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「誰もが抱える時限爆弾」の取り扱い方


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:射手座右聴き(ライティング・ゼミ秋の9日間集中コース)
 
 
「会社を辞めたって、先輩は先輩です。『さん』づけはやめてください。
敬語もやめてください」
前職の後輩からこんなことを言われることがある。
しかし、私は、「さん」づけをやめない。絶対にやめないと決めている。
「他人行儀はいやだ」
「水くさい」
と言われても絶対にやめない。
後輩の後輩にも「さん」づけだ。
これには理由がある。
 
 
時限爆弾を抱えながら生きているからだ。それがフリーランスだ。
その爆弾は、一気に爆発するだけではない。じわじわと、毒が回ってくる感じもある。時限毒ガス、とも言える。
 
 
Webデザイナー、プログラマー、ライター、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイク、様々なフリーランスがいるが、誰もがこの爆弾を抱えているのだ。
年齢とともにじわじわと成長する爆弾だ。
 
 
この時限爆弾の存在に気づいたのは、フリーランスになったばかり、
44歳の時だった。
広告会社を辞めてフリーランスのコピーライターになった、
最初の月に、この時限爆弾がくすぶり始めた。
 
 
「会社を辞めても、今までの仕事をフリーランスで担当してほしい」
と言われていた。
「クライアントも、今までの広告作業を認めてくれているから、
この仕事で二年くらいは、食べていってね」
営業担当の先輩が言ってくれた。
が、しかし、その仕事は一ヶ月で終わったのだ。
 
 
得意先の人事異動が原因だった。得意先の担当者が、昇進したのだ。
めでたいことだ。いままでの広告作業が後押しをしていたとも考えられた。
が、しかし、担当者が変わったら、仕事がなくなったのだ。
 
 
いままでの施策を全部見直し、違う広告会社がやることになった。
新しい担当者は、前任者の部下だった。当然、一緒に仕事をしていくと思ったのに、その人からの信頼が得られていなかったのかもしれない。
 
 
そう。担当者と信頼関係があっても、移動する。下の人は上になる。
上だけ見ていたら、下の人と信頼関係はできない。
そうしたら、一気に作業がなくなる。
まさに時限爆弾だった。
 
 
ほかのクライアントを見回してみた。
そうだよな。どこの会社も、ある年代になれば、担当者は昇進した。
すると若い年代の担当者になった。
 
 
こちらは歳をとる。担当は若い年代になる。
時限爆弾はじわじわと、だがしっかりと効いてくる。
 
 
年代ギャップの時限爆弾については、ほかの人からも聞いた。
大御所と仕事をしていた別の会社の若手が、ふとこんなことを言った。
「あの人、まだ俺のことを、呼び捨てなんすよ。
もう何年も前に会社を辞めたのに。まあ、お世話になったから、いいっちゃいいんですけど。仕事以外の雑用とかを頼んでくるのは、ちょっとね。もう辞めた人なわけだから」
 
 
私は、ハッとした。そうだよな。会社を辞めたら、先輩後輩であっても、
発注元と受注先に、関係性が変わるよな。
しばらくして、大御所はその仕事を外れた。
 
 
2つのことに気づいた。
 
 
会社の上下関係は、会社のときのものなんだ。
後輩は、今は後輩でも、やがて決定権者になる可能性があるんだ。
 
 
そうか。フリーランスになったら、大切にすべきは、年下の人たちだ。
年上の人たちを軽んじる、ということではない。
もちろん、きちんと対応する。
しかし、年下の人たちへの態度は、ゆるくなりがちだ。
 
 
どうしても、キーマンと話をしたい気持ちになる。
若い人たちの意見よりも、キーマンの意見を尊重しがちだ。
 
 
そこに落とし穴がある。
 
 
若い人たちが、ミスをしたり、少し外した意見を言った時が大事だ。
丁寧に向き合えるかどうか。
 
 
少し上の世代の人たちを見ていると、ここで、邪険にしてしまったりしていることが多い気がした。そこを気をつけるだけでも、もっとコミュニケーションが取りやすくなるのではないだろうか。
彼らが成長したとき、「この人は信頼できる」と思ってもらえる可能性が
高くなるのではないか。
 
 
そう、時限爆弾の爆発をできるだけ延ばすには
「誰とでもきちんと向き合う」ことではないだろうか。
 
 
当たり前のことなのだが、会社組織にいると、
ついつい忘れてしまう向き合い方。
クライアント、先輩後輩、で上下関係をなんとなく感じてしまう。
ここから脱しなければならない。
 
 
私は、まず、前職の後輩のことを、「さん」づけにした。
在職中に、「くん」で呼んでいた人も、「さん」にした。
語尾も変えた。「だよ」から「ですよ」。
「わかった」から「わかりました」。
 
 
自分の経験から、難しいかなと思う仕事のことも、
まず、受け止めてやってみた。
相手が納得するまでやってみた。
 
 
頭ごなしに否定することをしないようにした。
「どう思いますか」と意見を求められたときだけ、経験値をシェアした。
決めつけはしないようにした。
 
 
後輩の中には、情に厚い人もいた。
「会社を辞めようが辞めまいが、先輩は先輩です」
などと言われた。
嬉しい気持ちもしたが、情よりも大切なものがあった。
 
 
それは、仕事をする上での敬意だ。
元身内の馴れ合いではなく、敬意だ。
 
 
それに気づいたら、周りへの敬意も自然にわいてきた。
クライアントへはもちろんのこと、協力会社の若手の人たちにも。
新人からベテランまで、言葉遣いは同じだった。
 
 
フリーランスには、年齢の壁がある。
という趣旨の本を書いたのは、人気漫画家の竹熊健太郎さんだ。
年齢とともに、仕事の発注元が引退し、若年化することで、
仕事が減っていくという。
 
 
そう。年齢の壁をなくすには、こちらが、年齢の壁をなくすのだ。
 
 
という意味では、フリーランス、いや、どの仕事でも、年齢の壁をなくす
努力は必要かもしれない。
 
 
今日も仕事関係の方を「○○さん」と呼び、敬意を払い仕事をする。
 
 
時限爆弾が少しでも延びればいいな。
せこいかな。
いや、でも敬意の大切さは、よーく身にしみたんですよ。

 
 
 
 
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2019-10-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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