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メディアグランプリ

その「よろしくお願いします」はいったい何をお願いしているんだろう


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:雨貝未来(ライティング・ゼミ特講)
 
 
日々の仕事で、プライベートで、メールを読んだり書いたりしていると、たまに妙に引っかかってしまうフレーズがある。
 
「お世話になっております」
「お疲れさまです」
「よろしくお願いします」
 
空気のようにごくあたりまえに、メールの書き出しや結びに添えられる、こういうフレーズである。
 
メールのはじめと終わりをふんわりまとめ、リズムを整えてくれる、便利な一文。
たいていはすっと読み流してしまえるけど、たまにものすごく、気になってしまうのだ。
 
例えば、こんな時。
 
一度も会ったことのない人からのメールに書かれた「お世話になっております」。
仕事関係でもない人からの連絡に添えられている「お疲れさまです」。
何もお願いされていないメールの文末にちょこんといる「よろしくお願いします」。
 
うーん。なんとなく、居心地のよくない感じがしないだろうか。
「あれ、どうしてここにいるの……」というようなすわりのわるい姿を目にするたびに、私はなんとなく、もやもやした気持ちになる。
 
そして、大学生の頃のちょっと苦い経験を思い出す。
 
所属していたゼミで論文を書いていた、大学4年の冬のこと。
夏休みの宿題を8月31日に泣きながら終わらせるタイプの私は、締め切り間際、連日の徹夜執筆もむなしく、論文の提出期限にとうとう間に合わなくなってしまった。
 
徹夜明けのぼんやりした頭で朝日を眺めながら、担当教授にメールを送る。
論文の提出が遅れてしまいます。申し訳ありません。
リズムがよくなかったので、メールの最後には、特に何も考えず「よろしくお願いします」と書いて送信した。
 
送信ボタンを押した瞬間、ものすごくほっとした。
毎日まいにち論文のことで頭がいっぱいで、焦れば焦るほど思考は同じところをぐるぐる回り、考えれば考えるほど詰めの甘いところが見えてくる。今思うと、なかなか苦しんでいた。
期限内に提出するのをあきらめることで、その苦しみから一瞬だけ解放されて、また気持ちをリセットして、あと何日かがんばって完成させよう……そんなふうに簡単に考えていた。
 
しかし、次の日に教授から届いた返信は、私のそんな甘えた安堵感を、一瞬で打ち砕いた。
 
返信にはひと言、
「何を『よろしくお願いします』なのでしょうか」
と書かれていた。
 
うわ……恥ずかしくて、冷や汗が出た。
おっしゃる通り。私、先生に何にもお願いしていない。
 
○日までに出すので、少し時間をください。とか、ひと言書いてあるならまだわかる。
けれど私が送ったメールの文章は、
「提出遅れちゃうし、いつまでに出せるかもちょっと、なんとも言えないんですけど、まあゴニョゴニョ……」
という感じに受け取られるものだった。
実際、私の考えはそのくらい甘いものだったから、ただそれが素直に出てしまっただけのことなのだが。
ただ、何も考えずに書いた不自然な「よろしくお願いします」は、そのルーズな印象を増幅させるのにひと役買っていたと思う。
なにげなく使った言葉だけど、こんなふうに不誠実で形式的な印象を与えてしまうこともあるのだな。と、甘ちゃん学生は気づかされたのだった。
 
傍から見ればこんな話は、大人の人とのコミュニケーションに慣れていない大学生の、ただの残念なエピソードだと思う。
メールは単に用件を伝えるためのツールである。そんな定型句について深く考えることなんて無駄じゃないか、と言う人もきっといる。
でもその時の、うわ恥ずかしい! という気持ちは、私にとってけっこう大事な価値観と結びついていたと思う。だから今でも思い出すんだと思う。
 
一度も会ったことのない人に連絡するときは「はじめまして」ではじめたらいい。
 
プライベートな連絡なら「最近どうですか」とか。他にもたくさんあると思う。
 
それに、何もお願いしてなければ「よろしくお願いします」は要らない。
おさまりがよくなければ、「よろしくお願いします」の代わりにどんなフレーズで締めようか、考える。
お返事お待ちしています。お身体大事にしてください。忙しそうですね、よく寝てくださいよ。
こういう一文を考えるというのは、(あたりまえだけど)メールを受け取る相手のことを、少しだけ想像してみないとできないことだ。
そして、そうやって考えられた一文からは、ちょっとした親密さとか、気遣いが伝わることもあるんじゃないだろうか。
 
もちろん、決まり文句のフレーズを使うのを否定したいわけでは、全然ない。
適切に使えば、「お世話になっております」も「お疲れさまです」も「よろしくお願いします」も、シンプルに、しかもちゃんと相手への感謝とかねぎらいとかを表現してくれるフレーズだ。どんどん使えばいいと思う。
 
ただ、それらのフレーズに「あれ?」と感じた時には、少しだけ時間をとって、代わりを探してみる。それはとても些細なことだけど、コミュニケーションをちょっとだけ、豊かにすることもあるかもしれない。
 
そんなことを思いつつ、キーボード上の私の指は、今日も半自動的にこのフレーズを叩いている。YO RO SHI KU O NE GA I SHI MA SU。今打ち込んだこれは、居心地わるそうにしていないだろうか。送信ボタンを押す前に、ふと考える。
 
 
 
 
***
 
この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-10-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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