食事を美味しくする最高の隠し味
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:菅恒弘(ライティング・ゼミ日曜コース)
「いただきまーす!」
そんな風に声に出して食事をする機会も少なくなった。
普段の食事は夫婦二人だけ。それぞれの時間が合わず、食事を別々にすることも多い。ましてや大勢で食卓を囲んで、ワイワイと楽しく食事をするという機会は本当に少なくなった。
そうなると食事を作ること自体が面倒になってきて、特に自分の食事だけとなると、もう作る気が失せてしまう。作ることも食べることも、生きていくためのエネルギーを得るための作業のようになってしまっている感じだ。
そんな時に知った「コショク」という言葉。
家族でいながらバラバラに食事をする個食、そして一人で食事をする孤食。コンビニのお弁当や総菜の充実ぶり、一人で気軽に外食できる環境と、ますます「コショク」しやすい環境が整っている。
「コショク」には栄養の偏りやコミュニケーションの欠如など、身体的にも精神的にも問題が多いそうだ。気軽さがある反面、やっぱり寂しさも感じてしまう。
まさに自分も「コショク」化していることに、漠然とした不安を感じ始めた。
漠然とした不安を感じている時、たまたま友人宅の餅つきに招待された。
朝から夕方まで、杵と臼を使って餅つきをする。
友人家族やその親戚、さらに招待された友人・知人が入れ替わり立ち替わり総勢40名近くが参加する。年齢層もバラバラ、もちろん初めて会う人たちも多い。たまたま通りがかった近所の人たちまでもが参加することもある。
餅つきをしている横では、出来上がったお餅がさっそく振舞われ始める。さらにバーベキューが始まり、お酒を飲む人たちまで現れる。子どもたちは餅つきに飽きて、鬼ごっこやかくれんぼが始まり、大人たちもその遊びに巻き込まれていく。
現場はもうカオス状態。
ただ、そこでは会話が弾み、笑顔が溢れている。お餅を作ること、そして食べることを中心にして、大勢の人たちが楽しみながらその場にいるのだ。
作業化してしまっている普段の食事とは全く異なる食事の風景がそこにはあった。
食事への漠然とした不安、作業化とは全く違った餅つきの風景。
そんな不安や体験から、友人と一緒にあることを始めることにした。
それは10人くらいで集まって、みんなで一緒に夕飯を作り、一緒に食べて、一緒に片づけようというもの。レンタルキッチンを借りて、仕事帰りや学校帰りに集まって、一人じゃなく大勢で夕飯を楽しもうという非常に単純なものだ。
面白がって参加してくれそうな人たちに声をかけてみると、思いのほか反応が良く10名が集まった。
当日は食材や調味料の事前の買い出しを済ませ19時から調理をスタート。
参加者はそれぞれの都合に合わせ集まってくる。職業や年齢層もバラバラ。中には知り合いの人もいるが、多くは初めて会う人たち。
初めはそれぞれ様子見といった感じだったが、作業を始めると自然とコミュニケーションが生まれるので不思議だ。料理の経験や参加したきっかけで会話が始まり、包丁さばきや手際の良さに驚いたり、逆に全くできないことで笑いが起きたり。
そんな風に一緒に作業する一体感からお互い壁を作らずに次々に会話が進んでいく。
料理を作り始めて約1時間、ほぼ予定通りに調理は終了。
そして、みんなで「いただきまーす!」で食事が始まる。
そのころには参加者同士も打ち解けて、食事をしながらの会話も弾む。
「○○さんの野菜を切る包丁さばきは素人ではなかったよね」
「△△さんは、みそ汁を作る時にこし器を使わずに直接みそを入れるからびっくりしたよ」
「××さんって、私の兄弟と同級生だったみたい」
調理中のハプニングや参加者同士の思いがない繋がり、そんな話題で盛り上がる。
会話と食事を1時間半しっかりと楽しんだ後は全員で片づけ。チームワークもできてきて、あっという間に作業は進んでいく。そうやって約3時間の食事はあっと言う間に終わっていった。
こうやってみんなで作って、みんなで食べる食事は何とも美味しく感じた。
不揃いに切られた野菜や味付けを間違ってしまった料理も、みんなでの食事では、そんなことさえも美味しく感じさせる。
きっとそれは、一緒に調理し、そして食事をした時間と体験が食事を美味しくする隠し味になっているのだ。
食事を作ること、食べることは人にとって生きていくためにはなくてはならない根源的なもの。そんな根源的なものだからこそ、一緒に作ったり、食べたりすることに、本能的に喜びや楽しさを感じてしまうのかもしれない。
一人で食事をすることでは感じることができない、喜びや楽しさ、誰かと繋がっている実感、そんな隠し味で食事が美味しくなっているのだと思う。
こんな経験をしてしまうと、やはり「コショク」化してしまっている自分の食生活を見直さないとまずいなと思ってしまう。せっかく食事を美味しくする最高の隠し味を知ってしまったのだから。
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