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メディアグランプリ

90歳年の離れた絆


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:門田彩(ライティング・ゼミ秋の集中コース)
 
 
祖母は、私が息子を産んだ2年前には、施設で生活するようになっていた。
一人で歩くのは困難になり、自分からは、ほとんど話をしないようになってしまった。
それまでも、多くを話す人ではなかったが、祖母はいつも祖父の愚痴で私たちを笑わせてくれた。服を手作りしていたこともある祖母は、私がファッションを見て「今はそうゆうのが流行っているの?」と言って、ファッション談義をしたこともあった。
祖父が亡くなった後、一人暮らしをしていた家で倒れてから、一人で生活できなくなり、施設に入った。
 
祖母が施設に入って間もなく、私は出産した。
子供を連れて電車で出かけられるようになると、すぐに、息子を連れて祖母に会いに行った。
ひ孫と初めて対面した祖母は、施設に入る前と同じような笑顔を見せた。
後になって母から聞いた話だが、この日「もう、いつ死んでもいい」と話し、涙を流して喜んでいたという。
 
生きる気力を失いかけている祖母を、元気にする力がこの子にはあるんだ。
そう思い、決して頻繁とは言えないが、数ヶ月に一度くらい、子供を連れて施設に行くようにした。
一人で歩けるようになり、自我が芽生えた1歳半くらいからだろうか、息子は祖母と少しコミュニケーションを取ると、わざわざ祖母から離れた場所で遊び始めるようになった。
祖母は、息子がいつも会う大人とは違う。自分がしたことを大げさに褒めてくれたり、いっしょにトミカで遊んでくれたりはしない。
コミュニケーションは、お互いに楽しみ合わないと成立しないのだから仕方ない。
と思いながらも、私は祖母に申し訳ない気がしていた。
そんな時は、息子が大好きなトミカを祖母の足元で、ママが遊んでいる姿を見せて誘導したりしていた。
祖母はというと、母に聞く限りは、変わらずひ孫が来ると喜び、普段見せない笑顔を見せているようだった。
ある日、「ひいおばあちゃんに会いに行くよ!」と言うと、「おばあちゃんがいい」と言い出した。子供は正直だ。祖母の前で、そんなことを言わないかヒヤヒヤした。
 
それからしばらく経った。
10月12日。
祖母の命は、もう長くないと連絡が入った。
「ひいおばあちゃん、救急車で病院に行ったんだって。だから、今日は病院に行くよ。」
いつもの施設に会いに行くわけではないことを伝えて、息子といっしょに病院に向かった。
病院に到着すると、病室には苦しそうにしている祖母。ひ孫が来ているのが分かると、微笑みながら、口を動かしていた。
息子はベッドの周りで一通りはしゃぐと、病室を出て行ってしまった。その後、「いっしょに病室に行こう」と何度誘っても一向に行こうとしない。
 
仕方なく飴をぶら下げることにした。
「もう一回ひいおばあちゃんに会いに行ったら、『働く車』を一つ買ってあげる。」
すると、すぐに病室に向かった。
病院の売店にトミカ(息子は『働く車』と呼ぶ)があり、それを彼は欲しがっていたのだ。「頑張れ!頑張れ!」と祖母の足をさすった。
そして、言った。
「『働く車』買いに行く!」
そうだ、そのために彼は病室に向かったのだ。
トミカを買う時に「ひいおばあちゃんに見せるんだよ!」と約束した。
これで、もう一回祖母に会わせることができる。
病室に戻ると、「救急車買った!」と喜んで祖母に話しかけていた。
祖母は苦しそうにしながらも、また口を動かしていた。
こんな日に不謹慎だと思って、ほかのトミカを勧めたが、譲らなかったのだ。
「ひいおばあちゃんに、また来るね、って言おうね。」
「また来るね」
そう言って帰路についた。
 
帰り道、今日買った救急車で遊びながら、「ひいおばあちゃん、救急車乗ったの?」
その声には羨ましさが含まれている。
そうだ、彼にとって、救急車は憧れの車だったことを、その時思い出した。
 
10月18日。
祖母が危篤だと連絡が入り、息子を連れて病室に駆けつけた。
たくさんの器具がつけられ、祖母はもうほとんど動かなくなっていた。
「きたよ!」
息子が声をかけると、祖母の口がわずかに動いた。
 
その一時間後、祖母は92年の生涯を終えた。
 
祖母の死亡確認が済み、付けられていた器具が次から次へとはずされていく。
息子は、なにか異変が起きていることに気づいたのか、
「寝てるの?」と言う。
私は「これからずっと寝てるんだよ」と言うことしかできなかった。
「なんで?」
それには答えることができなかった。
 
帰りがけ、息子は「また来るね。よしよしするね」と言って病室を出て行った。
 
祖母孝行らしいことをしたことは一度もない。
けれど、息子のおかげで、祖母孝行ができたような気がする。
 
今日も息子は病院で買った救急車で遊んでいる。
いつか息子がトミカを卒業する時がきたら、その救急車は、祖母の形見に私がもらうことにしようと、心に決めている。
 
 
 
 
***
 
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2019-10-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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