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メディアグランプリ

大丈夫、は夜明けの特効薬


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:緒方愛実(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
言葉って不思議だ。
言葉には力がある。口から発すると、意味と魂が込められる。
それは、時には毒にも薬にもなる。
 
はじめは毒だった。
数年前、私は職場で辛い目にあっていた。
じくじくと傷に染みて、膿んでしまいそうな言葉を、いつも投げかけられていた。毎日毎日言葉で殴られながら、私はじっと耐え忍んでいた。
何とか頑張っていたけれど、もうとうに限界だった。
完全に心が壊れる前に。私は地獄から抜け出した。
 
数年の月日が経過した。少し対人関係が怖くなってしまったけれど、色んなことに挑戦する内に、痛みは和らいでいった。
でも、時に街中で聞こえる大きな声や、焦るような場面に置かれると、あの時の苦しみを思い出し、すくんでしまうこともあった。
 
いくつかの職を転々とし、巡り合った今の職場。
忙しい時もあるけれど、色んなことに挑戦させてもらえる。何より、私という個人を尊重してくれる。先輩たちも穏やかで、やさしくてとても居心地の良い職場環境だ。
難点をしいて言うなら、上司のことだろうか?
私とは、親子ほどに歳が離れている、ベテランの男性だ。がたいがとても良く、最近中年太りを自分でも気にしている穏やかな人だ。
ただ、少し抜けた所がある。
「ねぇ、頼んでいたあれやっといてくれた?」
「え? 昨日、完了しましたよって、言ったじゃないですか」
「あれ、そうだっけ?」
首を傾げながら、ポリポリと頭をかく。上司のいつものポーズだ。
人格は良いけれど、いまいち先輩として信頼に欠ける。
 
ある時、クライアントのイベントの手伝いに部署の全員が駆り出されることになった。平常時は、営業や、編集を主に行う部署なのでイレギュラーなことだった。
少し、不安があったが、受付業務の手伝いだけだと聞いたので、了承した。
イベントが始まると、慌ただしくなる。ハプニングも起こり、スタッフ全員が業務をこなすために走り回っている。
「人が足りないから、物販の方に応援に行って!」
「え!?」
過去のことから、人に接することが苦手になっていたため、なるべくなら避けたかった。だが、そんなこと言っている場合ではない。みんな懸命に働いているのだから。
 
物販の手伝いに向かうと、先輩が慌てた様子で、私を手招きする。
「お客さんから、注文を聞いてお会計して!」
カウンターに入って顔を上げると目の前に、グッズを買うための長蛇の列ができていた。
私の前に立つお客さんが、グッズを指さす。
「これとこれと、あとこれもください」
 
わからなかった。
お客さんの指さす動きを見ていたけれど、頭がついて来ない。
簡単な暗算すらできない。
電卓が用意されていたけれど、指が震えて数字を押せない。
お客さんが待っている。
どうしよう、早くしないと。きちんとしないと。でないとまた怒鳴られるかもしれない。
どうしよう、どうしたら。
私はパニックで、目の前が暗くなるのを感じた。
 
「大丈夫」
隣から降って来た声に、ハッとして、顔を上げる。
上司がいつの間にか私の隣に立っていた。
「大丈夫、落ち着いて。きちんとゆっくりすれば良いから」
そう言って、彼は私の横でお会計を代わりに始めた。
「は、はい」
私は、もたつきながら懸命に手を動かす。上司が計算し、私がお客さんに商品を渡す。淡々と業務をこなすうち、次第に気持ちが落ち着いて来た。次第に手の震えも止まり、笑顔で接客できるようになっていた。
お客さんの波も引いていき、商品もあっという間になくなった。
最後のお客さんに商品を渡し、おじぎをして見送った。
やっとほっと一息つけた。
「暗算が苦手とは知らなかったな」
隣を仰ぎ見る。
「今度は、会計ができるように計算の練習しといた方がいいかもね?」
上司は笑いながら言った。そして、首を傾げて私を見つめる。
 
「もう、大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
 
いつも通りの笑顔で答える私を見下ろして、ニッと口端を上げて彼は笑った。
「そう、なら良かった」
上司はひらりと手を振って、私に背を向けて別のブースに歩いて行く。
私が対人恐怖症ぎみなことを、今の職場の誰にも教えていない。もちろん、上司にだって。
それなのに、私の心のSOSにいち早く気づいて駆けつけてくれた。
何て、ありがたくて、心強いことだろう。
その時の私の目には、上司の背中がいつもよりとても大きく偉大に見えた。
ぐっと涙を堪えて、私はその後ろ姿に、深く深くおじぎをした。
 
言葉って、不思議だ。
時には、心をえぐる凶器や毒にも、心を癒す薬にもなる。
どちらになるかは、使う人次第だ。
私たちはそれぞれ人格もおかれた環境も違う。ふとしたことで、大切な人を傷つける言葉を放つこともある。残念ながら、相手を言葉で傷つけてしまっていると、自覚していないこともある。
あなたは、どうだろうか?
大切な人を、言葉で殴ったりはしていないだろうか?
言葉には力があるから、どうせなら大切な人を助ける言葉を投げかけてみてはどうだろう。
「大丈夫」
一言でもいい。そのたった一つが、言葉をもらった人の明日へと向かう勇気に繋がる。
 
私もいつか、あなたの様になりたい。
大切な人の心の暗闇をパッと打ち消し、夜明けを知らせる特効薬を笑顔で贈れる様な。
強くてやさしい、大きな人に。
 
 
 
 
***
 
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2019-10-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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