命をつなぐ。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:したみあきこ(ライティング・ゼミ平日コース)
祖父の三十三回忌最後の年忌法要となる弔い上げの法要の時だった。
お寺でお経をあげて貰い、そのときお坊さんとお茶を飲みながら少しお話をする時間があった。
祖父のことを覚えていてくさったお坊さんで、祖母や母は話が弾んでいた。
孫たちが4歳から6歳のころに亡くなったので、私たちの記憶は多少おぼろではある。
が、覚えていることと、長年母親たちから聞かされてきた『おじいちゃんのテッパン思い出』などがあったので、会話に時折まざっていた。
この法要の席には、孫世代の子ども、つまり祖父のひ孫たちも列席していた。
幼児ではあったが、お茶の席のお菓子でぐずった以外はお利口にしていた。
私は、祖父の記憶はあまりなかったが、祖父が大好きだった。
この法要をもって、終わりなのかと思うと涙がときどき滲んでしまっていた。
その時にお坊さんが
「このように亡くなった方の話を皆でしたり、そういうのが命をつなぐということなんですよ」
と仰っていた。
この時は、単純にそうだなぁと思ってはいたものの、そこまで実感していなかった。
それからしばらくして、大叔父と大叔母の夫婦が亡くなった。
私の母の叔父叔母にあたる人たちだが、子どもはなく夫婦2人暮らしだった。
ある時に、大叔母が掃除ついてぽつりと漏らしたことがある。
『女性はね、一日5分でいいのよ、どこか水回りの掃除をすると楽よ』
なぜかその言葉が頭に残っていた。
私が結婚した後も、毎日は出来ていないが、出来るだけ水回りの掃除をこまめにしている。
先ほど洗い物をしているときも、ふと大叔母の顔が思い出されて、なぜか突然、
――ああ、つながっているな。
と思えた。
大叔母はもう亡くなっているけど、私は大叔母の言葉を覚えていて実行してる。
そして、私にも子どもがいない。
年齢的にもリミット超えてるし、もう子どもは産めないと思う。
次の世代を遺せないことは、少なからず私の心を落ち込ませる。
けれど、命をつなぐというのは、子どもを産むだけのことではないのではないか。
大叔母の言葉は、水回りの掃除以外にも
『薬の飲み終わったシートがそのまま薬袋に入ってるのが嫌なのよね』
と言っていたのをなぜか覚えていて、私も病院からもらった薬袋に空のシートを入れっぱなしにしないように心掛けている。
薬のシートの空が出るたびに、大叔母を想いだす。
私は、子どもがいないけれど、
何かをつなぐ事はできるのかもしれない。
大叔母のように、ふとした拍子に彼女の言葉を思い出したように。
祖父がいつも寝るときに「寝るより楽はなかりけり」と言っていたのを母たちから聞いて、私も口癖になったように。
とはいえ、私自身、人に語り継がれるような習慣も、口癖もまだない。
やはり私には命をつなぐということは無理なんじゃないか。
何も役にたつことなく、あっさりすべてを忘れ去られて、少子化の罪だけ背負って消滅するのが妥当なのではないか。
でも……私には子どもはいないとはいえ、夫がいて、母がいて、兄夫婦と甥たちがいて、祖母がいて、叔母たちがいて、従兄妹たちやその子どもたちがいて、他にもたくさん身近な人たちがいる。
『片付けなさい』『早く寝なさい』『やらないといけない事はさっさと済ませたほうが楽よ』『自分のことは自分で考えること』『人の心配より前に自分のことをちゃんとしなさい』『まず目の前のことをしっかりやろうよ』
周りの人達に、たくさん教えてもらった。
私は皆から私というものを作ってもらった。
となると私自身が、皆からつながれている命ではないか。
皆からつながれている私自身の命。そこから、次になにかを渡せるかだ。
バトンのようなものかも知れない。
ああそうか、命をつなぐというのは、そういう事なのだな。
自分のなかに、たくさんのバトンがある。
それを今までは自分の人生に役立てようとしていた。
皆からたくさんのバトンを受け取った。
次の世代まで繋げたい、知恵や教えや楽しい事など。
それはもしかしたら、私が産むかもしれなかった子どもへのバトンもあったかもしれない。
けれど、もう私が持っていても仕方がない、渡そう。
次へつなごうと思う。
皆からつながれたバトンと、新たに私自身のオリジナルのバトンも加えて渡そう。
脈々と続いている人の世で、先輩や先人たちの言葉や行動をつないでゆく……こうやって、私は『命をつないで』いきたい。
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