人生のひょっこりさん
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:ブロムベリひろみ(ライティング・ゼミ平日コース)
これまでの人生で下すのが一番難しかった決断はなんですか?
進学や就職や転職、人との出会いや結婚、別れなど、私たちは決断と無縁では生きていけません。
海外に引っ越したり、何度も転職をしたりと結構変化の多い人生を送っている私ですが、実は決めることはそれほど得意ではありません。今もそろそろ決める必要のあるものがありますが、やっぱりなかなか決断できない。決断には勇気が必要です。でも私は決断できないことをあまり心配していません。
なぜなら、これまでも「人生のひょっこりさん」が私の行く方向を決めてきてくれたから。「ひょっこりさん」とはなんでしょう? 私が意識したはじめての「ひょっこりさん」とは25年ほど前、インドのお寺で出会いました。
当時、会社員をやめてバックパッカーとしてアジアを旅行していた私がインドのお寺でひょっこり知り合ったのは、スペイン人のパコとヌリアというカップル。お寺の参拝を終えて門から出たところで、彼らから「どんな感じのお寺だった? まだ開いてるかな?」って聞かれたのが、ひょっこり出会ったきっかけでした。
お互い英語がまあまあレベルでゆっくり落ち着いて話せたし、のんびりした旅のペースも似ていて、私たちはその後何日かを一緒に過ごして別れました。
私よりずいぶん年上で当時45歳くらいだったパコは、私が初めて出会ったヒッピー(!)でした。一緒に過ごしたのはほんの数日間でしたが、その時に聞いた銀行家の父から押し付けられたエリートとしての生き方を拒否して長らく南米で暮らしていたことなど「自分の生きたいように自由に生きる」ことの実践とそこから生ずる責任のとり方の話は、私のその後の考え方に大きな影響を与えました。
自由な生き方は経済的な不安定さと裏表だけど、それを自分でうまくバランスさせる方法を学べばよいのだ、と納得できた。「他人の尺度で生きなくてもいい。でもその責任も自分でとる」、そんなことを教えてくれたのがパコでした。
パコは私にとってインドで偶然出会っただけなのに、人生の方向性と熱量を変えてくれた人。家族や仲のよい友人のように日常的なやり取りを通して人生の輪郭作りに関わってくれる人たちとは違う意味で、指針を与えてくれる大切な役割をもった人でした。私はこんな人たちをひそかに「ひょっこりさん」と名付けて感謝の気持ちを表しています。そんな中には、名前も知らないけど忘れられない人生の「ひょっこりさん」もいます。
パコと出会ったバックパック旅行とその後のお気楽なヨーロッパでの遊学を終えて4年ぶりに戻った1997年の日本は息苦しくて倒れそうでした。私は明らかに適応できておらず、つまらない日々を送るつまらない人間になってしまいました。こんなはずじゃなかったのに、と暗い毎日でした。
この柔らかい針のむしろみたいな生活から抜け出す方法はあるのかとウツウツとしていたある日、下をむいて電車に乗っていたら急に周囲の空気が変わるのがわかりました。顔をあげると真っ白なパナマ帽、真っ白なスーツ、真っ白なエナメルの靴で頭のてっぺんからつま先まで決めた、どうみてもちょっとカタギには見えない男性が立っていました。でも、その人の立ち方、洋服の着流しかたのかっこよかったこと。
ひるがえって、その頃には周囲の人達の好意でまた会社員として働いていた私は、プチうつ状態を言い訳に自分の外見に注意が行き届いていませんでした。それが急に恥ずかしくなりました。
なんの文句も言えない状況にある私が身だしなみをきちんと整えることもせずになにをすねているのか? この男性が何をしている人か、どんな過去があるのか、今どんな問題を抱えているのかは知らないけれど、自分と周囲の人への尊厳がしっかり伝わってくる。その人が持っていたのはそんなかっこよさでした。
私も自分や周りの人へのレスペクトを外見にもきちんとあらわして生きていこう。再びそう思えるまで、そんなに時間はかかりませんでした。その後も辛かったり人生が乱れそうになった時には、白いスーツの「ひょっこりさん」を思い出して「ピシッといこう!」と自分にハッパをかけています。
そして、最近は「ひょっこりさん」には出会っていないのですが、そもそもひょっこりさんは出会った瞬間にわかるものでもありません。起こった出来事を「あぁ、あの時が人生の転機だったのか? あの人がひょっこりさんだったんだ!」と後から振り返って初めて理解できるような気もします。
しかしながらひょっこりさんと出会う法則があるとすれば、旅先とか、手持ちぶさたな時間とか、自分に隙間がある時が多いようです。人生に変化が欲しかったり、決断ができなくて困っている人は、どうぞ今からすぐにでもいつもは行かない場所にでかけたり、やったことのないことを試してみてください。そこであなたの「人生のひょっこりさん」が待っているかもしれません。
そういう私は、今、懸案となっている事柄での「ひょっこりさん」との出会いを待ちつつも、いつかは自分も立っているだけで他の人の「ひょっこりさん」になれるよう、背筋を伸ばして生きていきたいと思っています。
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