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県民コンプレックスとその克服


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記事:ビーマン(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「出身地はどこですか」
 
自己紹介時、初対面の人と話している時。話していると大体出身地の話になる。就職時のグループワーク、バイトの飲み会など様々な場で自己紹介をする機会があった。
出身地を聞かれると都道府県を答えないといけないのだが、それだけでは十分に出身地の魅力が伝えきれない。私の出身地は他県にないものをたくさん持っている。その誇りとちょっとした愉悦感を胸に私はこう答える。
 
「私の出身地は三重県です」
 
相手からの反応が小さい。あれ、聞こえなかったのだろうか。確かに声が小さかったかもしれないし早口だったかもしれない。いつもの癖を反省しつつ、言い直そうか迷っていると相手が
「あー、三重県。あー……」
と小声でつぶやいていることに気付く。インターネットで検索をかけている時のパソコンのようだ。
しばらく待っていると検索に引っかかったらしい。
「伊勢神宮ですよね!」
 
「はい、そうです!」
 
私も合わせる。
しかしそれ以降が続かない。しばし流れた沈黙の後、話は別の話題に移ってしまう。
 
大学生になって東京に出てくるまで、私は三重県で暮らしてきた。東京に暮らすようになって人の多さやとんかつソースがないことなどカルチャーショックを受けたこともあるが、何よりも衝撃だったのが三重県の知名度が低いということだ。
 
当初私は内心激怒した。もちろんそれまで三重県のことを強く意識したことはなかったので突発的な感情だったのだろう。高校の教科書で読んだ「走れメロス」のような、若さゆえの突発的な怒り。しかし、三重県の知名度が低いというだけで三重県民であるということが激しく虐げられているような気がした。県民コンプレックス。そう呼ぶのがふさわしいだろうか。私は三重県民であることは誇りであると同時にひどく恥ずかしいというような奇妙な感覚に陥ってしまった。
以来、出身地を尋ねられると私は困惑してしまうのだった。どのように答えればあの奇妙な空気を回避できるだろうか。「伊勢神宮で有名な三重県です」では長いし、いっそのこと愛知県と答えてみようか……。様々なことを考えていた。
 
そんなある日、私はインターンの面接を受けにある企業に来ていた。重役と一対一の面談の場で将来の話になった。将来的に私は三重県に帰るつもりだと答えた。実際そのつもりだった。
 
「ふーん、なんで?」
 
非常に唐突なことだった。当時の私は愛着や心のよりどころであることを答えたと思う。が、あまり共感はされなかった。その方は日本に住んでいるということもさほど気にしていない方で何なら海外で暮らしても構わないし、年金など様々な制度が破滅してしまうのならむしろ海外の方が良いということだった。
 
考え方は人それぞれでもちろん絶対的な物はない。正しいということもなければ誤っているということもない。ただ、どうしてもその方の考えとそりが合わなかった。馬鹿にされているような、妙な劣等感のようなものを覚えた。同時に孤独感のようなものも覚えた。生まれた県に愛着を持ち、そこに戻ろうとすることは時代遅れでそれをする人間などいないのではないか、と。
結果的にその企業とは縁がなかったわけだが当時の問いかけは今も、やや形を変えてではあるが残っている。
 
「なぜ、私は三重県に誇りを持ち、そこに戻ろうとしているのか」
 
きっと答えなどないのだと思う。
だが、東京で過ごしていても旅行先で過ごしていても三重県にいるときに感じるような安らぎを感じることはできなかった。地域に受け入れられているような感覚、三重県では無意識にそれが感じられたのだった。このために私は三重県に愛着を覚え、誇りを持っているのだ。
 
「出身地はどこですか」
 
「三重県です!」
 
今ならすぐに答えられる。その後の気まずいような空気さえ、ちょっと楽しめるようになってきた。三重県のことを知らないならばこれを機に知ってもらえばいい。メロスは刃物をもって暗殺を企てるのではなく、伝えることでわかりあおうとするようになったのだ。
 
もし、都会に出て出身地へのアイデンティティが失われたり揺らいだりしているのならばそれはあなただけではない。きっといろんな人がそれに対面するのだと思う。その結果、自分の生まれ故郷を否定する人もいれば去る人もいるかもしれない。ただ、それが正しいわけではなく誤りでもない。私に私の答えがあるように、きっとその人の答えをもっているのだろう。ただ、どれだけ周りの人が出身県を捨てようとも出身地への誇りは恥ずべきものではない。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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