残念な生き物……それは
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:天草野 黒猫(ライティング・ゼミ平日コース)
ある日のことだった。
「ねぇねぇ、パンダの食べてる笹って栄養ないって知ってた?」
な、なにを突然、言い出すんだ。
私はひそかに思った。
ここは、昼下がりの喫茶店。
古民家風の感じの良いカフェで、学生時代からの友人とお茶をしている時だった。
彼女がスマートフォンを片手に、おもむろに私に聞いてきたのだ。
「え? でもパンダってよく笹、食べてるよね。栄養あるんじゃないの?」
「それが違うんだってー。生存競争で昔、熊に負けたから仕方なく笹食べてるらしいよ」
「えー! ぞうなのー」
「そうらしいよー。これみてみて。おもしろい」
そう言って彼女が見せてくれたのは「ざんねんな生き物事典」。
その本の内容をいくつか紹介しているサイトだった。
コアラはユーカリにふくまれる猛毒のせいで、1日中寝ている。
ざんねーん。
ワニが口を開く力は、おじいちゃんの握力に負ける。
わーざんねーん。
カメムシは自分のニオイがキツ過ぎて、気絶する。
なんてざんねーん。
「あはは、これおもしろいね! 帰ったら調べてみよう!」
そう言って帰宅した私は、パソコンでどんな残念な生き物がいるのか調べてみた。
どれもこれも、おもしろい。「ざんねんな生き物事典」は2018年、子供の本総選挙で1位をとるほどのベストセラー。子供から大人まで楽しめる。そんな事典だった。
私も「なんて残念なんだー」とひと通り大いに笑って、すっかり忘れていた。
そんな残念な生き物達を、いっきに思い出したのがNHKのTV番組。
「SWITCH 達人達」山田ルイ53世×今泉忠明の回。
髭男爵の山田ルイ53世さんは、すぐイメージできた。
しかし今泉忠明さんって誰? と思いながら見ていた。
番組10分くらい経過した頃だろうか。
やっと「ざんねんな生き物事典」を監修した方だと分かった。
思わず前のめりで番組をみる。
今泉忠明さんの言葉は、学者なのにどこかユーモアがある。
2人の対談はとても興味深く、笑いの中にも真理を感じられた。
特に、対談の中で興味が沸いたのはトラ!
トラは笑っちゃうほど狩りがヘタなのだそうだ。
10回に1度しか成功しないらしい。
という事は、9回も失敗している。
これが人間だったらどうだろうか。
七転び八起き以上の失敗。
つらすぎる。
ましてやひもじいのだ。
落ち込んで、やる気をなくしそうだ。
落ち込む?
そう、落ち込むのは私達が人間だからだ。
番組の中でも話されていたが、実は人間は「頭が良すぎて残念」なのだ。
残念なことに、記憶力がいいから失敗を忘れない。
いやな事も忘れられないから苦しいのだ。
そんな、「頭が良すぎて残念」な人間を見ているような生き物がゴリラだ。
ゴリラはなんと、知能が発達しすぎてすぐ下痢気味になるそうだ。
争ってケガをする事を考えて、ぐっとがまんする。
そして、ストレスをためこんでしまうのだ。
あんなに強そうなゴリラがだ。
心は豆腐のようにもろいゴリラ。
なんて、人間みたい。
きっと、ゴリラも失敗には弱いな……。
そんな思いが頭をよぎる。
少し前に名古屋の動物園でフクロテナガザルの「あーーー!」という雄叫びが話題になった。
ゴリラも、あれくらい叫べればいいのに。
では、失敗に強いトラは何をして失敗を忘れるか。
それは「転移行動」だ。
失敗したあとに、しょんぼりと座りこみしばらく毛づくろい。
背伸びをしてみたり、ゴロゴロしたり。
そこで、失敗したことを忘れてまた狩りにチャレンジ!
あきらめが悪いというよりも、上手に忘れる生き物なのだ。
人間だとなかなかこうはいかない。
あの時、あの人に嫌な事を言われた。
あんな大勢の前で大失敗してしまった。
とにかく、忘れるのに時間がかかる。
嫉妬や恨みも記憶力がよすぎて生まれるのだろう。
なんて残念な生き物なんだろう、人間。
いっそトラのように、すぐに忘れられたら。
すっかりトラがうらやましくなった。
ん? だとすれば、トラの行う「転移行動」は私達にも役立つかもしれない。
嫌な事があったら、どっぷりとしばらく毛づくろい。
伸びをしてゴロゴロして。
以外と効果的そうだ。
進化は退化。頭が良すぎない方が考え込まないのかもしれない。
何度でもチャレンジできるのかもしれない。
しかし「ざんねんな生き物事典」にもかかれている。
一生懸命生きているけれど残念。
残念だから、愛らしい。
そうだ、私達人間は「ざんねんな生き物」の仲間なのだ。
そう思うと、人間も愛らしく健気に思えてきた。
うん、残念で、いいじゃないか。
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