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メディアグランプリ

くすぐったさから得た喜び


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【10月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《平日コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西田 千佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「いい感じに描けたね!」
俯いて集中している私の後ろから声がした。
自分のことじゃないと思い、また手元に集中した。すると、目の前に手が伸びてきた。
「ほら、ここ。うまいことバランス取れてるし」
人差し指が私の手元近くを指した。私の描いたもののことだと分かって、びっくりした。
「全然ダメですよ」私は首を大きく横に振った。
 
昨年の夏、たまたまFacebookで見つけたイベントに参加した。
そのページにあった『筆ペンで味のある文字を楽しく描いてみよう』というキャッチコピーと、色紙に描かれた独特な書体の文字に惹かれたからだった。
それに、文字を『描く』という表現も気になっていた。
 
先生が、目の前でお手本を描いてくれた。
最初に、薄墨の筆ペンで大きな『まる』を一つ描いた。そして、『まる』からはみ出るように、太字の筆ペンで『ありがとう おかげさま』と描いた。
「『あ』と『お』を大きくすると、カッコよく見えるよ」コツを教えてもらった。
文字が『まる』から飛び出していた。個性のある文字たちが、それぞれの存在をアピールしているように思えた。
 
「自分の思うように描いてみて。描くことを楽しんでね」先生が微笑んだ。
私も先生みたいに楽しく描きたいと思った。
 
いざ描いてみると、思うようにならなかった。
先生のお手本を見ながら、筆運びを思い出してみた。だが、思うように手が動かなかった。
何度も何度も描き直して、だんだんと自分の作業に集中していった。
そんな時、後ろから先生の声が聞こえた。
「いい感じに描けたね!」この言葉に、心がくすぐったくなった。
 
くすぐったいと思ったのには理由があった。
実は褒められることが本当に苦手だった。父には一度も褒められなかったからだ。
父は本当に厳しかった。
テストでちょっとでもミスをすると、「勉強が足りないからだ」と言われた。100点を取っても、「取って当たり前だ」と言われた。
どれだけ頑張っても、褒めてもらえなかった。認めてもらえなかった。悔しかった。
 
父に褒めてもらいたくて、一生懸命勉強した。悔しくて、認められたくて、更に頑張った。
私は、自分が悔しさをバネにして頑張れると思っていた。
だが、何度頑張っても褒められることはなかった。厳しい言葉しかもらえなかった。
だんだん私のバネは縮こまっていった。
 
そのうち反抗期を迎え、褒めてくれない父に反発した。
私は父に褒められることを諦めてしまった。
 
それからは、褒められても素直に受け止められなかった。
褒められると、くすぐったくなった。むず痒いようにも思えた。
ひねくれてしまっていた。嫌な奴だった。
 
大人になって社会に出ると、だんだんと褒められることがなくなった。
ひねくれた私が出てくることもなくなっていた。
そんな自分を忘れかけていた矢先、不意に褒められた。久しぶりにくすぐったかった。
ただ、何かが違うように感じていた。
 
久しぶりすぎたのか? 自分がどこか変わったのか?
この違和感は何なのか? 頭の中が整理できなかった。
そんな私に「文字を描くの、続けてみない?」と先生が声をかけてくれた。
違和感の正体が知りたくなり、そのまま続けてみることにした。
 
月に一回、年齢の近い4、5人の生徒さんと一緒に文字を習うことになった。
目の前で先生にお手本を描いてもらいながら、ちょっとしたコツを教わった。後は、お手本を見ながら、それぞれ自分なりに描いてみた。
先生は、良いところを見つけて、必ず褒めてくれた。悪いところがあったとしても、改善するためのアドバイスをして、最後に必ず褒めてくれた。
 
回を重ねる度に褒めてもらえた。
先生から褒められて、くすぐったさが心地良くなっていた。
そのくすぐったさをもっと感じたくなった。私は家で描く練習を始めた。
 
先生からもらったお手本のほか、先生がSNSに投稿していた作品も真似してみた。
描けば描くほど、自分でも何となく満足できるものになっていった。
季節の挨拶を描いて、SNSにアップしてみた。『いいね!』がたくさんもらえた。
描くことが楽しくなっていた。
 
楽しんで文字を描くようになって、1年が過ぎていた。
「何も言わなくても、バランス良く描けるようになったね」先生のいつもとは違う褒め言葉に驚いた。
「ありがとうございます」無意識に、私はお礼を言った。
その時初めて、ずっと気づかなかった『褒められる喜び』を感じていた。ずっと気になっていた違和感の正体は、私が知らなかった感情だった。
 
いい大人になって、褒められると頑張れることがわかった。
褒められて伸びるタイプだったことに、今更ながら初めて気がついた。
褒められることは、素直に嬉しい。今は間違いなくそう思う。
これからも褒められたいし、楽しく描けるうちは続けてみようと思っている。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-10-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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