名前も知らない親友たちのこと
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ秋の9日間集中コース)
「友だちがいない」
離婚して気がついた。40なりたての頃だった。
仕事、家庭、仕事、家庭の連続で、友だちと会う時間などなかったのだ。
仕事以外の、そして、学生時代以外の友人を41から作るには、どうしたらいいか。これは大きな課題だった。
そんなとき、いいツールがあった。mixiというSNSだった。
いまでは、アクティブユーザーも少ないが、10年前のmixiは、人が溢れていた。
そこには、様々なコミュニティがあった。
趣味、スポーツ、好きな芸能人、好きな音楽、好きな番組などなど。
県人会、東京初心者の会、知らない人と飲みたい、同じ誕生日を祝いたい、
などなどの会。
気軽に参加できるコミュニティにどんどん入っていった。
リアルの友達とは話せないマニアックな話題に、レスポンスがあった。
ネット上でやりとりをしていると、たまに、オフ会の告知があった。
知らない人といきなり会う、なんて、という思いはなかった。
日々やりとりをしている人たちは、もう知っている人のような気がしていたからだ。
こうして、まず、とあるアーティストの曲だけを歌う、カラオケオフ会に行ってみた。
これが面白かった。普段のカラオケでは歌えない曲を歌っても、盛り上がる。
盛り上げるために、アーティストのTシャツを持ってくる人がいる。なりきって歌うために衣装やサングラスなどを用意する人もいる。みんな誰かを楽しませようとして
全力で遊びに来ていたのだ。とても盛り上がった。次やろう。次もやろう。と何回も
遊びに行った。
なぜ、あんなに楽しかったんだろうか。ひとつとても重要なことがあった。
利害関係がない。
これだった。
mixiというSNSは、本名登録が義務づけられていなかった。
プロフィールに仕事や会社名、年齢を記入する必要がなかった。
つまり、好きなものだけで純粋に楽しむことができたのだ。もちろん、恋愛感情という下心がでてくる場合もあったが。
大人になってから、年齢、肩書き、仕事などにとらわれない付き合いができる
というのは、誰にも新鮮だったのだろう。
好きなものが同じ人、というだけだから、上下関係もなく、お互い適度に気を使いながら、楽しむ。こんな人間関係の中で、年下の知人たちとのつきあい方を勉強していった。
会社人間だった自分が、仕事や年齢に関係なく、知人、友人を作るきっかけは間違いなく、mixiが作ってくれたと言える。
もうひとつ、mixiは、きっかけをくれたことがある。もしかしたら、こちらの方が大切かもしれない。
それは、距離感だ。知り合った相手と、どんな風に仲良くなるか。
趣味のオフ会だと、いろんなタイプの人がくる。仕切りたい人、知識をアピールしたい人、おとなしい人、あわよくば恋愛の相手を見つけたい人、などなど。
距離感の取り方も人それぞれだった。すぐに、繋がって仲良くなろうとする人、異性の連絡先ばかり聞く人、人見知りな人などなど。
これが勉強になった。普通に知り合うと、名刺を交換したり、連絡先を交換して、
「次飲みましょう」みたいな会話をする。でも、お互い忙しくて予定が合わず、疎遠になる。というようなのがありがちなパターンだろう。一方、オフ会の場合、自分が都合のいいときに参加することができる。何度か会ってから、仲良くなることもあった。逆に、最初親しかった人が、回を重ねることに印象が変わり、疎遠になるということもあった。
ほどよい距離感。行き違いやトラブルを経てわかったのは、そういうことだった。
こんなことを繰り返しているうちに、気がつくと、会社以外の居場所ができてきた。
そのうちに、特定のアーティストの曲オンリーのDJイベントがあることを知った。
それまで、DJイベントというと、オシャレな曲やあまり知らない曲がかかって、お客さんもクールでとっつきにくいという印象があった。常連になるまでは肩身が狭いんじゃないか。そんなことも思った。
だが、アーティスト縛りのイベントは違った。そこにいるみんなは、同じアーティストのファンだった。盛り上がるし、お客さんもDJさんもフレンドリーだった。何度か通ううちに知人も増えた。そして、ここでも、大切なのは、利害関係のなさと、ほどよい距離感が作れるか、ということだった。
「自分でも主催してみよう」
そう思うまで時間はかからなかった。
やったことのないイベントの準備は簡単ではなかったが、ここに、強い味方がいた。
カラオケオフやイベントで知り合った知人たちだった。
「一緒にやろう」というと、みんな「あなたが言うなら」と力を貸してくれた。SNSの告知。フライヤーまき。友人への誘い。
数ヶ月の間。学園祭でもやるように、みんなで考えた。
そして迎えたイベント当日。100人を超える人が来てくれた。
知らない人がほとんどだった。でも、みんな言うのだ。
「mixiを見てきました」と
「ずっと楽しみにしていました」と
「この日のために休みをとって、沖縄からきました」
そんな人もいた。
イベントは大盛況だった。5時の終了時間を迎えても
誰一人帰ろうとしないのだ。
やむなく、打ち上げにいった。50人を超える人が残ってくれた。
心から手伝ってくれたみんなに感謝した。
ハンドルネームしか知らない人たちと思いきりハグし、肩をたたきあった。
「勇気を出して手伝って本当によかった。家から出ることができた」
そんな若い人もいた。
知人が友人になった瞬間だったかもしれない。
オールナイト明けの電車で思った。
「会社の人間関係だけじゃダメだ。プライベートの居場所を作らないと」
あれから10年。いまだにハンドルネームしか知らない友人がいる。
でも、知人ではない。今なら言える、名前も知らないけど親友だ。
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