コーヒーは精神『不』安定剤
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:大矢亮一(ライティング・ゼミ日曜コース)
「コーヒーを飲むとホッとする」
そう思って飲んでいたコーヒーが、まさかその真逆の作用を持っていたなんて。
コーヒーは精神安定剤どころか、精神不安定剤だった。
私はコーヒーが大好きで、多い日はマグカップで7〜8杯はコーヒーを飲む自他共に認めるコーヒージャンキーだ。
いつでも片手にコーヒーカップを持っていないと落ち着かない。
酒もタバコもやらない代わりに、コーヒーだけは欠かせない。
コーヒーは朝目覚めた時に気分をシャキッとさせるために飲み、昼食後に眠気が来たら飲み、三時のおやつの時には甘くなった口をさっぱりさせるために飲む。そんなふうに、肩時もコーヒーカップを離さず、常にコーヒーを飲んでいる。
ところが先日、ロサンゼルスに住んでいる友人と電話で話していたら、こんなことを言われた。
「相変わらずのコーヒージャンキー?」
まーね、と応える私に
「私はコーヒーやめたの」
と彼女は言った。
東京にいる時、仕事のMTGでは負けず劣らずのコーヒージャンキーだった彼女がどうしてコーヒーをやめたのか、俄然興味が湧いた私は、どうしてコーヒーをやめたのか彼女に尋ねた。
「こっちでコーヒー飲んでるのは、警官かバカくらいのもんよ」
彼女は悪意のあるジョークを言ってから、コーヒーをやめたというよりもカフェインをやめたのだと話してくれた。
ご存知の通り、カフェインはアルカロイドの一種で、軽い覚醒作用がある。コーヒーにもカップ一杯(約150mL)に対し60〜90mg程含まれており、これによりコーヒーを飲むと気分がスッキリするとか、眠気が取れるなどという副次的効果がある。しかし、このカフェインは神経毒性を持ち、一種の中毒を引き起こす。カフェイン依存という症状が存在するものの、乱用や依存症を満たすほどの深刻なデータが不足しているため、あまり気にされることも少ない。
とはいえ、毒は毒ということで、彼女はカフェイン断ちを始めたそうだ。すると、ある目立った効用が表れたという。彼女いわく、気持ちが落ち着いている。意味としては、気持ちの浮き沈みといったような波が無くなり、いつも穏やかな気持ちでいられるようになったそうだ。
「試しにやってみたら?」
彼女は頭が良く、最も信頼できる友人の一人だったため、私もカフェイン断ちに挑戦してみることにした。
しかし、これが想像以上に辛い。
コーヒー断ちだけならまだしも、カフェイン断ちというのは思った以上に大変なのだ。
例えば、コーヒーがダメなら紅茶と短絡的に考えたが、コーヒーには劣るものの紅茶にも約30mL/杯程度のカフェインが含まれる。では、日本人だから緑茶はどうかと思ったら、ここにも約20mL/杯程度のカフェインは含まれている。烏龍茶にも同じくらい入っている。
ノマドワーカーの私は、日中、喫茶店やカフェを転々として仕事をすることが多いのだが、注文できるメニューが限定されてしまい、これには本当に参った。コーヒーが飲めないイライラと、ほとんどの店舗でカフェインレスの飲み物といえばオレンジジュースしかなく、カフェインレスにしても糖分の取りすぎの方が気になってしまうような別種のイライラが生じる。
健康的な目的でカフェインレスを始めたものの、ストレスが原因で健康を害しそうにナルトは本末転倒。
ところが、ところがである。
一週間を超えたあたりから明らかに様子が変わってきた。どう様子が変わったかといえば、カフェインレスを勧めてくれた友人が言っている通り、コーヒーが飲めないイライラや、カフェが見つからずひたすら街中を歩き回っても、心は穏やかなのである。
ここに至ってようやく理解できたのだが、そもそもコーヒーを飲むのはストレス解消ではなく、逆にストレス発生のメカニズムを構築する行為だったのだ。
コーヒージャンキーとはよく言ったものである。
気分転換にコーヒーを飲む、するとカフェインの覚醒効果で気分がスッキリしたように思える(これは実際スッキリしている)、また何か同様の状況になってくるとコーヒーを飲んで気分転換を図ろうとする、これを繰り返していくうちに、実は原因と結果が逆転現象を起こしてくる。つまり、コーヒーのカフェインが切れるとイライラし、集中力が落ちてくる。ここでコーヒーを飲めばホッと一息でき、イライラも治って集中力も戻ってくる。ところが、またカフェインが切れると・・・・・・という繰り返しなのである。
元々は気分転換や集中力を高めるために飲んでいたコーヒーで中毒となり、コーヒーに自分をコントロールされていたというなんともお粗末な話だ。
こうして、私はコーヒー、そしてカフェインレスの生活を続け、最近は飲み物といえば水、もしくは麦茶、ルイボスティーやカモミール(いずれもカフェインレス)が中心で、心の穏やかさを取り戻しつつある。
皆さんも、嘘だと思ったら試してみて欲しい。コーヒーは精神不安定剤。そして、一番の敵は、コーヒーでもなくカフェインでもなく、コーヒーを飲むのをやめたくない自分自身の言い訳の方だと気づくはずです。
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