。ここから出なくてはと。入院するのは容易かったが退院するにはいくつかの心理検査を受けなくてはいけなかった。しかし、大丈夫と判を押されて退院する。
 
ここから、私のリハビリは開始された。「デイケア」に週に2回は通うこと。
休職していた職場は、辞めることにした。環境をガラリと変えたかった。主治医も賛成してくれた。そして、「デイケア」も決めた通り通うことができるようになったので、市が主催している「ヘルパー2級講座」へ通うことにした。それは週3回の授業に参加すれば3ヶ月で資格が取れるものだった。もし、市の指定するところでヘルパーで働けば、受講料が返ってくる。
 
このころの私は生活リズムを取り戻し、薬もあっていたのか気力がみなぎっているようだった。嘘のように泥沼から這い上がっていった。ヘルパー2級の資格もすぐに取ることができた。福祉という職業にのめり込んでいった。
 
そして、今の職業に就くことになる。最初は、ヘルパー2級で小規模多機能で働き、何でもこなした。腰痛に悩まされたがとても楽しかった。ここにくる高齢者の介護度が様々で面白かった。認知症がこんなに大変だけれど、私にやりがいを与えてくれるものかと思ったのだ。
しかし、もっと高齢者介護や障害福祉について勉強したくなった。もっと知りたい。そして、、もう、40に手が届きそうな年齢にも関わらず専門学校の門を叩いた。
母子であることと介護福祉の資格を取る奨学金がそれぞれ貰えるので学費はほぼタダになり生活もそれなりにできる。
2年間18歳の同級生に混じりながら勉強した。先生たちにはよく18歳とペアを組まされて面倒を見るよう仕向けられた。しかし、楽しかった。知らない世界を見ることがこんなに楽しいことなんだと思った。
娘のことも考えるようになった。このままではダメな母親のままで終わってしまう。
就職もすぐに決めて介護福祉士として今の職場で働いている。もう5年目になる。
 
娘も大学生になり、当時のことはほぼ忘れたかのように暮らしている。
ご飯を食べにいったり、映画を観に行ったり、話をしたりして、あの日々のことが嘘のように思える。
 
あの入院がなかったら、この職業に就くことはなかっただろう。まだ、暗闇の中にいたかもしれない。もう、病気も寛解して薬も手放した。
 
私は人間が好きなんだ。人とコミュニケーションを取るのが好きなんだと改めて思う。
 
「大変な仕事だね」と人によく言われるが、大変だけど面白いと伝えたい。いろんな人がいるから、病気も色々あるけど、人が違えば同じ病気でも違うものなんだなと感じることが多い。寂しい人も多い。寂しさ故に病気になった人も多い。
病気は必ずといっていいほど、なるもの。でも、作り出されるものでもある。
 
私が関わることで少しでも緩和させたいそう思って日々、仕事をしている。
 
笑顔を作り出すことができればいいのにと思う。
私は、私のリハビリで始めた職業だけれどその魅力に取り憑かれて、日々同じことを繰り返すだけの毎日からおさらばした。
 
人って面白い。それを伝えたい。
 
 
 
 
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2019-09-12 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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