メディアグランプリ

イヤリングを200個つくってわかったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:坂元沙也可(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いやー、だいぶ荒らされましたねぇ」
警察の人が今の私の部屋を見たら、こう言うに違いない。
テーブル一面にとどまらず、床までもが色とりどりのビーズやパーツで、埋め尽くされているからだ。
 
ことの始まりは、年末でもないのに、大掃除をしたこと。
何かに滞ると「根こそぎ大掃除」をしたくなる。滞っている物事からの逃避行為で、学生の頃、テスト勉強しなければならない時に限って、机を片付け始める“あれ”と同じだ。家の隅々まできれいにして、残るは自分の部屋。ある引き出しから、ビーズが出てきた。縦積みの円柱型アクリルケースに、好きな色の粒が詰まっている。
 
子供の頃から、手を動かして物を作るのは好きだった。ただ、飽きっぽい性格なので、あれこれ手を出しては、すぐにポイ。サンタさんにもらった編み機は、数回しか使わず、両親がブーブー言っていた。
 
そんな私が、これまで幾度も手にしてきたのが、ビーズだった。記憶に残っている限り、過去2度ほどビーズの波が来ている。
 
1度目は、虫。
なんで虫を作ろうと思ったのかは全く覚えていないけれど、ほぼ実寸大であろうバッタと、モスラにしか見えない蝶が、今でも手元に残っている。
 
2度めは、輪切り。
野菜などの切り口の美しさに惹かれて、作ったのだ。手元にはキーウィしかないけれど、とうもろこし、マンゴスチン、オクラなど、いろいろ作った記憶がある。
 
そして今、3度めの波が押し寄せている。
イヤリングの波だ。手持ちの古着に似合うイヤリングを妄想しては、テーブルにビーズを並べて、ニヤニヤ。
 
とにかく、作るのが愉しくて仕方がない。
仕事も「作る」ことではあるけれど、マーケティングとか、ブランディングとか、ペルソナとか、コンバージョンとか……そんなのかんけーねー! と、ただただ作りたいものを作っていった。
 
「これは、あの服に似合いそうだな」
「あの人は、こんな感じのが好きそうだな」
 
ビーズを眺めていると、妄想が膨らんでいく。
「天気に合わせてイヤリングを選ぶのも、愉しくないか?」と、新たな選び方を考え出しては、雨、曇り、雷などのイヤリングを仕立てたり、会社を休むほどの下痢ピーで苦しんだ時には「この辛さをイヤリングに仕立ててやる!」と尻の穴ヒリヒリイヤリングを作って、翌朝会社に付けて行った。
 
思いつきをどんどん形にしていたら、気づけば数ヶ月で、200を超えるイヤリングができあがっていた。
いかん、流石に作りすぎた……。
 
勢いよく作りすぎて、初めのほうにどんなものを作ったか、自分でもわからなくなっていた。
一旦整理しよう。200個以上もあるんだし、一度ズラッと並べてみよう。1日1イヤリングだ! そう思い立って、今年のエイプリルフールから、1日ひとつ、イヤリングの写真をInstagramにアップしていくことにした。
これまでに、体調不良やスマホ粉砕もあって何度か頓挫しかけたが、なんとか続いている。
 
作ったイヤリングを人に見せていたら、ありがたいことに「売ったらいいのに」と言ってもらえたので、調子に乗って、売ってみることにした。
 
さて、どこで売ろう。
まず浮かんだのは、ハンドメイド系オンラインモールへの出品。独自でオンラインショップを作るより“人通り”はあるけど、もの的に埋もれるかもしれない。というより、周りのクオリティが高すぎて、怖気付いた。それに、自分で出荷や顧客対応することを考えると、お試しでやるにはハードルが高い。
ちょこちょこ行く地元の店に、置いてもらえたら嬉しいなと思ったけれど、いきなり「置いてください」は迷惑だろうし、失敗したら店に行きづらくなるから、却下。
 
ふと、専門学生の時に利用した「レンタルボックス」を思い出した。
一箱を店舗スペースとして借りて、自分の作ったものを販売できるサービス。レンタルボックスは言わば、ハンドメイド系“オフライン”モールだ。ハンドメイドのものを求めてくる人通りもあり、実店舗なので、どんな客層なのか自分で確認することができる。しかも、販売手続きも顧客対応も在庫管理もしてくれて、出荷業務の負担もない。会社勤めで、販売初心者の私には、大変ありがたい。
 
早速その店へ行ってみる。すると、以前より売り場が倍以上になり、すんなり通れないほど人だらけ。
客層を見ると、キャッキャした若者に混じって、個性的なファッションの素敵なおばさま方も見受けられる。海外からの渡航客も多い。アジア圏にとどまらず、さらに遠方からも来ている様だった。
 
私が作るイヤリングは、何というか、キラキラ感が薄い。そういう点で、周りの品々とはちょっと毛色が違うけれど「それもまたプラスに働く可能性も」「これだけ幅広い層が来るんだったら、気に入ってくれる人もいたりするかも」など、店内をうろうろしながら、考えを巡らせていた。
 
人通りが多く、幅広い客層、古着の街……
 
ちょうど目線の高さあたりに、一番小さな箱が、ひとつポツンと空いていた。聞くと、ついさっき空いたばかりだと言うので、心を決めて申し込んだ。
 
どんなものを置こうか。
自分が作ったイヤリングを、タイプに分けて分類してみると、5つほどあった。
重箱3段分ほどのスペースの中に入る数は、限られている。どんなものが売れるのかわからないので、まずは、5タイプすべてを、少しずつ置いて、様子を見た。
少し経って行ってみると、3タイプが1つずつ売れていた。売れていなかったのは、私が作った中では、正統派でキラついたものだ。「他と差別化されてないから、売れなかったんだろう」そう仮説を立てて、一番その場では“浮く”であろう1シリーズに絞って置くことにした。
置き始めてから、5ヶ月。じわりじわりと、売れる個数が増えている。そうなると、「どんな人が買ってくれたんだろう」と、興味が湧いてくる。そこで次は、ハンドメイドのイベントに出店することにした。買ってくれた人の直の声も聞くことができたら、次の施策に活かすことができ……
 
……ってこれ、まるっきり仕事と同じ思考じゃん!
 
そんなのかんけーねー! と思って始めたイヤリングづくりだったけれど、「売る」ことを意識した途端に、気づけば競合を調べ、他者との差別化を考え、顧客層を想定し、売れるための施策を考えていた。お金が動くとなると、どうしても仕事的な考えに至るようだ。
 
目からウロコ、いや「引き出しからビーズ」かな。
 
 
 
 
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2019-09-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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