メディアグランプリ

深みを与える”縦の糸”


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記事:松熊利明(ライティング・ゼミ平日)
 
 
「ん~なるほど、そうだったのか!」
その時に初めて気づいた。一つの謎が溶けた瞬間だった。
 
私は特に勉強が好きな子供ではなかったが、地理だけは苦痛もなく楽しく勉強ができていた。
それもあって学校で行う科目別のテストの成績は、いつも地理が一番良かった。
 
自分でもなぜそこまで好きなのかはわからなかったが、地理の時間でもないのに地図帳を広げて眺めていたくらいだから、相当なものだったのだろう。
 
今考えると一般の子供が”漫画”を読むような感覚に似ているのかも知れない。
集中していて時間が経つのを忘れる様な感覚だった。
 
地理好きの影響は、学校から帰った後にも及んだ。
家で地図帳を開き、世界地図や日本地図を見て、ある国の首都名や都道府県の県庁所在地などをクイズ形式で交互に出し合って答える遊びを、よく兄弟間でやっていた。
 
そのようなことを繰り返していると知らない間に地図に詳しくなり、当時の私はその事に大きな満足感を感じていた。
 
それから10年ほどが経ったある日、ふと疑問が湧いた。
「この地名は何だか変だ。中南米にあるのに西インド諸島って?」
 
たまたま地図を眺めていたときだ。
その場所がその様に呼ばれているのは知っていたが、今までは特に疑問に思っていなかったのだ。
 
インドからは遠く離れた場所にあるのに、なぜ”西インド諸島”。
どうしても気になり調べてみると、歴史上の人物の勘違いから生まれた地名だと判明した。
 
その人物とは「コロンブス」。
コロンブスと言えば、新大陸(今のアメリカ合衆国)を発見した事で有名な人物だ。
 
ヨーロッパからアジアを目指して出航した際、途中でたどり着いた大陸にいた人たちの肌が浅黒い色をしていた事から”インド”に到着したと勘違いして、その名称になったらしい。
その当時はまだ正確な世界地図が無かったこともあり、その様な間違いが起きたようだ。
 
この事実が判明した時の反応が、冒頭の驚きにつながる。
 
そしてこの”事実”は、地図だけを眺めていては決して気づくことは出来ない。
地図の知識と歴史の知識が組み合わさって、初めて発見できるものなのだ。
 
私自身、学生時代は歴史が苦手だった。そして、嫌いだった。
「なぜ今更昔の事を勉強するのか」「勉強をする意味があるのか」といつも疑問に思っていた。
当然ながら、学校での歴史のテストの成績はひどかったが、大人になるにつれてその意識は変わり、今度は逆に強く興味を持つようになっていった。
自分から進んで歴史を勉強する様になったのだ。
 
好きな地図の事を本当の意味で理解したい。
そのためには、歴史の知識も必要な事が徐々にわかってきたのだが、今思うとその事に気づけたのは本当にラッキーだった。
 
地図が今を知るための”横の糸”だとしたら、それに深みを与えるのが歴史という”縦の糸”。
その両方を組み合わせる事で、初めてしっかりとした頑丈な糸(知識)となる。
 
その事に気づいて以降、様々な分野で”縦の糸(歴史)”が関係している事が見えてきた。
 
例えば、音楽だ。
 
一見、歴史と関係ないように思うが、そうではない。
音楽のジャンルの一つに「ブルース」というのがある。
 
17世紀から19世紀にかけて、アメリカに奴隷として連れてこられたアフリカの黒人たちが、辛い労働環境や境遇を背景に生み出した音楽とされている。
つまり恵まれているとは言えない自分達の境遇を歌ったものがブルースなのだ。
 
そんな歴史上の背景を知っているのと、知らないのとでは、当然ブルースの聞こえ方は違ってくるはずだ。
これも”縦の糸”の効果の一つと言えないだろうか。
 
私は小学生の頃にある体験をした。
 
同級生に周りの子とは少し雰囲気が違う男の子がいたのだが、その雰囲気の違いがなぜ発生するのかは当時の私にはわからなかった。
その子には普通に友達もいたし、私自身も時には一緒に遊ぶこともあった。
ただ、その子とはこれ以上は親しくしてはいけない空気があるのは子供ながらに感じていた。
 
大人になってからわかったことだが、その子は在日韓国・朝鮮人の2世だった。
もしかすると周りを取り巻く大人たちの間では一種の差別的な感情があって、それが教室内の空気の違和感にもつながっていたのかもしれないと今は思う。
 
私の地元は炭鉱が盛んだった地域というのもあり、戦時中は多くの人が朝鮮半島から労働力として連れてこられていて、その子の親ももしかするとその中に含まれていたのかもしれない。
今となればその様な事実があった事は知っているが、当時そんなに身近に接していたとは・・・・・・。
 
子供だった私がその事を知っていたら何が出来たということではないが、その人の背景を知らないまま過ごしていた事は今考えると残念に思う。
 
人生を送っていく中では、時には知りたくない過去(歴史)もあるかもしれないし、知らない方が良い過去(歴史)ももしかするとあるかもしれない・・・・・・。
 
でも、私は知る方を選びたい。
大事なのは知った上で、どう行動するかの方だと思うから。
 
だから、私はこれからも”縦の糸”を使っていく。
人生に深みを与える道具だと信じて。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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