親の愛に気がつけなくて
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記事:大畑朋子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ごめん。ごめん。気がつけなくて、ごめん」
私の心の中で、ふとした時に何度も唱えてしまう言葉がある。今まで、まったく気がつかなかった。自分が何度も「ごめん」と心の中でつぶやいているとは。
思い返せば、あれは中学1年生の時だった。私は、いつも誰かと一緒に行動することがすごく苦手である。特に、女子がいつもべったりと行動している姿にはうんざりして、入学して早々に一人行動を開始した。だから、特別だれかと一緒に行動していた覚えがなければ、誰かと絡むことなく、一人でずっと本を読んでいた。
そんなある時、一冊の本に出会った。その本はすごく分厚く、約800ページもあったはずだ。それでも私はその本を2週間で読み終えた。ちょうどその頃、その本がドラマ化もされ、同時に私はそのドラマもみていた。何となく孤独だった私は、同じように孤独に生きている主人公の女の子に惹かれた。その主人公は両親が既に亡くなっており、品のいい親戚のおばあちゃんに育てられていた。それを見た瞬間、「あっ、これだ!」と感じた。私はおばあちゃんの家に移ろうと考えていた。
親に、「私、おばあちゃんの家に住むから。だってこの家、引っ越しが多いでしょ」そう言い放って、すぐにおばあちゃんに電話をかけた。そして、中学2年生になるのと同時に、おばあちゃんと一緒に暮らすことが決まった。
その時、私は一つ嘘をついた。引っ越しが多いのは確かだったが、おばあちゃんの家に移る本当の理由ではなかった。本当の理由とは何か。それは、純粋に親の愛に気がつけなかったからだ。いや、気がつかなかっただけだ。別に、私の親が悪いわけではない。私が生まれたのはごく普通の家庭で、何一つ不自由なく暮らしていた。ただ一つ問題があるとすれば、私が母に相談事を持ちかけると、決まっていつも母親は「わかんない。私じゃ答えを出せないから、自分で考えて」と言い続けたことだろう。私は純粋にアドバイスが欲しかっただけなのに、いつも突き放されてどうしようもなかった。次第に、私の親には「愛」がないんじゃないかと考え始め、最終的に、そう思い込んでしまった。
ところが、おばあちゃんの家に引っ越す前日のことである。親が私をショッピングモールに連れて行き、あるお店で洋服を選んでくれた。その姿は一生懸命で、「どれが似合う?」「大人っぽすぎない?」なんて話しながら選んでいた。それを見た私は、とんでもない勘違いを犯していたことに気がついた。親は私への愛をちゃんと持っていた。ただ、私の心理的偏見にもより、いつの間にか気がつけない状態になっていただけだった。でも、もう遅かった。引っ越しの準備は何もかも終えて、あとは私の体だけが移動すればいい状態だった。言い出しっぺが自分だからこそ、もう後には戻れなかった。
そうして、おばあちゃんの家に住み始め、新たな生活が始まった。私のおばあちゃんはずっと仕事をしていて、ほとんど家にはいなかった。だから私は、いつも一人で食事を作り、勉強をして、それまた孤独に一人で寝ていた。18時ごろ、家の近所を歩くと誰かが作った夕飯の匂いがして、「あー、また自分は一人か」なんて思いながら、自宅の玄関に向かっていた。
時々、あの時「私、おばあちゃんの家に住むから」と宣言しなければ、どんな人生が待っていたのだろうかと思うことがある。だけど過去に戻ってやり直すのかと言われれば、たぶん一生私は過去には戻らない。これが私の人生であるからだ。心の中で「ごめん。ごめん。気がつけなくて、ごめん」とずっと唱えている。それが私の人生だからだ。
あれから5年が経つ。私は今、一人暮らしをしていて、やはり孤独に暮らしている。いまだに私の心では、「ごめん」とつぶやき続けている。時々、小さい子供とその親が一緒に出かけたり、遊んだりしているところを見かける。それを見ると、だんだん体がこわばってくる。私では受け取ることができなかった愛情が目の前で、繰り広げられているからだ。「あぁ、親と子供は本来こうあるべきだよな」と感じながらも、私には一生無理だと感じてしまう。
「愛」には2種類ある。目に見えてわかる愛と目には見えない愛である。不幸にも、私はどちらも気がつくことができなかった。たとえ気がついたとしても、もはや今の私には受け止めることはできないのだが。もしあなたが愛を感じていなければ、一旦、愛とは何か考えてほしい。私と同じ道を歩まないために。
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