メディアグランプリ

好きじゃない人と8年間付き合っている話


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:ツトム(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「付き合っちゃおうか」
2012年7月22日(日)午後7時過ぎ、京都市中京区西洞院三条にある僕の部屋で、彼は抱きしめながらそう言った。下鴨神社の御手洗祭にデートに行った帰りだった。彼は浴衣を着ていた。僕も浴衣を持っていたけど、着るのが面倒でTシャツに短パンだった。
 
「めんどくさい人間だけど、それでもよければ……」
 
僕はそう答えた。
 
彼のことは好きではなかった。
まず、見た目が熊みたいで野暮ったくてタイプではない。ただ、ゲイ向けのSNSで知り合って何回かデートをしたり、電話で話したりするとき、彼は嬉しそうだった。僕がいることで嬉しがってもらえるのは嬉しかった。
 
大学を卒業して社会人になって1年が過ぎようとしていた時期で、誰でもいいから愚痴を聞いてほしいとき、彼に電話すると親身になって聞いてくれた。5歳年上の彼は社会人の先輩として、僕が納得できるようなアドバイスをくれた。信頼できる人だとは思っていた。
 
今まで、僕は自分から好きになった人としか付き合ったことがなかった。でも、どれも続かなかった。相手に自分勝手な理想を押し付けてしまうのが原因だ。それが息苦しくて、みんな離れていった。
 
彼には、なにも期待していなかった。見た目をもっとオシャレにしてほしいとも思わないし、デートをしたいとも思わなかった。ただ、彼が求めるがままデートをして、彼が求めるまま、付き合うことになった。流れに押されたというか、別に嫌なら無視しつつ自然消滅させればいいと思っていた。
 
その後、彼は毎週末、彼が住んでいる大阪から京都に来るようになった。「好きだ」とか「愛している」と僕に言うようになった。僕は返事に困ってしまって「そう」と言った。思っていないことを言えなかった。ただ、彼は僕をどこまでも甘やかしてくれるから、離れることはしなかった。
 
彼は僕の誕生日を異常に大事にしていて、数ヶ月前から計画を立てて楽しみにしていた。僕は今でも彼の誕生日を「だいたい8月だったかなぁ」くらいしか覚えていない。
 
他にも彼は僕から貰った物を異常に大切にした。いつの誕生日だったか忘れたが、安物の腕時計をプレゼントした。安物だからベルトが壊れたり本体が壊れたりしたが、それを修理していまだにつかっている。「買った方が安いんだから、そんなボロいの捨てれば?」と言うと、本気でふて腐れた。言わずもがな、僕は彼から貰ったものが壊れたら捨てる。
 
それから今現在も関係は続いている。御手洗祭は毎年行っていて、今年で8回目になった。彼の僕への愛情は変わらない。いや、「毎年上がっている」と言っていた。
 
僕は、恋愛関係というものがよくわからなくなった。この状態でいいだろうか。
 
少し話がずれてしまうが、
僕は確固たる「信念」のような「意地」のようなものを強烈に持っている。自分の生きたいように生きることしかできない。妥協できない。その影響で、これまで6回ほど転職している。厄介なことに、「得意」なことと「やりたい」ことが一致しないのが大きな原因だ。だが、そこが一致するまで僕は探し続ける。
 
今勤めている会社も今年の3月に転職したばかりだが、入社前に約束していた職種の仕事ができずに早くも転職を考えている。もちろん、今の立場でできる限りのことはするが、無理なら無理で次を探す。
 
そんなことを電話で彼に話すと、「あなたのそういうところが好きだ。愛してる」という謎の感想がきた。「イバラの道に果敢に飛び込んで痛い目に遭っても進んでいく、そういうところが好き」らしい。全く意味がわからないのだけれど、僕のどこを愛そうと彼の自由だ。
 
そうだ、自由だ。
僕は、8年間安定的に彼からの愛情を一方的に享受しているこの状況を気に入っている。そして、僕は彼に恋愛感情として「好き」とは言えない。でも、信頼できるパートナーだと思っている。それでお互いがいいのだから、いいんだと思う。
 
 
 
 
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2019-09-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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